第6話 馴れ初めを聞いたよ!

 母と2人だけで静かに食事をする。

 今日は牛に似てるけど、角が3本もあるトリプルホーンカウと言う、魔物のステーキだよ。


 食べてる時は喋らないし、手を止めて話してるとマナーを守る事に必死な僕は、食べ終わるまで時間がかかり過ぎるから黙ってしまう。


 時々失敗してカチャカチャと音を鳴らしてしまうが、5歳児の手はまだまだ小さくてカトラリーが持ちにくいんだよね。


 母がお手本を見せるように、ゆっくりとカトラリーを使うのを見ながら頑張ったよ。


 何とかデザートまで漕ぎ着けたけど、貴族ってホントにめんどくさい。


 でもスイーツなんて平民だとなかなか食べられないから、やっぱり貴族で良かったのかも。


 地球に比べたら洗練されていないが、貴重な砂糖を使ったお菓子は僕の心の栄養だよ。


「ヴィンスは、上手にカトラリーが使えるようになりましたね」


「いえ、僕なんてまだまだです。お母様やお父様みたいに、美しく食べられるようになるでしょうか?」


「ふふ。私もヴィンスと同じ歳の頃は、礼儀作法の先生に怒られてばかりでしたよ」


 食事も終わったからか、僕を愛称で呼ぶ母は少女のように悪戯っぽく笑う。


「お父様は出会った頃からお上手で、私も婚約者として恥ずかしくないように頑張ったのよ」


 ここでも惚気てくる母は、政略結婚が多い貴族の中でも珍しく、恋愛結婚なんだよね。


 お茶会で会った時にお互いに一目惚れして、両親に速攻でお願いしたんだとさ。


 でもシャガーリオ侯爵は、父のクラスならもっと条件の良い令嬢と婚約出来るからと、猛反対したらしい。


 宰相になったばかりで、地盤を固めるなら政略結婚は有効な手段だもんね。


 なんなら王女様との婚約も可能だったそうだ。

 ちょうど年回りの近い王女がいたけど、血が近いから王家からの打診はなかったが、その気になれば可能だったみたい。


 父の母、つまり僕の祖母が元王女様なんだって。

 現国王と祖母は腹違いの兄妹になるから、父と王太子は従兄弟同士になるらしい。


 その王女も王太子とは腹違いだから、なかなか王家もややこしいよね。


 母の父は辺境伯の領地で代官を勤める子爵だから、王都では影響力を持たない人物だった。


 でも父は、何のしがらみもない貴族の方が、自分のクラスや侯爵の地位を利用する事もないしと、説得したらしい。


 辺境伯も質実剛健を絵に描いたような人で、態々王都まで母の婚約を後押ししに来てくれたんだってさ。


 最後は父が駆け落ちする覚悟で、辺境伯の養子になってでも母と婚約するって言って、侯爵が折れたらしい。


 どうやら祖母が全面的に協力して、養子縁組の準備までしたのがトドメになったんだって。


 息子の駆け落ちをサポートするとか、なんだか凄い元王女様だよ。


 お父様がカッコ良かったって、ちょこちょこ母の惚気が入るけど、それより祖母の事が気になるよ。


 それから辺境では、魔物の襲撃や他国の侵略を一緒に乗り越えて来たから、仲間の絆が凄く強いんだって。


 僕は一度も辺境に行った事はないけど、洗礼が終わった後にお祖父ちゃん達が会いに来てくれたよ。


 その時はあまり辺境を離れる事は出来ないからと、トンボ返りで戻って行ったけど、僕が産まれた事を祝ってくれて嬉しかったよ。


 オルトロスと言う魔物の牙で作ったお守りを貰ったよ。

 牙だけで5cmもあるから、そんな魔物がいる辺境が怖いと思ったけどさ。


 母は辺境で育ったせいか、父よりも大胆な所があって、お父様には内緒よと言いながら一緒に庭の芝生に寝転んだりしてくれる。


 それに辺境だとクラスなんか関係なく、皆が戦えるよう鍛えるから、王都ほどクラス差別がないんだって。


 もし侯爵様が廃嫡して追い出せとか言ったら、辺境のお祖父ちゃんの所に行くのも良いかもなぁ。


 魔物は怖いけど。

 よく考えたら、チートを貰っても平和な日本で育った記憶のある僕に、魔物を倒すなんてヘヴィな話しだったよ。


 のんびりお使いをするくらいが丁度いいのかも。


 そうだ、明日は何かお使いを頼まれてみよう!

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