第8話 先生が来たよ!

 次の実験の内容を考えていると、セルバスから先生が到着したと連絡が来たよ。


「おはようございます。ヴィンセント様」

「おはようございます。オリバー先生」


 オリバー先生が定位置に座ると、カレンが紅茶を出す。


「セザーニア邸のお茶は、いつも美味しいですね」

「ありがとうございます。僕もカレンが淹れる紅茶が好きです」

「ふふ、そうですね。私もカレンのお茶大好きです」


 シレッと惚気やがったよこの人。

 オリバー先生はシスレー男爵家の嫡男で、カレンの旦那さんだ。


 早速、課題を見せると、オリバー先生が添削する。

 テストの採点は幾つになってもドキドキするね。


 まだ5歳だけど、大人の時の記憶に資格試験の経験があるからさ。


「よく書けていますね。貴族であればサインをする機会は多いですから、名前を美しく書く事は必須です。これからも練習は続けて下さい」

「ハイ。オリバー先生」


「まずは、おさらいからですね。祝福の儀とは何ですか?」

「女神ルミナマイア様の祝福でクラスを授けられる事です」


 それから一通り、祝福の儀の前に習った内容を話して、おさらいが終了した。


「よく覚えていましたね。少し休憩にしましょう」

「わかりました」


 子供だから集中力が続かないと思われてて、頻繁に休憩が入るんだよね。


 いや、この人の場合はカレンに会いたいと言う下心の可能性もあるな。


 チリンチリンと呼び鈴を振ると、カレンが来てお茶を淹れ直して、お菓子を置いて行く。


 やたらニコニコしてる先生をジト目で見る。

 カレンが出ていくと残念そうな顔になるから、わかりやすいよね。


 前にカレンがお茶を淹れてる時に話しかけて、公私混同するなと怒られてからは見るだけにしてるけど、結婚してなきゃセクハラ案件だよ。


 ポロポロ崩れるクッキーを上品に食べるのは、子供の小さな口では難しい。


 どうしても、口の回りに着いてしまう。

 ナフキンで拭う時も、ゴシゴシしないようにスッと上品にする。


 紅茶を飲んで、一息ついてから思い出す。


 そうだ、先生にステータスの事を聞いてみよう。


「オリバー先生。聞きたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

「はい、何ですか?カレンの可愛い所でしたら、いくら主人とは言え教えられませんよ?」


 いや、何言ってんのこの人?


「いや、ステータスの事です」

「そうですか…では聞きましょう」


 なんで残念そうなのさ。

 やっぱり惚気を言いたかったのか。


「その、ステータスの項目って、押すと説明と言うか違う表示が出るでしょう?」

「違う表示とは何ですか?」


「え?先生も知りませんか?例えば僕の名前を押すと、セザーニア伯爵家長男と出たり、年齢の横に生年月日が出たりします」


「そんな話しは聞いた事がありませんね。ステータスを押すとはどういう事ですか?ステータスに触る事は出来ないでしょう?」


 クリックの代わりの表現がわからなくて、頭の中でステータスを押すと言うのが、先生には理解出来ないみたいで説明が難しい。


 でも先生は僕の言葉を端から否定しないで、色々やってくれてるみたい。

 空中を指で押したりして唸っている。


 でも直接押しても突き抜けるだけだし、どう説明するかな。


「そうだ。こんな感じで、頭の中でステータスの項目を押すイメージです」


 本を開いて、見出しを指先でトンと叩いてみる。


「なるほど。やってみましょう」


 また唸りながら目の前を睨んでる。


「おおお?出ました!確かにシスレー男爵家次男となっていますね」


 あれ?先生って嫡男なのに次男なの?


「あぁ、私の兄は2歳の時に神に取り上げられたのです」


「そうなんですか…」

「まぁ私も産まれたばかりで兄の想い出もありませんから、そんなに悲しい顔をしなくていいですよ」


 こう言う時に何を言えばいいのか判らない。

 日本人的なお悔やみの言葉は、こちらでは通じないだろうし…


「こう言う時は、"神の元で、旅立つ準備が整う事をお祈りします"と言えば良いのです」


「神の元で、旅立つ準備が整う事をお祈りします」


 神に取り上げられた子供は、次の両親の元へ旅立つ準備をするんだとか。

 早く旅立つ事が出来れば、また出会う事もあるからと、皆でお祈りするんだって。


 転生した僕も生まれ変わりは否定出来ないから、この世界では本当に転生して出会う事もあるかもしれないね。

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