第754話 おじさん真実の王国史の一端に触れる
引き続き、王城にある国王の私室である。
おじさんは母親と祖母と一緒に甘味を食べていた。
パフェである。
少し前にビーチで食べたパフェだ。
あのときはチョコレートソースだったが、今回は果物のソースがかかっている。
ガラス製の見事な器が見た目にも美しい。
女子三人でキャッキャとはしゃいでいる。
そんな様子を見ながら、国王は息を吐く。
姪っ子が動けば、なにかが起きる。
これはもう運命みたいなものだ。
だって動かなくてもトラブルの方からやってくるんだもの。
なら動いた分だけマシかとも思うのだ。
「兄上、建国王陛下に確かめておきますか? こちらからダンジョンに出向けば問題ないかと」
父親が国王に確認をとる。
「確かにそうであるな」
王宮西側の尖塔、その最上階にある部屋。
そこから転移できるようになっている。
ちなみに、この転移陣はおじさんによって復旧ずみだ。
かつてはアミラのダンジョンにつながっていた。
しかしダンジョンは一度、崩壊している。
おじさんが復活させたわけだが、そのときに転移できるように転移陣も再設置していたのだ。
「うむ。では、行こうかの。ワシは陛下の私室にお邪魔するのは初めてじゃな」
ガハハと豪快に笑う祖父であった。
それに釣られるように、男性陣が腰をあげる。
「では、リー。我らはダンジョンに行ってくるぞ」
ぞろぞろと部屋を出ていく男性陣だ。
その背中を見送りつつ、おじさんは言う。
「行くなら、わたくしが転移しますのに」
「いちおうアレでも気を使っているつもりなのさ」
パフェを食べながら祖母が言う。
母親も頷いていた。
「リーちゃん、このパフェは美味しいわね! やっぱりこのフレークがちょうどいいわ」
「ああ、これはモロシコからできているのかい」
母親の言葉に頷く祖母であった。
「ですわね。ちょうどいい感じで食感が楽しめますものね」
おじさんも完全に同意である。
「お祖母様、このフレークにヨーグルトと干した果実を組み合わせる朝食もいいですわよ」
「おお! そりゃあいいね! うちの方にも分けておくれ」
もちろんですわ、といい笑顔を見せるおじさんだ。
少ししてパフェも食べ終わり、食後のお茶もすむ。
「では、わたくしたちも参りましょうか」
「そうね……聞いておいて損になる話でもないものね」
おじさんと祖母、そして母親の三人もまた建国王の下に転移するのであった。
アミラのダンジョンである。
ダンジョンの中には、アミラと建国王、スプリガンにその眷属たちだけが利用できる階層があるのだ。
いわば従業員のための階層である。
住居となる建物と草原、それに入浴施設があるのだ。
その草原に設えられたテーブルに建国王たちはいた。
「……ふむぅ。なるほどのう」
ちょうど説明が終わったところのようである。
いいタイミングだとおじさんは思う。
「リーか、それにそちらは?」
「わたくしのお母様とお祖母様ですわ、陛下」
きちんとカーテシーを決めるおじさんだ。
母親と祖母も同様である。
「うむ。よろしく頼む。このような
とは言え、今は生前の姿に近い格好をしている。
なんだかんだで威厳はあるのだ。
一礼をしてから空いている席につくおじさんたちだ。
「ちょうど今、話を聞いたところでな。テューデンツ公国か、その国については知らんのだが、テューデンツ公爵なら知っておるな。なにせ余の母親がその家の出身だったからの」
かかか、と笑う建国王だ。
「ほう! 陛下の母君が!」
派手に声をあげる国王である。
「余の父は
なるほど、と頷く国王と父親だ。
この二人の父親の代でもめたのだから、実感があるのだろう。
「でな、余は兄弟姉妹の中では八番目であったからな、もめ事を嫌って外にでた。当時は海を渡るなぞ正気の沙汰ではなくてな。それは今もさほど変わらんか。……まぁ正直に言って、運が良かっただけじゃな」
昔を懐かしむように軽やかな笑い声をあげる建国王だ。
「余が知る頃のサマルゾン王国の上層部は、王だけではなく貴族たちも大抵がそんな感じでな。どこの家も余り者がおったのだよ。そういった者たちを連れて、余は海にでた。まぁ父王や兄弟、重臣たちもがんばれとは言ってくれたがな、内心では期待していなかったと思う」
そこでチラリと男性陣を見る建国王だ。
「そういった者たちの中で、余の腹心として活躍してくれたらのがそなたらの祖であるな。彼らがいなければ、余はここに国を作ることもかなわなかったであろう」
国王たちに頭を下げる建国王だ。
それに感動している男性陣である。
空気を読まず、おじさんが建国王にむかって軽く手をあげた。
「陛下がこの地に訪れたとき、既に都市はありましたの?」
ちょっと興味がでてきたのである。
建国王自身の逸話は王国内にたくさん残っているのだ。
ただし後世の創作も含めてだが。
逆に建国王がこの地を訪れたときの状況は資料がさほどない。
「うむ。そこなんじゃがな。もともとこの地には人が住んでおった形跡はあったのだ。ただ魔物が多くてな。そうした状況から察するに、
なるほど、と頷くおじさんである。
