第13話 配達したよ!
コンコンコン。
「旦那様、ヴィンセント様をお連れしました」
カレンが書斎のドアをノックして入室の許可を貰う。
「入れ」
「失礼します。お父様、少しお時間よろしいでしょうか」
「ああ、大丈夫だよ。ヴィンセントおいで」
今はプライベートモードだね。
仕事してる時と声の調子が違うよ、
「ハイ。お母様からお手紙を頼まれて持って来ました」
近付いて持っていた封筒を渡す。
「リゼットからの手紙か」
嬉しそうだね~。
「ハイ。僕がお届けするので、お返事もお願いします」
「そうか、もしかしてお使いのためかい?」
「そうなんです。お母様にご協力して頂いて、僕の出来る事を探しています」
「なるほど…そうか、ならば私も協力しないといけないな」
「ありがとうございます」
「では返事を書くから、座って待っていなさい」
「ハイ」
小さなソファーとテーブルがある一角で座って待つ。
机に座って手紙を読んでる父の、だらしなく緩んだ表情を見ているのもアレなので、書棚の本を眺める。
革の表紙で豪華な金箔で装飾された本や、羊皮紙を丸めて紐で綴じた物など、博物館でしか見ないような書物が普通に置かれてる。
最近は植物紙が主流で、かなり安くなってきたとオリバー先生が言ってた。
活版印刷らしき物もあるようで、まだ生産量は少ないが、これからもっと安くなると先生の意気込みが凄かった。
今は金貨が必要だけど、いずれもっと安くなれば買いまくるってさ。
まだ貨幣については習っていないから、どれくらいの価値があるかも知らないんだよね。
お使いに必要になるだろうから、聞いておかないとだな。
「ヴィンセント」
ハッとして父を見ると、いつもの涼しげな表情に戻っている。
「お返事書けましたか?」
「ああ、これをリゼットに渡してくれ」
なんだか高そうな封筒だね。
透かしが入ってるし、金箔も使われてるよ?
お使いで家族に出す紙じゃないと思う。
「ハイ。お母様に渡して来ます」
でもツッコミはしないよ。
きっと惚気が返って来るだけだから。
一応ステータスで経験値を確認するが、お使いが完了していないせいか変わりはない。
「それではお父様、失礼します」
「ああ、また夕食の時にな」
「ハイ」
今日は一緒に食べるんだね。
きっとお母様が手紙を読んだ時の様子を聞くつもりだよ。
部屋を出てからカレンに見つからないように、こそっと手紙をお財布に入れる。
母の手紙を入れた時と変わらないな。
"手紙1"と出るだけで宛先も送り主もないから、複数の手紙を預かるとどうなるか知りたくなるね。
母の部屋に着いて、カレンがノックしてる後ろで手紙を取り出したら、ニーナがドアを開けてくれた。
「リゼット様、ヴィンセント様ですよ」
「ヴィンスこちらへ来て」
待ち構えていたよう、って父が帰ったのは母にも連絡が行っただろうから、僕が来るのはわかってたよね。
「ハイ、お母様。お手紙です」
「ありがとうヴィンス」
抱き締めて頬にキスのサービス付きだよ。
よっぽど父からの手紙が嬉しいんだね。
ペーパーナイフで丁寧に開けた手紙を読んでる母は、恋する乙女の顔をしているよ。
確かに結婚すると、夫婦で手紙をやり取りする機会も減るよね。
特に父は王族警護が仕事だから、視察で王都の外に出ても手紙を出す事もしない。
情報漏洩もあるし、24時間警護してたら時間も取れないよね。
王族警護は大変そうだと想像しながら、ステータスの確認をする。
レベルの数値が1上がってるのは、朝のお使いと同じだね。
経験値はクラスとスキルが2ずつ上がってる。
これはやはり、お使いの内容で経験値が変わるのかな?
スキルも使わないと経験値が入らないみたいだし、まだまだ実験は必要だね。
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