第29話 イチコロだよ!

 封蝋を溶かして手紙の真ん中に落とすと、スタンプをぐいっと押す。


 固まったら紋章がきちんと浮き上がってるのを確認する。


 キレイに出来ましたねと褒められた。

 もっと褒めて良いよ、褒められると伸びるタイプだよ~。


 スタンプをセルバスに返したら、ちょうど昼食の準備が出来たから食堂へ行く。


 どうやら父はとっくに帰って来てたみたいだけど、母のオハナシがあったみたい。


 若干ゲッソリしてる父を見て、心の中で合掌しておく。

 すまぬ、文句はアハンなお店に行った伯父に言って下さい。


「お父様、お疲れ様です」

「ルーベン様、ごきげんよう」

「…オリバー、ご機嫌に見えるかい?」

「ルーベン様…いくら親しき仲でもご挨拶くらいはして下さいませ」


 母の機嫌は斜めのままだね。

 まさか、父もあの店に行った事があるのか!?

 なんてうらやまけしからん!


「ああ、すまない。オリバー、久しぶりだね。元気だったかい?」

「ええ、おかげさまで元気ですよ」


 ふふふ、あははと、わざとらしい笑い声をあげる2人は、妻に弱いところが類友だよね。


 2人とも顔色が悪いよ?


 一頻りジャレた後で、食事に手を付ける。


 今日はサンドイッチの中に、ツナマヨ風の具が入っている。


 僕の適当な料理方法をアレンジして使うとは、流石は料理長だよ。


 マヨネーズとは違うけどクリーミーなこれは、チーズかな?

 意外と魚とチーズは合うね。


 デザートはショコーラだった。

 お土産の消費速度が半端ないね。


 さてと漸く父に祖父からの手紙を渡す。

 読んでる父を放っておいて、母とオリバー先生はショコーラ談義を始める。


 王都のショコーラ取扱店や、ショコーラを使ったお菓子の情報など、先生の女子力高いね。


 どうやら先生は週刊◯◯の様なゴシップ誌を定期購読してて、そこからの情報みたい。

 今は劇団の歌姫と何やら男爵がどうたらと話しているよ。


 一応僕は子供なんだから、そういう話をするのは如何なものかな?


 まぁ歌姫や娼婦のパトロンになるのは、貴族あるあるだからね。


 金持ちが愛人を囲うとかは、一夫一婦制の日本でもある事だから、そんな人はどこにでもいるって事だよ。


 父が時々ピクピクしてるのを目の端で見ながら、ショコーラをゆっくり味わう。


 手紙を読み終わった父が、僕とオリバー先生を書斎に呼ぶ。


 ふむ、男同士の話だね?

 あのお店の情報とか…なんてね。


 書斎のソファーに座ると、セルバスが紅茶を持って来た。

 おお~氷だ。

 暑くなってきたから、氷屋が売りに来たんだって。


 セルバスにシロップたっぷりとリクエストすると、更にリンゴに似たアプルの薄切りを入れてかき混ぜてから渡される。


 何故かストローがないんだよね。

 地球でも昔は麦の茎を使ってたらしいから、この世界でもありそうなのにね。


「さて、オリバーはヴィンセントのクラスについて聞いているか?」

「もちろん聞きましたよ」


「ならば話は早い。父上からヴィンセントのクラスについて調べる様に言われたのだが、私は殿下の護衛で忙しい。だからお前が代わりにしてくれると助かる」


「なるほど。要するに、私に丸投げですね?」

「丸投げと言うが、こう言うのはお前も好きだろう?本当は私も一緒にしてやりたいが、帰るのも不規則だし、呼び出されたら例え休日であっても行かねばならんからな」


「ハイハイ。そう言う事にしておきますよ。では依頼と言うことでギルドを通して貰えますか?」


「ちゃっかりしているな。どうせヴィンセントと一緒に既に研究しているクセに」

「それはそれ、これはこれ、ですよ」


「まぁ良い。どうせ父上が関わるなら、ギルドを通す事になるからな」

「なら、私達の手紙も侯爵様にお渡しするので、貴方の手紙もヴィンセント様にお預け下さい」


「相変わらず用意周到だな」

「お褒めに預かり光栄の至り」


 何か知らない内にトントン拍子に決まったみたいな?


 あ、祖母にも手紙を書いて貰わなきゃ。

 凄く嫌そうな顔をされたけど、お祖母様とお約束したのにガッカリされちゃうって、涙目で言えばイチコロだよね。


 父が手紙を書いてる間にどういう事か聞いてみた。


 祖父が予算を出すから、秘密が守れる人に僕のクラスを調べさせると言う事で、白羽の矢を立てたのがオリバー先生と言う事だって。


 さっき言ってた契約魔法は、ギルドを介して行われるのが一般的らしい。


 ギルドに依頼として出して貰って、先生が受注するとギルドポイントも貯まるし報酬も確実だしで一石二鳥いや三鳥なんだって。

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