第17話 デンジャラスだよ!
祖父は執務室で待っていた。
いや待ち構えていた、だな。
あの司令官のように、机に肘をついて顎の前で手を組んで、眼鏡が光ってそうな格好で待ってたよ。
眼鏡はかけてないけど。
銀髪は後ろに撫で付けられ、碧眼は鋭く切れ上がってて、イケオジなんだけど怒ってるみたいな顔だね。
「父上、ヴィンセントを連れて参りました!」
伯父はなぜそんな、やってやったぜ!って感じなんだろう?
ピクリと祖父の手が震えるのが見えた。
「そうか。で?何故クラウディアが一緒なのだ」
「あらら、貴方ったら、本当に解りませんの?」
ピクピクと祖父の唇が引き攣る。
「私が呼んだのは、ヴィンセントだけのはずだが?」
「まぁ、貴方ったら酷いわ!私がヴィンセントに会いたいと思っていたのを、知っているでしょう?私が誘ってもルーベンの家へ行こうともせず、なのにご自分だけ会おうとするなんて!しかも、オーギュストには伝えていると言う事は、私だけ仲間外れにしていたのでしょう?」
「いや、その、用事が済めばクラウディアにも会わせるつもりでいたのだ。それにオーギュストは次期当主であるから、顔を合わせておこうと…」
「そんな事は知りません!私に黙っていたのが許せないのです」
感情論に理屈は通じないよね。
恐い顔をしてた祖父が、一転して情けない顔で言い訳するとは。
またまた先ほどの、伯父と祖母のやり取りを焼き直したようなシーンが繰り広げられる。
最後に折れるのは祖父だと確信したよ。
思った通りの展開で、自己紹介も終えてソファーに皆で座り、侍女がお茶を入れてくれたよ。
「お祖父様改めまして、お父様から預かってきましたお手紙です」
僕が出した手紙を手に取ると、ミュシャがすかさずペーパーナイフを渡す。
封を切って読んでいる祖父の顔は、普通にしてても恐いね。
父が僕に不利な事を書くはずもないから、お茶を飲んで待つか。
「そう言えば私にはお手紙はないの?」
「いえ、その、お父様からは、お祖父様にお渡しする分しか預かっていません」
「まぁ、本当にあの子ったら気が利かないわね」
「申し訳ありません。その、今度はお祖母様にも書いて貰いますね」
「まぁまぁ、やはりヴィンセントは優しくて可愛いわ」
「ひゃっ」
お祖母様に肩を抱かれて頬擦りされてしまった。
5歳児とはいえ中身は大人なので、初対面に近い人の頬擦りは心臓に悪い。
しかも伯父の年齢的に50歳前後のはずの祖母は、見た目は前世の僕と変わらない年齢の美人だから、妙にドキドキしてしまうよ。
もう一度言うが、僕は決して熟女好きではない。
「母上、はしたないですよ!子供とは言え、その様な真似をなさるとは!もう良い歳なんだから、少しは落ち着いたらどうなんです?」
おい、女性に歳の話しはタブーだぞ!
なんてデンジャラスな男なんだ。
「オーギュスト…」
非常に冷たい声に、呼ばれた本人以外もビクッとしてる。
祖父も手紙から顔を上げて祖母を見てるけど、声をかける事も出来ないみたい。
「あ、いえ、その、母上は大変お美しいですが、孫もいらっしゃる年齢ですし、抱き着いたり頬擦りするのは上品ではないと言うか礼儀的にいけないのではと…」
「言いたい事は、それだけですか?」
何故もう一度年齢について言ったのか…伯父はバカなの?
「貴方に礼儀を諭されるとは思いませんでした。そう、抱き着いたり頬擦りは下品なのですか…そうそう、下品と言えば、王都には"夜鳥の宿"と言うお店があるそうですわね?とってもお上品なお店だとか?」
「な、な、何故母上がその店の事を?」
「あら?私にも色んな事を教えて下さるお友達がいるのよ?どうやらオーギュストもよく知ってるみたいね?」
「いや、その、私も噂で聞いただけです」
「あら、そう?そのお友達は、若い男性なら誰もが行くと仰っていたわよ?確かシンシアと言う歌姫が大人気らしいですわね?」
「ししし、知りません!そのような女」
焦り過ぎだよ。墓穴を掘るタイプなの?
「そう、良かったわ。オーギュストは、私に、礼儀や品格を説くような立派な息子ですものね?その様なお店や歌姫など、知るはずはありませんよね?」
「そ、そうですとも!私は知りませんとも。ええ、きっと、そのお友達とやらが勘違いしているのですよ!」
「なら良かったわ。そのお店から侯爵家の隠し子などが出てきたら、どうなるかわからないですもの。ねえエドヴァルド様?」
「お、おう。そうだな。私もその様な店は知らぬが、隠し子など以ての外だ」
どうやら夜鳥の宿とは、祖父も知ってるくらい有名なそう言うお店みたいだな。
前世でお世話になったマッサージ店より、高度なサービスが受けられるのかな…
いやいや、この世界の衛生観念や医療技術がわからないから、病気のリスクが高い内は行けないな。
あ、その前に僕5歳だったわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます