第757話 おじさんたちはドワーフの古代都市を探索する


 建国王を交えて談笑をした翌日のことである。

 おじさんは今日も絶好調だ。

 

 いつもルーティンをこなした後で、ウドゥナチャと連絡をとる。

 おじさんの中では、もはや裏社会統一は既定路線だ。

 

 ちょっかいをかけてこようがこまいが、王国内に不穏分子は必要ない。

 であれば、うーちゃんを頭にして統一してしまえ、というのがおじさんの考えであった。

 

「うーちゃんを裏社会の王に据える計画を考えないといけませんわね」


「ということは……実質的にお嬢様がこの国の表も裏も支配するということですか!」


 思ってもみないことを侍女が言いだした。

 侍女は拳を作って、天に掲げている。

 

 おじさんの理想は君臨すれども統治せずだ。

 そもそも自信がないのである。

 

 国のトップになって舵取りをするなど無理だと思う。

 だって中の人は小市民なのだから。

 

 前日に建国王にも注意されたとおり。

 おじさんは人の上に立つ器ではない、と自分では思っている。


「べつに支配はしませんわ。うーちゃんに任せます。なにか問題があれば、わたくしが対処するというだけです」


 責任はとる、ということだ。

 それもまた上に立つ者に必要な資質ではあるのだが、おじさんは気づいていない。

 

「私はお嬢様が幸せに暮らせるのなら、それでいいですわ」


 侍女もべつに押しつける気はないのだ。

 もちろん自らが仕える主こそが至高だとは思っている。

 多くの人に知らしめたい気持ちがないと言えば嘘になるだろう。

 

 だが、それをおじさんは望まない。

 長い付き合いがある侍女はしっかりと理解しているのだ。


 おじさんと侍女が互いににこりと笑いあうのであった。

 

「お嬢様、本日はどうなさいます?」


「そうですわね。とりあえず鉱人族ドワーフの古代都市に向かいましょう。転移陣を一時的に使えなくしておく必要があります。あとはバベルとランニコールの分体からの報告待ちですわね」


「奴隷については?」


「避難させましょう。彼らも落ち着かないでしょうから、ダンジョンにでも居住地を作りますか」


 これで今日一日の方針が決まった。

 学園はまたしても休みである。

 

 が、こちらの方が緊急性が高いのだから仕方ない。

 おじさんは学園が好きだ。

 お友だちがいるから。

 

「では、朝食をいただきにまいりましょうか」


 朝食の席には祖父母と建国王もいた。

 まぁアミラがいるのだから当然だと言えるかもしれない。

 

 朝食を終えて、ケルシーを送りだす。

 弟妹たちはお勉強の時間だ。

 

 残った大人組はサロンに集まった。

 

「リー、わしらも鉱人族ドワーフの古代都市に行きたいんじゃがのう」


 祖父である。

 ということは、祖母と母親もか。

 と判断して、おじさんは周囲を見渡す。

 

「リーちゃん、私も行くよ」


 父親であった。

 となると全員か。

 べつにかまわない。

 

 むしろ奴隷にさせられていた人たちに対応するのなら、父親がいた方がいいだろう。

 

「承知しましたわ。あ、お父様。わたくし、ダンジョンに奴隷の方々の居住地を用意したいのですが、問題ありませんか?」


「ああ、それでかまわないよ。というか、むしろそうしてくれた方がありがたい。彼らにとっても見知らぬ異国でどこかの村に放り込まれるのは大変だろうからね」


「陛下はいかがしますか?」


 おじさんの問いに、建国王はにぃと唇の端をつり上げた。

 

「行くに決まっておろう」


 要は全員行きたいわけである。

 幻と謳われる鉱人族ドワーフの古代都市。

 なんだかんだで見ておきたい面々なのであった。


 皆を連れて、古代都市へと転移をしたおじさんである。

 場所は件の転移陣の近くだ。

 

 その方がいいと魔神たちが判断したのだろう。


「バベル、ランニコール。カーネリアンにリリートゥも。ご苦労様ですわね。問題は起きていませんか?」


 使い魔である魔神たちに挨拶をする。

 

「問題ありません、大主様」


 カーネリアンが答えて頭を下げた。

 鷹揚に頷くおじさんだ。


「では、お父様たちは古代都市を散策されますか? わたくし、とりあえず転移陣を使えないようにしておきますので」


 ここで男性陣と女性陣が分かれた。

 おじさんと祖母、母親は転移陣へ短距離転移だ。

 父親と祖父、建国王は古代都市を見て回る。

 

 おじさんはまだしっかり見てはいない。

 が、王国式の町とは大きなちがいがあることに気づいている。

 

 王国のほとんどの町は円形に作られるのだ。

 中央には領主の館があり、そこから放射線状に大きな道が延びている。

 そして、環状の道が二つほどあるというのが基本の作りだ。

 

 対して、この鉱人族ドワーフの古代都市。

 いわゆる京都のような碁盤の目になっているのだ。

 つまり町の形が四角なのである。

 

 石の四阿あずまやの中にある転移陣。

 母親と祖母からおおーと声があがった。

 