「では、今の王都というのはその名残なのですか?」
「リーの言うとおりじゃな。今のような大きな都市とまでは言わんが、大きめの集落があったと思う。その跡地を利用して、我らは拠点を作ったのだ。あの辺りは食料も豊富、それに水の利もあった」
「ほう! その話は初耳ですな。王国史では陛下が王都を建設されたと」
学園長ものってきた。
宰相も興味深そうに聞いている。
「そんなもの建てられるわけがなかろう。魔物の討伐で手一杯。そこにある物を利用しただけじゃ。だから、余は運が良かったと言うておるのだ」
「陛下。当時の魔物はどのようなものがおりましたかのう」
祖父である。
興味はそっちにあるようだ。
「そうじゃな。割合的には中級に位置する魔物が多かったの。上級の魔物もそこそこいてな。地竜なんぞはよく倒したものじゃな」
「地竜!」
宰相が声をあげた。
おじさんと学園長が倒したのも地竜だ。
「魔物の襲来があれば討伐をし、なければ畑仕事をし、ふふ。あの頃は余の人生で最も楽しかったかもしれん」
やっぱり懐かしそうに微笑む建国王だ。
とにかく苦労したのだろう。
しかし、その苦労が報われたのだ。
感慨もひとしおといったところかもしれない。
おじさんはまだそうした感情を抱いたことがなかった。
前世では苦労の連続で、報われたと思うこともなかったから。
だから今生ではそう思えるといいな、と考えるのだ。
「それでのう……あちこち探索しておるとな、無人の地かと思いきや人がおったのだ。細々とではあるが暮らしておってのう。そうした者たちと協力し、一緒になって作り上げたのがこの国なのじゃよ」
「……だから王妃陛下の情報がなかったのですね」
宰相がぼそりと呟く。
それを耳ざとく聞きつけた建国王は笑った。
「我らに協力してくれた部族の娘じゃな」
まさに秘められた王国史というやつだ。
なんだかんだで歴史書というのは、時の権力者を美化するものである。
だって王国史では建国王が一夜にして作ったのが王都だと言われているのだから。
……おじさんならできるけど。
「陛下、地竜の他には大物はおりましたかのう」
祖父である。
どうにも脳筋の血が疼いているようだ。
「大物か……」
建国王が顎に手をあてて、少しだけ思案してみせる。
「大物と言えば、海にでたときにのう、それはもう巨大な亀とでも言うべき魔物と遭遇してな。あのときはもう生きた心地がせんかったな」
「戦ったのですか?」
父親が建国王に聞いた。
「いや戦うなぞ、そんな選択肢は端からなかったわい。なにせ島があると思うて上陸しようとしていたのだからな! まさか島が魔物だとは思わんわな!」
豪快な笑い声をあげる建国王だ。
「今の世はさほど大物はおらんと聞くが、実際にはどうなのじゃ?」
今度は建国王から話が振られた。
そこからはもう男性陣が喜々として話をしだす。
あの魔物なら倒したことがある。
そこから派生して、自らの武勇伝自慢が始まった。
やはり長く生きているだけあって学園長が強い。
それに負けじと各々が話を切りだしていく。
「まったく。これだから男たちってのは」
呆れるような口調ながらも、祖母は子どものようにはしゃぐ祖父を優しく見つめている。
それは母親も同じだった。
天空龍シリーズの武器を自慢する姿を、微笑ましく見るのだった。
「お茶でもお淹れしましょう」
おじさんが茶器を宝珠次元庫からとりだす。
ボーンチャイナで作った陶磁器のものだ。
おじさんは暇を見つけては、陶磁器の作成をしている。
今回はアストバリーブラックを模したものだ。
白磁の地に黒と金で装飾を施しているのが特徴だろう。
優雅で気品があり、落ち着いたデザインになっている。
そこにモロシコのお茶を淹れていく。
「お茶が入りましたわ。皆様、喉を潤してはいかがですか?」
おじさんが声をかける。
こりゃすまんのう、と学園長がおじさんに言う。
それぞれにお茶を飲み、ほっこりと表情を緩めている。
「ふむ。そう言えばリーはどんな魔物を倒したのじゃ?」
つい、といった感じで国王が本当に興味本位で聞いてしまう。
その瞬間、父親と祖父の二人が目をそらした。
学園長と宰相、軍務卿、建国王は気づいていない。
「魔物ですか? 直近のところで言えば、外なる神の一柱、妖麗なる怨霊神ヴ=トですわね」
ぴしりと場が固まってしまう。
想像以上の大物がでてきて、全員が目をむいたのだ。
「あれを魔物と数えていいのかわかりませんけど」
もちろん公爵家の面々は既に報告を受けているから知っている。
が――その他の面子はまだ知らなかったのだ。
「お、おうふ……た、大儀であったな」
なんとか絞りだす国王だ。
「まぁ! そこまでお褒めいただくようなことではありませんわ! ばちーんと次元の彼方に追放しましたので」
ニコッと微笑むおじさんだ。
お茶請けとなる焼き菓子をだす。
最近、おじさんが気に入っているジンジャークッキーだ。
「さぁ召し上がれ!」
男性陣によるマウント合戦は、おじさんの一人勝ちであった。
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