第753話 おじさんまたもや爆弾発言をする


 お昼だよ、全員集合!

 とでも言わんばかりに、王城に上層部が集まった。

 王の私室である。

 

 国王を筆頭に宰相、軍務卿に学園長まで。

 後はおじさんちの一家が勢揃いである。

 

 ここまでの面子が集まれば、すわ何事かとなるものだろう。

 だが、有無を言わせないのは母親がいるからかもしれない。

 

「これが鬼人族の里で食されているものか」


 国王が頬張っているのはタコスだ。

 もちろん、おじさんが手を加えたものである。

 

「そのまま、ではありませんわよ。好みの味になるように整えてありますけど」


 モロシコの粉末を使った料理は、宝珠次元庫にたくさんあるのだ。

 さらにおじさんは虎の子である鮭料理も提供していた。

 

 正確には母親のリクエストでだしたのだ。

 存外に鮭料理が気に入っている母親である。

 

 特に鮭をふんだんに使ったグラタンがお気に入りなのだ。

 

「……まぁ鬼人族の料理にも興味があるんじゃがのう」


 学園長である。

 あまり食べる気にならないようだ。


 と言うよりも、である。

 パクパクと食が進んでいるのは、おじさんちの一家と国王のみ。

 学園長、軍務卿、宰相の三人は進んでいない。

 

 だって、おじさんからの報告が衝撃的だったから。

 

 領地の問題を改善するのに出向くのは当たり前のことだ。

 水が不足している問題を解決したのもいいだろう。

 

 だが――その先が問題だ。

 水源を見に行って、鉱人族ドワーフの都市を発見した。

 

 鉱人族ドワーフなど、おとぎ話の住人である。

 それが実在した、しかも地下都市まで。

 

 もはや空前絶後の大発見である。

 しかも、ただ発見しただけではない。

 

 その都市は裏社会の組織が拠点にしていて、奴隷が存在したのだ。

 加えて奴隷が大陸の国ときたところで、もうお手上げであった。

 

「問題は分けて考えないといけませんね。とりあえず奴隷にされていた人々のことは、比較的に対処は難しくありません」


 宰相がモロシコのお茶を飲みながら言う。

 ぐるりと周囲を見渡して、まずはその点の同意を取ろうとする。

 その場にいた全員が頷いてみせた。


「次に腕輪を欲する者たちゲ・ドーンなる組織のことです。幸いにしてリーが既に拠点にいた者たちを殲滅したとのこと。残るは大陸側にあるであろう拠点についてです」


 またモロシコのお茶を飲む宰相だ。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「正直なところ、私は手をだす必要はないと考えます。こちら側の拠点は既に押さえているのです。あちらから仕掛けてくるとしても、転移陣をとおってのこと。なので相応の守備力があればいいのでは、と」


 学園長が白鬚をしごきながら言う。


「うむ。ワシもロムルスの案に賛成じゃ。わざわざ大陸にまで出張って腕輪を欲する者たちゲ・ドーンなる組織を潰す必要はないじゃろう。ま、あちらに渡っても土地勘も伝手もない」


 あ、と声をだすおじさんだ。

 先ほど報告をし忘れていたことがあった。

 

「わたくしの使い魔に既に大陸の情報収集をお願いしていますわ。そう遠くない内に、色々とわかることもあるかと思いますの」


 ぱくり、とコーンブレッドを食べるおじさんだ。

 蜂蜜をたっぷりと塗ったものである。

 ざくざくとした食感が楽しい。

 

「あーうん。リーちゃん、その話は横に置いておこうか。たぶん制圧できちゃうんだろうけど、今はやめておこうね」


 父親だ。

 小さな子どもに言い聞かせるような口調であった。

 

「潰しちゃえばいいのよ。そしたら鉱人族ドワーフの都市に常駐戦力なんて必要ないでしょう」


 母親である。

 おじさんが食べていたのと同じ蜂蜜たっぷりのコーンブレッドを、パクリと食べる。

 

「あ……このタルト、すっごく美味しいですわ!」


 おじさんが食べたのはトカリの実を使ったタルトだ。

 料理長渾身の作品である。

 

 鬼人族の里に行く前に見つけた赤い洋梨だ。

 火をとおすことで、ねっとり感が増している。

 さらに香りが高く、上品な甘みがあるのだ。

 

「もういい! オレには難しいことはわからん!」


 ガハハハと軍務卿が開き直った。

 そして、目の前にあるタコスをがぶりといく。

 

 軍務卿に釣られたのだろうか。

 宰相と学園長も苦笑しながら、食事を進めることにした。

 

「あ……本当に美味しいわね、このタルト」


 母親がおじさんとハイタッチする。

 祖母もそこに参加した。

 

「ロムルス、鉱人族ドワーフの都市に常駐戦力を置く必要はないさ」


 祖母が宰相に言う。


「お言葉ですが、ハリエット様。転移陣を使って移動してくる敵勢力についてはどうなされるのです?」


 まさか殲滅しろとは言わないよな、と言外に忍ばせる宰相だ。

 その意図を正確に理解した上で、祖母はニヤリと笑った。

 

