第16話 ギャップ萌えだよ!

 祖母に似た鈍色の髪を短く刈り上げ、瞳は父より明るい紫色で、ガタイの良い長身は騎士と言われたら納得するような男だった。


 慌てて立ち上がって挨拶をしようとする前に男が怒鳴る。


「母上!ここに居たのですね!父上をお待たせてしているのに、そこの子供と何をしているのですか!」


「まぁ、オーギュストったら何ですか。ノックもせず失礼ですよ」


「失礼なのは、そこの子供でしょう?!父上を待たせておいて菓子を食べるとは、ルーベンはどんな教育をしているんだ!」


「失礼なのは貴方ですよオーギュスト。見ての通り、私がヴィンセントをお茶に誘ったのです。それを礼儀知らずにも程があります。先ずノックもしない、挨拶もしない、自己紹介もしない、そんな教育を私もした覚えはありません。だいたい貴方はいつもそうです…」


 怒涛のように喋る祖母に、伯父らしき男はタジタジだね。


 僕は成り行きを見守る事にして、もう一つショコーラを口に入れる。


 旨いな~紅茶もミルクの優しい甘さがショコーラに合うよ。


 そんな感じで現実逃避をしていたら、どうやら決着がついたようで、伯父らしき男が負けを認めたみたいだね。


「ごめんなさいね、ヴィンセント。この子は私の息子で貴方のお父様の兄であるオーギュストよ。オーギュスト、ご挨拶しなさい」


 いや、目下の僕から挨拶するべきじゃあ?


「ふん。…私がシャガーリオ侯爵家次期当主のオーギュスト・フォン・シャガーリオだ」


 メチャメチャ嫌そう+偉そうな自己紹介をありがとう。


「お初にお目にかかります。セザーニア伯爵家が長子ヴィンセント・ダン・セザーニアです。伯父上にお会い出来て光栄です」


 またしても右手を胸に当て足を後ろに下げる貴族の礼をする。


「まぁ、本当に礼儀正しくて可愛い甥で良かったわね、オーギュスト」


 おっふ、祖母の嫌味が酷い。

 苦虫を100匹くらい噛み潰したような顔の伯父に、吹き出しそうになったよ。


 5歳の甥より礼儀がなっていないなんて、大人として恥ずかしいよね~。


「それではお祖母様、お名残惜しいですが、お祖父様をお待たせしているようなので、ここで失礼させて頂きます」


「そうね。あまり待たせて拗ねても面倒だから、私も一緒に行きましょう」


 侯爵様に面倒とか言えるのは、元王女様のお祖母様くらいかもね。


「母上は行かれる必要はありませんよ」


 とっても嫌そうだね。


「あら、私に知られると不味い事でもあるのかしら?」

「そうではありません!その、母上がおられると、話しがややこしくなるでしょう?」


 さっきから甥の前でぶっちゃけ過ぎだよね。

 これが次期侯爵で大丈夫なのかな?


 ほら貴族って建前が大事で、足を掬われないよう、感情を出さないように礼儀作法の先生に教えられるからさ。


 5歳児ですら厳しく教えられるのに、大人の伯父が感情豊かに叫ぶのは如何なものかな?


 まぁ祖母も感情豊かだから、侯爵家では普通なのかもね。

 父も家族の前では感情豊かだし。


 でも伯父みたいに、他人のいる前で叫ぶような真似はしないよね。

 仕事モードの時は、美貌も相まって冷徹に見える程の無表情だよ。


 初めて仕事モードの父を見た時は、チビるかと思ったもの。

 プライベートではデレデレなので、母的にはギャップ萌えみたいだけど。


 だから伯父も仕事の時はきちんとしてるのかも?

 とりあえず伯父は祖母に勝てないのは理解したよ。


 結局、一緒に行くことになった祖母に手を引かれて部屋を出る。


 外から見たら3階に当たるフロアが、応接室がある対外的な場所になってるみたい。


 階段のあるホールから見て右側が侯爵家のプライベート用の棟で、左側が応接室や遊戯室にサロン等がある社交用の棟なんだって。


 お客様が泊まる客室も左側にあって、最上階は6階で王族も泊まれるような部屋なんだとか。


 王族にそんなに階段を上らせるの?

 へぇ~エレベーターがあるんだ?


 前世で聞いた事があるんだけど、海外では要人は何かあったらすぐ逃げられる、低い階に泊まるとか言ってた気がする。


 レベルや魔法がある世界だから、屋上から飛び降りても大丈夫とか?

 あ、部屋に設置された魔法陣で転移するのね。


 転移先は泊まる時に設定するから、毎回どこにするのかは知らないため、待ち伏せも難しいんだ。


 前世より魔法技術が凄いな。

 ファンタジー恐ろしい子。

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