第33話 ニヤニヤしてたよ!

 いかんな…前世ではスイーツにそれほど興味はなかったのに、何故か甘味の魅力に逆らえない。


 あっという間に無くなった皿の上を、未練がましく見つめる。


 ミュシャがすかさずお代わりを聞いてくるが、これ以上食べると夕飯が食べられなくなるから、断腸の思いで断った。


 オリバー先生が密かに笑っているのに気付いているよ。


「ミュシャとセルバスは出ておれ」

「「ハッ」」


 2人が出ていくまで祖父は難しい顔をしていたが、オリバー先生を見ると咳払いをする。


「ゴホン。お主がヴィンセントの家庭教師をしているのは聞いておったが、家族でもない者がステータスに関わるのは、越権行為ではないかね?」


「お言葉ですが、私は家庭教師として、教え子の相談に乗っただけです。ですから越権行為にはなりませんね」


 オリバー先生がニヤニヤしながら反論する。


「ならばステータスは、以外には秘密にしておくよう教えるのが、お主の役割ではないかね」


「私はそうは思いません。聡明な宰相であられる侯爵様ならば、ご存知であると思っておりましたが、貴族社会ではクラスによっては、を頼れない不幸が起きる事もございます。時には家族よりも信頼をおくを選ぶ事もございましょう」


「…なるほど。確かに時に愚かな貴族家では、その様な不幸があるやもしれん。だが我がシャガーリオ侯爵家においては、その限りではない。であれば、その様なはする必要もないであろう?」


「左様でございましたか。ヴィンセント様がお産まれになられてから、侯爵家の方が会いにこられた記憶がございませんでしたので、きちんとであると思われていたとは寡聞にも存じませんでした。まさか洗礼も祝福の儀もお祝いに来られないがいるとは思いもよらず、申し訳ございませんでした」


「ぐ…」


 おおぅ、宰相である祖父を言い負かすとは、先生って本当に研究とカレンさえ関わらなければ優秀なんだね。


 流石に気まずい雰囲気で実験をするのは勘弁してもらいたいので、何か気を逸らす方法はないものか…


「あの、お祖父様、お父様のお手紙には何と書いてあったのですか?」


「ん、あぁ、手紙にはその男に、ヴィンセントのクラスとスキルの実験を手伝わせると書いてあった」


「それだけですか?」

「ああ、それだけだ。そしてお前達の手紙も読んだが、その男が信用に足るかが判らんから試させて貰った」


 父よ、もう少し説明して下さいよ。

 祖父よ、その言い訳は少し苦しくないか?


「ルーベン様は相変わらず手紙が苦手のようですね。私の要望は手紙に書いた通りですので、後は侯爵様がお決めになるだけです」


 先生は何やら楽しそうですね。

 祖父の反応を研究するの止めて下さい。


「お祖父様、オリバー先生は信頼出来る人です。確かに、ちょっと変わっていますし、カレンに頭が上がりませんし、時々暴走して知識欲に囚われてしまいますが、約束は守りますよ」


「ちょ、ヴィンセント様!?カレンの事とか今は関係ないでしょう!?」


「ふはは。妻に頭が上がらぬとは、なるほどルーベンと気が合う訳よな。頭も回るし、の信頼も得ていると…」


 さっきから、家族とか孫とかやたらと強調してくるけど、そんな所で競争意識を持たないで欲しい。


「そうですね。お祖父様も、オリバー先生の取り扱いを覚えたら大丈夫です」


「ちょ、何ですか私の取り扱いって!」

「カレンに教えて貰いました!」

「カレンが?」


「オリバー先生が変な事をしたら、カレンに連絡すると言う簡単な技です!」

「ぎゃ~止めて下さい!部屋に入れて貰えなくなる!」


「それなら先生も、お祖父様の反応を見ながらニヤニヤしないで下さい」

「ニヤニヤなんてしてませんよ!」


「いえいえ。カレンがお茶を入れてるのを見てる時くらい、ニヤニヤしてましたよ?」

「それはヴィンセント様だから気付いただけです!」


「ほら、やっぱりニヤニヤしてたんじゃないですか」

「しまった!」


 これぞ、カレンの事になると思考が鈍くなる先生の弱点をつくと言う必殺技だよ。


「どうやら私の杞憂だったようだな」


 これで祖父もオリバー先生の性格が解っただろうし、話しが進むね。


 まぁほとんど手紙に書いてあったから、内容の確認と祖父の希望のすり合わせをしただけだよ。


 後は先生の依頼料と日程などの、必要な項目を決めて終わった。


 早速ギルドに依頼を出すように手配したよ。

 明日はギルドへ行って、依頼を受注した後に契約魔法をかけてから実験に入るよ。


 祖母はお茶会に招かれて留守だったので、ミュシャに手紙を託す。


 これで侯爵邸でやる事は終わったけど、夕食を食べて帰る事になったよ。

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