「ふむ……確かに魔文字と構造がちがっている」


 祖母がさっそくという感じで魔法陣を確認している。


「見た感じですと、精霊文字を使った転移陣よりも複雑化していますわね」


 母親も同様だ。

 興味深そうに観察している。

 

「トリちゃん!」


 おじさんは使い魔を喚ぶ。

 

『ぬわっははは! 既に鉱人族ドワーフ様式の転移陣は解析済みぞ! 我を褒めるがいい、主よ!』


「さすがトリちゃんですわ!」


 ちょっとイラッとしたが褒めておくおじさんだ。

 

『そうだろう! そうだろう! うむ! 大変気分がよろしい! ぬわははは!』


「いいから、さっさと教えてくださいな」


 調子にのるトリスメギストスに冷たく言い放つおじさんであった。

 

『つれない主であるな。まぁよかろう。鉱人族ドワーフ様式の転移陣なのだが、これは地脈の力を使ったものであるな!』


「……地脈とは?」


 祖母が補足を求める。

 

『転移陣といってもいくつかの種類があってだな。要はどの力を使って転移させるかという話なのだが、そこらは少し省かせてもらおう。鉱人族ドワーフの場合、地脈という大地の下を流れる力があってな』


「それって川みたいなものかしら」


 母親が確認をとる。

 

『御母堂の言うとおりだな。この地脈の力を使って鉱人族ドワーフは地下都市を運営していたようである。で、地脈の力を使った転移陣であるため、ちょっと様式が違っているのだ』


 ふむ、とおじさんは納得した。

 前世で言えば、風水なんかで言われる龍脈だと思ったのだ。

 

『使われている文字なのだが、これは精霊文字を変化させたものだな。既に解析したので一覧表を渡そう』


 トリスメギストスがぺかーと光って、紙の束が三組出現する。

 おじさんと母親、祖母が一組ずつ受け取った。

 

『それを読めば主たちなら理解できよう。少しいじれば、一時的に使えなくすることができる』


 ペラペラと速読で紙に書かれたことを確認するおじさんだ。

 

「では、お祖母様とお母様にお任せしてもよろしいですか?」


 書かれていることを覚えることなど雑作もない。

 おじさんのスペックは高いのだ。

 

 で、自分がやるまでもないと判断した。

 祖母と母親なら十分にできるはずだ。

 

「かまわないよ。リーはあっちの様子を見に行くのかい?」


 祖母の言葉におじさんは頷いた。


「少し町の作りがちがうので迷ってしまわないか、と思って」


「あーなるほどね、理解したわ。リーちゃん、もうこっちはいいわよ。あとは私とお義母様でやっておくから」


 前半部分は紙の内容を理解したということだろう。

 母親もおじさんに負けず劣らずである。

 

「承知しました。トリちゃんはここで確認をしてくださいな」


『承った』


 了承がとれたところで、おじさんは短距離転移で姿を消した。

 

「ふふふ……トリちゃん、ちょっと確認したいのだけど。この転移陣、少しムダが多いのではないかしら?」


『さすがに御母堂であるな。確かにムダな箇所が多い。あとは……』


「経路が複雑すぎるさね。もっと単純にできる」


『御祖母殿も理解が早くて助かる』


 カラセベド公爵家の魔法馬鹿は、どうにも高スペックだ。

 それに喜々として対応するトリスメギストスであった。

 

 一方でおじさんは一瞬で建国王たちに追いつく。

 

「お父様、お祖父様、陛下」


「おお、リーか」


 背後から声をかけると祖父が最初に振り向いた。


「どうですか? 王国とは町の作りがちがうでしょう?」


「で、あるな。縦の道と横の道が入り組んでおる」


 建国王だ。

 さすがに町を一から作ってきただけのことはある。

 

「同じような作りの家ばかりだね」


 今度は父親だ。

 均一な家とでもいいのだろうか。

 石造りの家は基本的に大きさも外観もさほど変わらない。

 

 それが町に統一感をだしているというのも事実だ。

 

「これは慣れなければ迷ってしまうな」


 ガハハと祖父が笑った。

 

「あ、そうですわ。件の湧水の壺がある場所も確認しておきましょうか」


 おじさんが提案する。

 その提案にのった男性陣だ。

 

 大通りへ出て、しばらく歩く。

 そして、小道に入って歩くと外壁部分が見えてきた。

 

 外壁と隣接するように石造りの噴水がある。

 いや、噴水というよりは湧水の壺を置く台座のようなものだ。

 

 湧水の壺からはとめどなく水があふれている。

 

 そして台座の周囲に作られた囲いの中に水をためているのだ。

 この水は水路をとおって、他の場所にも運ばれているのだろう。

 

「これは見事な造形じゃな!」


 建国王が声をあげる。


 湧水の壺が置かれている台座とその周辺の囲いには、彫刻が施されていた。

 

 植物と清らかな乙女と動物たち。

 その乙女が湧水の壺から水を注ぐといったデザインである。

 

「んーこれって壊れていませんか?」


 おじさん湧水の壺をじっと見て、そんなことを言うのであった。

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