ちっともチートじゃない転生~お使いに行くよ!~

藍色なお

第1章 転生したよ!

第1話 産まれたよ!

「おんぎゃあ、おんぎゃあ」

「産まれたか!」


 さっきから、ソワソワと廊下を歩き回っていた男が、嬉しそうに叫ぶ。


「旦那様、おめでとうございます。元気な男の子です」


 暫くすると三十代後半の女がドアを開けて男に告げる。


「おお、でかした!リゼットは無事か?」

「お疲れではありますが、奥様もお元気です」


 男は部屋に入ると、ベッドに横たわる少女に近寄る。


「ルーベン様、男の子でした」

「ああ、リゼットよくやった」


 満面の笑顔で、助産師に整えられ柔らかな布に包まれた赤子を覗き込む。


「髪の色は、リゼットに似ているな。目の色は私と同じか?」

「そうですね。髪色は私より濃いようですが、瞳はルーベン様と同じ紫紺です」


 リゼットと呼ばれた17~18歳くらいの少女は、淡い金髪に若葉色の瞳の美しい顔に、疲労を滲ませながらも幸せそうに笑う。


 ルーベンと呼ばれた二十歳前後の男は、銀髪に紫紺の瞳の端正な顔で真剣に赤子を見つめている。


「よし、決めた。この子の名前はヴィンセントだ」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 僕の名前はヴィンセント・ダン・セザーニア。

 昨日5歳になったばかりのプリティボーイさ。


 ミドルネームは3歳の洗礼で付けられたんだけど、この世界にも洗礼があるんだね。


 あ、何故この国とかでなく、この世界って言うのかは、僕が違う世界地球の日本からの転生者だからさ。


 ま、その辺は追い追い説明するよ。

 今日は人生が決まる一大イベントだから、そっちの説明をするね。


 これから教会に祝福の儀を受けに行くのさ。


 祝福の儀は5歳になると全員が受けるんだけど、この時に職業クラスを授かるんだ。


 例えばクラスが騎士だったら、騎士学校に無条件で入れて、将来は騎士になれる。


 クラスが農民だったら、どんなに頑張って剣術スキルを身につけても、騎士にはなれない。


 そう、クラスに関係なくスキルを覚える事はあるけれど、スキルではなくクラスで職業は決まってしまう事がほとんどだよ。


 それはクラスに合ったスキルの方が覚えやすいと言うのもあるが、やはり神様からの贈り物ギフトと言う事だからなのさ。


 神様の意向に従うのが、敬虔な信者と言う感じかな。

 それだけ神様の力が身近に感じられる世界だからね。


 とは言え、そのクラスに従うのは主に貴族だよ。


 平民には学校に通える財力がない場合がほとんどだし、騎士になれたとしても、貴族出身の騎士とは扱いが違う。


 逆に言うと貴族なのに農民とか出たら、家から追い出されてしまう場合もある。


 だから僕も、結果次第ではどうなるかわからないのさ。


 しかしクラスも遺伝するのか、血縁者と同じクラスを授かる人の方が多いから、良いクラス同士で婚姻関係を築いてきた貴族は、それほど心配しない。


「ヴィンセント様、旦那様がお呼びです」

「わかった」


 執事のセルバスに着いて父の書斎へ向かう。


 コンコンコン。


「旦那様、ヴィンセント様をお連れしました」

「入れ」

「失礼します。お父様」


 セルバスが開けてくれたドアを潜ると、書類を読んでいた父が顔を上げる。


「ヴィンセント。準備は出来たのか?」

「ハイ、お父様」


 この日のために仕立てた服を、侍女に着せられたからバッチリだよ。


 フリフリのレースは貴族の嗜みだから、決して僕の趣味ではないからね。

 父も襟と袖がフリフリしてる。


「では行こうか」

「ハイ」


 階下に降りると、玄関ホールで母が待っていた。


 セルバスが呼びに行ったのだろう。


 淡いブルーのドレスは、やはりフリフリしてるが、22歳の金髪美女には似合ってるね。


 とても5歳の息子がいる人妻には見えない。


「リゼット、そのドレスも似合ってるよ」

「まぁ、ありがとうございます。ルーベン様もシャツが素敵ですわ」


 子供の前でもイチャラブな両親に砂を吐く。


 セルバスを見ると、鉄壁のスマイルで何事もなかったように玄関を開けている。


 ドアが開いたのを見て、父がスッと腕を出し母をエスコートする仕草も様になってて、嫌味なくらいの紳士振りだよ。


 待機していた馬車に全員が乗ると、御者に合図をして出発だ。

 ちなみに僕は、セルバスが抱き上げて乗せてくれたよ。


 セルバスは別の馬車で、侍女のニーナと一緒に着いてきてる。

 貴族は一人で出かけるなんてしないからね。


 馬車の中で、今日の祝福の儀についての注意事項を再確認しながら、イチャラブを見せつけられる事20分。


 漸く教会に着いたよ。

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