第39話 天使じゃないよ!

 マドラーでかき混ぜて飲んでいると、祖母がやって来た。


 セルバスがセパレートティーを出すと、驚いた顔を向ける。


「まあ、素敵ね。これはセルバスが考えたの?」

「いいえ。これはヴィンセント様の提案で作った物です」


「なんて素晴らしいの!?ヴィンセントは本当に天才ね。いえ、こんなに可愛くて賢いなんて、天使じゃないかしら?」


 やめてー!マジで止めて下さい。

 下心で女子の好きな物を調べる男を、天使とか言わないで!


「お祖母様、僕なんかを天使なんて言ったら、女神様に失礼ですよ」

「そんな事はないわ!きっと女神様も、ヴィンセントなら天使になって欲しいと思ってるはずよ」


 いや、それは絶対にないと思う。


「恥ずかしいから止めて下さい。僕はお祖母様の孫で充分です」

「あらあら。ヴィンセントは本当に私を喜ばせる天才ね。私の元に遣わされた天使よ」


 またもふかふか攻撃に撃沈して、それ以上は言えなかった。


 落ち着いた所で、祖父との話し合いの内容を教えてくれた。

 祖父は僕に聞かせる話じゃないって言ってたのに、良いのかな?


 まぁ、ザックリ言うとピエールの教育は祖母がする事になったらしい。


 細かい取り決めもしたみたいだけど、伯父も伯母も口を出すなら、伯父の廃嫡も辞さないと言う事だそうな。


 フェルメーリオ侯爵家が介入しない様に、先に国王に根回ししておくんだって。


 まぁまだ子供だから、ピエールの矯正は出来るだろうけど、問題は大人である。

 特に伯母は難しいだろうね。


 そんな話をしてる内に出かける時間になった。


 予約しているレストランは、王都でも人気があって予約がなかなか出来ないんだって。


 あれ?でも出かけるのが決まったのって昨日だよね?


 シャガーリオ侯爵家が経営してるから、予約なしでもOKらしい。


 内壁の外に出るのは教会に行って以来だね。

 あ、大聖堂は平民も入れるんだから、内壁の外の外街そとまちにあるよ。


 と言うか、内壁にくっついてるかと思うような場所にあるよ。


 外街も用水路で区切られてて、そこから外壁側を更に下街と呼んでいるらしい。


 人口が増えるに従って、外へ外へと街が広がった名残で、元々農業用に流れていた川を利用して用水路に整備したんだって。


 上からみたら、一番高い北寄りに宮殿のある城壁があって、そこから南に膨らむ円を描くように内壁、用水路、外壁となってるから、鯉のぼりの目みたいな感じだね。


 城壁から放射状に伸びる大通りが東西南にあって、そこに繋がる道路が互い違いに通っているため、レンガを敷き詰めたような形に見えるだろう。


 区画整理された石造りの建物は、屋根の色がオレンジに統一されているため、余計にレンガブロックで造られた街のように感じる。


 但し迷路の様になっているから迷う人が多いため、案内人と言う職業まである。


 王都内に家を持つには市民権が必要で、市民権のない人は宿に泊まるか下宿するしかない。


 壁に囲まれた限られた街に余ってる土地はないのだそう。

 だからスラム街もないんだって。


 王都の北側は険しい山があり、通る事は出来ない。

 伝承では竜が住んでいる山で、建国の王が神竜と契約を交わして、守護竜となって王都を守ってくれているそうだ。


 七つの玉を集めたら願いが叶うとかじゃないよね?


 北側には教会とは別の神殿があり守護竜を奉っている。

 王族のみが神事を行い、守護を祈願しているとか。


 祖母も王族であった時は神事に参加してたみたい。

 神事は王家の秘密で、王族から外れる時に契約魔法で縛られるんだって。


 テンプレなら数十年に1度、王女が生け贄に…とかありそうだよね。


 その為なのか、宮殿の北側は全て立ち入り禁止になっている。

 外壁側も内壁側も壁で入れなくなっているらしい。


 宮殿の北側には離宮がいくつかあって、国王と王妃以外の王族が住んでる。

 今は側室が2人に、王太子の他に王子2人と王女2人が住んでるんだってさ。


 嫁に行った王女が3人と隣国に婿に行った王子が1人いるから、国王の子供は全部で9人らしい。


 ハーレムは男の夢かもしれないが、僕には縁のない話だよ。


 王太子も結婚してて、子供は男の子1人と女の子2人らしい。

 御披露目がまだだから、祖父母も会ったことはないんだって。


 祖父も側室の話しは沢山来てたけど、跡継ぎもいるし必要ないと全て突っぱねたらしいよ。


 それから王都の隣の領地を治める伯爵家に、嫁に行った末娘がいるんだって。


 僕にとっては叔母になる人で、僕と同じ歳の子供もいるから、仲良くしてあげてとか言われたけど、たぶん会えるのは御披露目をする7歳の時じゃないかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る