第36話 お泊まりしたよ!

 お泊まりしないかと引き留められたけど、いきなりで着替えも何にも用意してないと断った。


 そしたら何故か、僕のサイズの部屋着も外出着も揃ってる部屋が用意されていた。


 いつかお泊まりする事があるかと思って、用意してたとか言われたよ。

 もしお泊まりしなかったら勿体ないよね。


 そしてサイズがピッタリなのも怖いよ!


 どうやら母から情報を得ていた祖母の仕業らしい。


 結局、明日は授業のない休日だったから、お泊まりする事になったよ。


 セルバスがこうなる事を予測してたみたいで、先回りして我が家に連絡してあるとか外堀を埋められてたもの。


 いつもより少しだけ夜更かしして、祖母とお喋りをしたよ。


 先生は少し祖父と話をしてから帰ると言ってた。

 僕は先に寝たから、少しが何時になったのかは知らないが、カレンの怒りを解くなら早目に帰った方が良いと思ったよ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 おはようございます。

 今日は少し雲があるけれど晴れです。

 ちょっぴり寝坊したけど、夜更かししたから仕方がないよね。


 顔を洗って着替えたら、食堂へ連れて行かれた。


 祖母は既に席に着いてたから、慌てて謝る。

 でも侯爵家では朝は別々が当たり前で、祖母も普段なら部屋で食べてるんだって。


 どうやら祖父は昨日の仕事が溜まってたみたいで、朝早くから仕事らしい。


 お昼前に出掛けてレストランで昼食をしてから、ギルドに行く予定だと教えてくれたよ。


 それまでは、祖母とマッタリと過ごそうと言われた。


 食後の運動に裏庭を案内されたよ。

 裏庭と言っても前庭より広くて、珍しい他国の植物や巨大な温室もあるよ。


 ビニールハウスより大きな温室に驚いたよ。

 アーチ型の骨組みは、まるで船をひっくり返した様な形で、柱を使わないで屋根を支えている。


 外より湿度が高くて、日本の梅雨かと思う蒸し暑さだったよ。

 シダ植物などが自然な感じに植えられて、ジャングルに紛れ込んだみたいな錯覚をしたよ。


 中に池まであって、テレビで見た事のある大きな蓮の葉が浮かんでいたよ。


 今の僕なら乗れるね。

 いや、乗らないけど。


 乗らないつもりだったのに、温室を管理している庭師のお節介で乗せられちゃったけど…


 ついつい、はしゃいだのは5歳の身体に引き摺られただけだよ、ホントだよ。


 後は父が子馬を買ってくれる話しをしたら、厩舎にいる子馬はどうかと連れて行かれたよ。


 2頭いたんだけど、青鹿毛の子馬が人懐っこくて直ぐに近付いて来たけど、芦毛の子馬は人見知りするからって母馬の後ろに隠れちゃったよ。


 産まれて4ヶ月くらいで、すでに僕なら乗れそうな大きさだけど、調教が済んでないから触るだけにした。


 残念ながら、父のようにこの子だとは感じなかったけど、ニンジンをあげたり背中を撫でたりして満足した。


 最後は芦毛の子も近くに来てくれたよ。


 ゆっくり庭を回りながら戻ると、チラリと何かが視界を横切った。


 なんだろうと振り向いたら、突然背中に衝撃が走って、倒れかけた所をセルバスに抱き留められた。


「わっ!ありが…」

「出ていけ!」


 僕がセルバスにお礼を言いかけたのを遮るように、子供の甲高い声が聞こえた。


 なんだろうと顔を向けると、僕と同じか少し上くらいの男の子が、顔を真っ赤にして怒っている。


 誰?と呟いたのが聞こえたのか、更に怒り出した。


「誰だと?次期侯爵である父上の子である私を知らないのか!」


 知らんがな。

 紹介もされてないのに知ってたら、逆に怖いわ。


「ヴィンス、ごめんなさいね。大丈夫?どこも怪我はない?」

「ハイ、お祖母様。セルバスが支えてくれたので大丈夫です」


「全くピエールも礼儀知らずに育ってしまったものね。お祖父様に叱って貰いましょう」


「な、お祖母様、私は悪くありません!挨拶にも来ない礼儀知らずは、ソイツです」


 はぁ、何だかな…侯爵家の人間なら礼儀は守らないと、困るのは自分たちだって判らないのかな?


 こんな事を他の貴族の子供にしたら、大問題だよ。

 僕が大人だから子供のやる事と、寛容に許してるだけだよ。


「お初にお目にかかります。セザーニア伯爵家が長子ヴィンセント・ダン・セザーニアと申します。以後お見知りおき下さい」


 完璧な貴族の礼をする。

 大人らしく慇懃に挨拶をしてやったよ。


「な…」


 僕の完璧な挨拶に驚いたのか、ミニ伯父は口をパクパクさせている。


 バカ息子とのトラブルフラグをへし折るにはどうすれば良いのやら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る