第12話 ツンが出たよ!

 母の部屋を出て、何気なく応接室の方へ向かう。

 ニーナが着いて来ようとしたが断ったよ。


 ドアの前で、カレンが何やら難しい顔をしているのを見つけて立ち止まる。


 僕の視線を感じたのか、こちらを見たカレンが慌てて近付いて来る。


「カレンどうしたの?」

「ヴィンセント様。あの、オリバー様はお世話の必要もありませんし、お部屋までお供致します」


 何だかやけに顔が赤いけど、大丈夫かな?


「顔が赤いけど、熱があるんじゃない?もし体調が悪いなら、オリバー先生と帰っていいよ」


「いえ、だ、大丈夫です。体調も問題ありません。ほら、お部屋に戻りますよ」


 こんなカレンは珍しいな。

 凄い動揺してるね。


 ふふ、僕も大人だった事があるから、オリバー先生と何かあったと気付いてるよ?

 でも、子供だから知らないフリをしてあげよう。


「でも、大丈夫には見えないよ?顔も赤いし…そうだオリバー先生に聞いてみるよ!」

「ヴィンセント様、駄目です!」


 応接室の方へ行こうとしたら、手を掴まれた。

 あイタタ、幼児なんだから手加減してよ。


 これ以上は僕の方がダメージを負いそうなので、揶揄うのはこの辺にしておくか。


「わかったよ。僕は1人でも部屋に戻れるから、着いてこなくていいよ」

「いいえ、主人を1人には出来ません」


「大丈夫だって。だからカレンはオリバー先生とラブラブしてても、黙っててあげるから」

「ら、ら、ら…」


 ラブソング?

 いや揶揄うのを止めるつもりだったけど、真面目なカレンを見るとついね。


「ラブラブなんてしてません!」

「冗談だよ。カレンは公私混同なんてしないからね。でもオリバー先生はカレンが側にいる方が嬉しいんじゃないかな?」


「そうそう。ヴィンセント様はよく解ってますね!」

「きゃっ、オリバー様!?」


「あはは、部屋の前で騒いでるから聞こえちゃったよ」


 僕の方からだと、オリバー先生がドアを開けたのが見えてたけど、カレンは背を向けてたからビックリしたみたいだね。


 可愛い悲鳴に先生がニヤニヤしてるよ。


「オリバー様、何か御用でしょうか」


 ありゃ、オリバー先生を見た途端にツンが発動したよ。


「カレンの声が聞こえたから、何かと思って見に来ただけですよ?」


「それは申し訳ございません」

「ラブラブがどうとか?」

「な、そ、そんな事は言っておりません!」


 そんなに動揺してたら誤魔化せないよね。


「そうかい?私はいつでもカレンとラブラブしたいけどね。さっきのカレンも可愛かったし」


 イケメンはウインクも様になるね。


「オリバー様は、お帰りだそうですので、マシューに夕飯は要らないと伝えて参ります」


 おぅ、流石にやり過ぎたのか、カレンがお怒りモードになってしまった。


 こうなったら、僕にはどうする事も出来ないので、撤退するしかない。


「それじゃあ、カレンはオリバー先生をお見送りしてあげてね。僕は1人で大丈夫だから」


「承知致しました。それではオリバー様、どうぞこちらへ」

「いや、ヴィンセント様、待って下さい!私はまだ帰らないよ。あ、ちょっと、それだけは許して…」


 何かを耳元で囁かれて、引きずられる様に連れて行かれた先生に合掌しておく。


 父が帰って来るまでの暇潰しも出来たし、部屋で寛ぐかな。


 転生してから、子供の身体に釣られてるのか、悪戯がしたくなる時があるのさ。


 それから部屋で暫しマッタリして、今日出された課題をしていると、カレンが来て父が帰ったと教えてくれた。


「ヴィンセント様、オリバー様がご迷惑をおかけしました。今後は夕食は用意しなくて構いませんので、お気遣い頂かないよう、お願い致します」


 カレンのお怒りは全く解けていなかった!


「わかったよ。でも先生が望めば、夕食を食べて帰ってもいいからね」

「ありがとうございます。でもオリバー様は暫くは忙しいので、お気遣いは必要ありません」


 うん、やっぱり悪戯はほどほどにしておくよ。

 夫婦喧嘩は犬も食わないと言うから、きっとデレ期がくれば元に戻るさ。

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