第2話 教会に来たよ!

 教会は前世なら世界遺産になっていそうな、尖塔がある荘厳な建物だった。


 ここが王都の教会本部だから、この国で一番大きいんだ。


 平民は他の小さな教会に行くから、貴族専用みたいになってるけど、別に平民は本部に来ちゃいけないルールはないよ。


 ただ、あまりにも立派な建物に気後れするみたい。


 もちろん今の僕は貴族の一員なので、心の中ではビビリながらも堂々と入って行くのさ。


 まぁ、我が伯爵家も元日本人の僕からしたら、大邸宅なので慣れたのもあるけど。


 祝福の儀で他の貴族に会う可能性もあるから、恥をかかないために家庭教師から礼儀作法を教えられたよ。


 中に入ると、天井にフレスコ画みたいな感じの絵が描かれているホールになっている。


 壁際には色んな石膏像が飾られている。


 入り口のすぐ側にいる人に、セルバスが何やら袋を渡しているよ。


 予約をしてあるからスムーズに手続きが済んで、シンプルな服装から見て、どうやら助祭だった人に通路を案内される。


 絨毯の敷かれた通路を進むと、大聖堂を囲むように回廊で繋がっていて、正面に大きな扉がある。


 その扉の横にも助祭がいて、2人がかりで開けてくれた横を通る。


 そこは首が痛くなりそうな高さの、天井までステンドグラスが無数に張り巡らされたような、神聖な空間だった。


 礼儀作法の先生に注意されていた事を忘れて、あんぐりと口を開けて眺めていると、父に小さく名前を呼ばれながら背中を押される。


 ハッと前を向いて進むと、奥に女神像があり、その前に豪奢な白い衣装の還暦頃の男性が立っているのに気付いた。


 入り口から案内してくれた助祭が、白い衣装の男性に近付いて最敬礼をしている。


 あれ~?事前情報だと、司教が祝福の儀をするって聞いてたんだけど…

 先生に聞いた話しの、白い帽子を被って錫杖を持っている、大司教に見えるよ。


 父を見ると、顔が強張ってるよ。

 どうやら父も想定外だったみたい。


 そりゃそうだ。

 普通なら、式典や王族の儀式くらいしか出てこない大司教がいるなんて思わないよ。


「セザーニア伯爵。どうぞこちらへ」


 呼ばれて大司教のすぐ前に行くと、とても穏やかで優しい笑みを浮かべている。


 好好爺ってこう言う人の事かも。

 こう言う偉い人って脂ぎってギラギラしてると思ってた。(偏見)


「クロード大司教様にお目にかかります事、恐悦至極にございます。セザーニア伯爵家の当主ルーベンでございます。こちらは妻のリゼットと息子のヴィンセントでございます」


 父と母が跪くのに慌てて僕も跪く。


「神の前では皆が平等です。跪く必要はありません。立って下さい」

「ハッしかし…」

「女神の御前で神以外に跪くのは、不敬になります」

「畏まりました」


 父が立つのに合わせて立ち上がると、ニコリと大司教様が笑う。


「大変恐縮ですが、本日の祝福を行う予定の司教が体調を崩しまして、他の司教も別の教会に行っており、急な事ではありますが、私が行う事になりました」


 そんなに人手不足なの?

 教会本部なら沢山いそうなのに…


「クロード大司教様に祝福を頂けるなど、光栄の極みにございます。されど、私共の用意した御布施では到底、大司教様の祝福に見合うものではございません。後日改めて出直して参ります故、ご容赦頂ければ幸いにございます」


「もちろん通常の御布施で構いません。祝福は女神様のされることなれば、儀式をするのが私であろうが司祭であろうが全く同じ事ですから」


「しかし…いえ承知致しました。それでは息子の祝福の儀をお願いいたします」


 優しい笑顔なのに、何か一瞬すごい圧力を感じた。


「ではヴィンセント様、女神様の前で一緒にお祈りをしましょう」

「ハイ、大司教様」


 女神像の前の少し広い場所に跪く。

 すると、大司教が真横に立って俺の頭に手を乗せる。


 暖かい手の平の感触に、転生してから誰かに頭を撫でられた覚えがない事に気付く。


 貴族だから乳母に育てられたし、彼女はあくまでも使用人の距離感だったからね。


 両親も抱き締めたり頬にキスはするけど、頭を撫でる文化はないのかな?


 僕も前世の大人だった記憶があるから、撫でられたい訳じゃないんだけどさ。


「普遍なる女神ルミナマイア様の祝福を、新たなる子にお与え下さい」


 大司教のセリフに合わせて、教えられた通りに心の中で祈る。


 女神ルミナマイア様、どうか良いクラスを授けて下さい。


 ふいに目の前が真っ白になる。

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