第775話 おじさんはキャンプ飯を作ろうとする
両手を天に、んぅと伸びをするおじさんだ。
めっきり冬になってきたとは言え、陽射しがあたると暖かい。
たった今、ダンジョンからでてきたところである。
さすがに開放感があったのだ。
今回は謎解きをしただけである。
なので、まだ体力が余っているだろうな、と女子一班を見るおじさんだ。
だが聖女やケルシー、脳筋三騎士は思った以上に疲労したようである。
頭を動かしたからだろうか。
「おーおつかれさんー」
そんなおじさんたちに男性講師が声をかけてきた。
見れば、男子組が薪を拾い集めている。
待つ間に焚き火でもするつもりだろう。
さすがに風が冷たい中で待つのは厳しいのだ。
いくらが陽が暖かくても。
「バーマン先生。昼食はどうしますか?」
おじさんがふと思ったことを口にした。
時刻は昼下がり。
けっこう早いうちに攻略は終わったと言えるだろう。
一階層だけだが。
「んーそうだなー野営食でも作るかー」
「はいはいはい!」
とケルシーが手をあげて言う。
「リーはご飯持ってるの?」
「ありますわよ?」
即答するおじさんだ。
おじさんの宝珠次元庫には様々なものが入っている。
特に食事は重要だから、色々と貯めているのだ。
「じゃあ、それでいいじゃん!」
にぱっと笑うケルシーであった。
「却下するー。野営訓練のときは大目に見たけどー、今回はなし。現地調達なー」
男性講師の宣言にケルシーと聖女が異議を唱える。
「おーぼーだー」
「おーぼーだー」
そんな二人を、おじさんがなだめた。
「エーリカ、ケルシー。ここはあなたたちの腕の見せ所ですわよ」
エーリカは村育ち、ケルシーは森育ちである。
二人ともこういった場所で、食べられるものを採取するのは得意だと思ったのだ。
「それもそうか!」
いえーとハイタッチをしている蛮族一号と二号であった。
「では、バーマン先生。釣りでもして魚をとっていてくださいな」
と、おじさんが延べ竿をだす。
ついでに野営訓練のときの練り餌もだ。
「野営訓練のときにもよく釣れましたので、期待していますわよ?」
続いて、おじさんは女子一班に声をかける。
「わたくしたちは森の中に入りますわよ。エーリカ、ケルシー、あなたたちが頼りです!」
巧く蛮族たちをのせるおじさんであった。
「ふんふんふん!」
聖女が森の中を庭のごとく歩く。
そして、時折跳び上がっては木から果物をもいでいた。
水を得た魚のようである。
ちなみに聖女とケルシーの二人は背負いかご姿だ。
森に入るなり、おじさんが錬成魔法で作ってしまったのである。
とても似合う二人だ。
「んーこれも柚子か。こっちは金柑だしな」
「エーリカ、それは食べられるのですか?」
聖女に質問するのはジリヤ嬢だ。
「どっちも食べられるけど……食事ってものじゃないわね。この季節はあんまり食材が……おおっと、キノコゲット!」
それは椎茸に似たキノコである。
おじさんも見たことがあるものだ。
「エーリカ、リー様からキノコは危ないと聞きましたけど」
セロシエ嬢だ。
野営訓練のときにおじさんが皆に注意をしたのである。
そのことを覚えていたのだ。
「うん。確かに危ないけど、これは大丈夫なやつだから」
と、聖女はしゃがみこんで、別のキノコをとった。
赤字に白い斑点のある、いかにもな毒キノコだ。
「色的に危ないと思うんだけど」
脳筋三騎士の一人、カタリナ嬢である。
同意するように頷く、残る脳筋騎士たちだ。
「大丈夫よ。これはいい出汁がでるんだから」
おじさんの前世で言えば、紅天狗茸に似たキノコである。
強い旨み成分が含まれていて、冬場の食糧事情が厳しい地域では数ヶ月塩漬けをして毒抜きをして食べたりもすると聞いた。
「エーリカ」
おじさんは真っ直ぐに聖女を見た。
しゃれではすまないぞ、という意思をこめて。
「大丈夫。村ではよく食べてたから」
聖女もおじさんの意図は察したのだろう。
しっかりと頷いてから答えたのだ。
だから安心するおじさんである。
「あ! リー! こっちこっち! ここにお芋がある!」
ケルシーだ。
黄色く色づいた葉っぱを指さしている。
自然薯だ。
おじさんも見たことがある。
細長いハート型をした特徴的な葉っぱをつけるのだ。
見れば、ムカゴもあるではないか。
ちなみにツルが太いほど、芋も大きいとされる。
「よっしゃああ! このお芋好きなんだよねー!」
素手で地面を掘ろうとするケルシーだ。
