第32話 ノーブルだよ!

 何度見ても凄い豪邸と庭に緊張するよ。


 流石のオリバー先生も神経質に指で太ももを叩いている。

 いや、違う…何か聞こえる。


 ぶつぶつと魔木が○本、魔花が○種類とか数えてた…

 景観より木の種類とかに興味を示す所が、オリバー先生だよね。


 と言うか魔木とか魔花とかあるんだ…それって危なくないんだよね?


 魔力を多く含む植物だから、薬になったり燃えにくいとかの特性があるだけで、魔物みたいに人間を襲うのはトレント等の一部だけらしい。


 セルバスはいつもの笑顔でオリバー先生の事はスルーしてる。

 セルバスの笑顔は、ある意味無表情と同じだよ。


 セルバスは元々は侯爵邸で執事をしていたんだよね。


 父が伯爵として独立した時に、祖父がセルバスを付けてくれたらしい。


 新興貴族でいきなり伯爵になるのは滅多にないから、ベテランのセルバスが必要な設備や人材を集めて教育を施したんだって。


 噂では冒険者ランクも上から2番目のミスリルまで行ったとか。

 クラスは知らないけど、普通は執事になるなら文系職が多い。


 文系職でミスリルランクになれるなんて聞いた事もないよ。


 見た目が30歳くらいにしか見えないのに、ベテランとか言われてるし。

 40歳くらいのニーナが自分より年上のはずと言ってたから、年齢不詳にも程があるよね。


 この世界もエルフはお伽噺にしか出て来ないんだけど、エルフ疑惑が拭えない。


 水色の髪と金色の瞳の、線の細い美形なのもエルフっぽいイメージだしさ。


 それにドワーフや獣人はいるのに、エルフがいないなんて変だよね。

 前世にあった物と見た目や名前が似てたり、地球の知識と共通点が多すぎるからさ。


 でもまぁセルバスがエルフでもエルフでなくても構わないよ。

 ただ某黒い執事の方だったらドキドキしちゃう。

 セルバスはあくまで伯爵家の執事だよ。


 セルバスの謎について考えてる内に、祖父の執務室に着いてた。


 ミュシャの後に部屋に入ると、またも司令官ポーズでお出迎えだね。


「おお、よくきたな」

「お祖父様、ごきげんよう。昨日はお土産ありがとうございました。早速、干物を食べたのですが、とても美味しかったです!」


「そうか、それは何よりだ。また手に入ったら送ってやろう」

「ありがとうございます!」


「して、お主は確かシスレー男爵の嫡男だったかな?」

「はい。ご無沙汰しております。オリバー・ウィル・シスレーでございます」


「ルーベンの学友であったな。今はヴィンセントの家庭教師をしていると聞いている」

「はい。ルーベン様との縁で務めさせて頂いております」


「そうか。さて、とりあえず座りたまえ。要件はそれから聞こう」

「失礼します」


 祖父が侯爵モードなので口を挟めないよ。

 ソファーにオリバー先生と並んで、ちょこんと座る。


 祖父がちょっと寂しそうな顔をしたのが見えた。

 侍女がお茶を入れて下がると、お茶を頂く。


 ここでもアイスティーが出たよ。

 そう言えば今日から8月だから氷が出る目安なのかも。


 シロップがメイプルシロップだった。

 おお、転生後は初めてだな。


 前世では、アイスティーにメイプルシロップなんて入れた事がなかったけど美味しいね。


 一息ついた所で、セルバスに手紙を渡す。

 昨日は手紙を祖父に直接渡してしまったが、礼儀作法の授業で聞いたら、従者に渡して貰うのが正しいやり方だって言われたよ。


 家族なら直接渡しても構わないそうなので、昨日は家族モードだったと言う事で。


 今日は侯爵モードみたいなので、ここは出来る子をアピールしておこう。


 セルバスからミュシャに渡して、ミュシャがトレーに手紙とペーパーナイフを乗せて渡す。


 貴族って本当にめんどくさいね。


 祖父が手紙を読んでいる間に、お茶菓子を頂く。

 今日はシフォンケーキだ。

 生クリームと、ミルクポットみたいな陶器に入ったメイプルシロップが添えられている。


 まずは何も付けずに食べる。

 甘さ控えめのフワフワ食感が優しいね。


 次に生クリームをつけて食べる。

 ホイップの軽さは食感を損なわないから、相性抜群のこの組み合わせに間違いはない。


 次に初めてのメイプルシロップがけを食べる。

 さらっとした甘さはくどくなく、いくらでも食べられそうだ。


 そして最後は禁断の、フレッシュクリーム・オン・ザ・メイプルシロップ・イン・シフォンケーキだ。

 生クリームにコクが加わりシフォンケーキを更に引き立てる。


 これぞノーブル・スイーツだよ!

 貴族でないと出来ない贅沢がたまりません。


 テンションが上がって、苦手な英語で適当な事を言ってしまったが、後悔はしてない。

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