「リー、転移陣の無効化はできるんだよね?」


「もちろんですわ。無効化するだけならかんたんですもの」


 おじさんの何気なく言い放った言葉に、唖然とする一同だ。

 母親以外は。

 

 一瞬だが眉根に皺を寄せたのである。

 どうやら母親はその情報を秘匿しておきたかったようだ。

 

「あ……ええと?」


 予想外のことに言葉を続けられない宰相だ。

 

「リーや、一度無効化してしまえば二度と使えんではないか?」


 学園長がおじさんに聞く。

 

「学園長の仰るとおりですわね。ですが、トリちゃんに鉱人族ドワーフ様式の転移陣を解析してもらっています。つまり――有効化も無効化もできるようになりますわ」


 あ、学園長と続けるおじさんだ。

 

「こちらのお肉も食べてみてくださいませ。とっても美味しいですわよ。ライグァタムで採れる香辛料にハラミ肉を半日ほど漬けこんでから焼いていますの」


 おじさんの前世で言うアラチェラというハラミのステーキだ。

 お肉の味が濃厚になって、とっても美味しいのである。

 

「ほうほう。それは美味そうじゃな」


 つい、おじさんの誘導にのってしまう学園長だ。

 鉱人族ドワーフ様式の転移陣の構成云々の話になったら、面倒臭いと思ったのである。

 

「ささ、陛下も軍務卿も、宰相閣下も召し上がれ」


 と巻きこんでいくおじさんであった。

 

「残るは大陸側の国とどう付き合うかですが……」


 父親はもうお腹いっぱいのようだ。

 食後のコーヒーをたしなんでいる。

 

「私としては急がずとも良いかと思いますね。向こうにしても状況は我が国と同じでしょう? いえ、我が国のように対策をとれる時間すらないでしょうから、余計にひどい」


 父親の言いたいことは、だ。

 同じ問題が大陸側の国でも持ち上がるということである。

 行方不明になっていた人間が戻ってくるだけではなく、それが裏社会の組織が行なったことだった。

 

 さらに王国に奴隷たちが世話になっていたという事実。

 これがいっぺんにやってくるのだ。

 

 つまり、今、この場で行われている会議と同じ状況になる。

 そこへ国と国の関係がどうだのと言われても困るだろういうことだ。

 

「確かにスランの言うとおりですね」


 父親の言わんとするところを正確に把握した宰相だ。

 

「では、スランはどうすればいいと思うのだ?」


 国王がおじさんの勧めた肉を食べ終わってから言った。

 

「そうですね。まず奴隷にされていた者たちですが、我が領内でのことなのでこちらで保護をします。そこで帰りたい者がいるのか確認しましょう」


 そこで父親はコーヒーを含んだ。

 

「次に腕輪を欲する者たちゲ・ドーンについては、リーちゃんの報告待ちでいいでしょう。転移陣を無効化できるのなら、それで十分ですからね」


 にやっと笑って、父親はおじさんを見た。

 

「最後に大陸側の国、テューデンツ公国でしたか。こちらについては今のところは放置で。恐らくはむこうも大変でしょうから。ジケート・スファラス殿という伝手があるのですから、彼と打ち合わせをするとしましょう」


 おお、と国王が声をあげた。

 

「スランの案でワシは異存ないが、皆はどうか?」


 学園長、宰相ともに頷く。

 軍務卿と祖父は食事に夢中だ。

 祖母と母親も首肯してみせた。


 最後におじさんである。

 

「おっと。そう言えば伝え忘れていましたが、ジケート殿は建国王陛下のことをご存じでしたわよ。そのときに確か、こう仰いましたの」


 おじさんがためてから言う。

 

「分かたれた王国はあったのか、と」


 なかなかに衝撃的な発言である。

 

 そも建国王は他国の出身であることは王国内では周知の事実だ。

 王位の継承権を兄弟で争うのが嫌で、外にでたのである。

 

 その国がサマルゾン王国。

 国の名前がちがうので、まったく気づいていなかったのだ。

 

 となると、テューデンツ公国はサマルゾン王国に起源を持つ国である。

 関係性で言えば、遠い親戚の国と呼べるかもしれない。

 

 おじさんは悪意があったわけではない。

 ただ、さほど大きな問題ではないと思って報告しなかったのだ。

 

 とりあえずお腹いっぱいになる情報てんこもりだったから。

 

「……まさか建国王陛下に連なってくるとは」


 国王が呟いた。

 

「べつに困ることでもないと思いますけど。なんなら建国王陛下に確認してもいいわけですし」


 おじさんは事もなげに言う。

 優雅にコーヒーを飲みながら。

 

「そうね、べつに建国王陛下を知るからといって遠慮しなくてもいいじゃないの」


 母親がおじさんに同調した。

 祖母も同様である。

 

「なんなら今から建国王陛下をお喚びしましょうか?」


 おじさんならできる。

 だって、おじさんが転生させたのだから。

 

「恐れ多いから、それはやめてえええええ!」


 男性陣が一致団結した瞬間であった。

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