さすがにそれは止めるおじさんである。
パチンと指を弾いて、土の魔法を使う。
ズゴゴゴと地面からお芋がでてくる。
まさしく想像どおりの自然薯だ。
二メートルはあろうかという大物である。
さすが異世界だ。
「うおおおお! しゅごい!」
ケルシーと聖女がハイタッチをして喜ぶ。
「プロセルピナ、カタリナ、ルミヤルヴィ。十四時の方角、二十メートルほど先に小型の魔物が三匹ほどいますわ。狩ってきてくださいな」
おじさんが指示を飛ばすと、脳筋三騎士が弾けるように飛びだした。
「リー様、やりました!」
しばらくして三人が戻ってくる。
手には一匹ずつ角ウサギを持っていた。
「いいですわね。エーリカ、ケルシー。いったん戻りましょう」
ケルシーの背負いかごからは、自然薯がはみ出ている。
ダンジョンからの転移場所近くに戻るおじさんたちだ。
焚き火の前で男性講師がしゃがみこんで手をあてている。
実におじさん臭い。
女子二班も戻ってきたようだ。
男子一班が釣りをしている間に、この場所を整えていたようである。
先ほどまではなかった調理台などができあがっていた。
ちなみに男子一班の釣りにはメーガンも加わっていた。
とても大きな声をあげて、釣りを楽しんでいる。
「リー様、おかえりなさいませ」
狂信者の会が先頭を切って挨拶してくる。
「皆も無事で何よりですわ」
言いながら、ちらりと周囲を見るおじさんだ。
焚き火を囲むような長椅子がある。
しっかり竈も作っているところが細かい。
色々と勉強したのだろうな、と思うおじさんであった。
「見て、見て!」
ケルシーが背負いかごから自然薯をとりだす。
二メートルになろうかという大物だ。
だが、雑に扱ったからか、真ん中あたりでポキンと折れてしまった。
「あっーーー!」
つい叫んでしまうケルシーであった。
「バーマン先生、釣果はどうですか?」
「大丈夫だろ、それにしてもー」
と、男性講師はおじさんたちの成果に驚く。
「角ウサギかぁ。懐かしいな。お、ワヤムもあるじゃないかー」
「お芋のことですか?」
おじさんの質問に頷く男性講師だ。
「そうそう。ワヤムはなー冒険者の依頼によくでるんだよー。まぁ初級の依頼だから覚えておくといいぞー」
「ってことは食べたことはありませんの?」
「んー記憶にないなー。ワヤムは薬に使われるからなー」
ほう、とあちこちから声が漏れる。
初めて聞く者が多かったのだろう。
「バーマン先生、ウサギを捌き方を教えてあげてくださいな。わたくしは料理の準備を進めますので。あ、骨は持ってきてください」
「骨? 骨なんかなんに使うんだー?」
「出汁をとりますのよ」
と、言われてもよくわからない男性講師だ。
だが、ここは流すことにしたようである。
「とりあえず肉と骨を持ってきたらいいんだなー?」
「よろしくお願いしますわね」
「ねぇねぇ」
おじさんと男性講師のやりとりが終わった後だ。
ケルシーがおじさんにまとわりつく。
「なにを作るの?」
「そうですわね。身体が温まる鍋物にでもしましょう!」
「いいわね!」
聖女がのってくる。
ケルシーはよくわかっていないが、聖女と同調した。
「今回は皆さんにも手伝っていただきますわね」
ニコリと微笑むおじさんである。
はい、と元気よく返事する
「はいはいはい!」
今度は聖女である。
「アタシもなんか作りたい!」
「かまいませんが……何を作ろうと思っているのです?」
「ウサギ肉の丸焼き!」
「丸焼きだー!」
ああ、と納得するおじさんだ。
やってみたかったのだろう。
おじさんの料理にはお肉を使わなくてもいい。
せっかくウサギ肉が三羽分もあるのだ。
丸焼きでもいい。
本来は時間がかかってしまうものだけど……まぁのんびりとキャンプをするのなら、いいだろう。
「承知しましたわ。そちらはエーリカとケルシー、あとはジャニーヌがついてあげてくださいな」
彼女がついていれば、失敗することはないだろう。
「承知しました」
ジャニーヌ嬢も快く了承してくれた。
「リー様、よろしいのです?」
アルベルタ嬢が確認をとってくる。
「問題ありませんわ。きっと男子も喜ぶでしょうから」
まーるやき! まーるやき!
と肩を組んで声をあげている蛮族一号と二号。
その姿を見れば、やめておきなさいとは言えないおじさんであった。
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