第726話 おじさんとその家族はだいたいやりすぎる
おじさんと祖母と母親。
この三人がそろってしまえば、
タルタラッカには騎士団の駐屯所もある。
否、もはや要塞のような場所だ。
守備隊隊長のヨアンニスの動きは早かった。
迅速に住民たちに避難指示をだし、騎士団が対応できるように矢継ぎ早に指示をだしたのだ。
さすがにベテランの騎士である。
ヨアンニスは少なくない被害がでると考えていた。
なにせ相手は空を飛ぶ獣である。
騎士団にも魔法を使える面子がいるとはいえ、だ。
さすがに
いや、居たとしても集団である。
一匹、二匹を相手にするわけではないのだ。
さすがに被害がでることは免れない。
ならば、老骨たる自分がその役目を負おうと考えていた。
そうしたときであった。
どこからともなく、見たことがある人物が姿を見せたのだ。
おじさんである。
そして祖父と祖母、それに母親まで。
「ヨアンニス!
祖父がそう言ったとき、ヨアンニスは理解した。
なにが起こるのか、を。
次の瞬間であった。
空中に鎖が出現して、
さすがに空を飛んでいられずに落ちる
そこへ魔法が殺到する。
馬鹿みたいな威力の魔法が、ドカンドカンと撃ちこまれたのだ。
――哀れ。
魔物は天敵である。
だからこそ容赦なく殺す。
それがヨアンニスの常識であった。
初めてである。
魔物に対して同情したのは。
「お母様、お祖母様。もう少し手加減しませんと!」
「十分手加減してるさね」
「そのとおり!」
祖母と母親はアハハハと笑い声をあげている。
ハイになっているのだろうか。
「仕方ありませんわね」
おじさんがパチンと指を弾く。
数匹の
素材とお肉の確保をするためである。
「あとはお好きなようになさってくださいな」
おじさんの言葉に対して、祖母と母親は魔法を撃つ速度をあげるのだった。
ひとつ息を吐いて、祖父を見るおじさんだ。
「お祖父様、
「
「ですわねぇ」
おじさんと祖父は見ていた。
「まぁ三匹ほど確保したので素材としては十分でしょう」
「うむ。楽しみじゃの」
暢気な二人であった。
「ヨアンニス隊長……」
ヨアンニスのもとに副長の一人が指示を仰ぎにくる。
「……すべての指示は撤回。討伐の後始末の準備を。私はご隠居様に挨拶をしてくる」
「承知しました。あの……ひとつだけよろしいでしょうか」
副長が聞きにくそうに口を開いた。
「ご隠居様方は、どうやってこちらにいらしたのでしょうか?」
「……お嬢様であろうな」
はぁと生返事をする副長である。
あまり、おじさんとは接点がなかったのだ。
「まぁ深く考えるな。我らは我らのなすべきことをすればいい」
ハッと短く返答して、副長は去って行く。
続いて、ヨアンニスも砦をでるために急ぐのであった。
「星の五芒、月の六芒、冥府よりきたりて踊れ。かの者に安息を、永久の眠りを。欠けて満ちよ」
おじさんが魔法を詠唱する。
地竜を倒したときの命を刈り取る魔法だ。
【
おじさんが結界で守っていた三頭の
見届けてから、おじさんは呟いた。
「こんなものでしょうか。安らかにお眠りなさい」
続いて、トリスメギストスを喚ぶ。
『
「ほおん……老化薬ですか」
ちょっと興味がでるおじさんだ。
ファンタジーっぽいから。
『うむ。文献によるとな。水薬の類いで一滴飲めば、二年ほど老化を進めるとある』
「二年ですか。薬の効果が切れたら元に戻りますの?」
『いや、戻らんかったらしい。ただ老けるだけであるな』
「なんのためにあるお薬かよくわかりませんわね」
『まぁこの文献を記したのが、デイーゴ・ムトゥハという放蕩の薬師でな。虚言の薬師とも呼ばれておることから、信頼性は低いと我は思う』
「そうですか」
また聖女の一族っぽいな、と思うおじさんであった。
「話を元に戻しましょう。
『肉に臭みはなく、食べやすいとあるな。ただ、ふつうに焼いたり、煮たりするだけではかみ切れないほどの弾力がでるそうだ』
「ほおん。お肉を柔らかくする方法はありますの?」
『ピィコ・マローという食い道楽貴族の文献によるとだな、まず肉を入手するときに恐怖を感じさせないことが肝要であると書かれている。さらに肉を焼くのなら……』
細かい手順を説明するトリスメギストスだ。
それを聞きながら、おじさんは思う。
よくもまぁそんな手間をかけてまで、
前世でも執念に似た調理法はあった。
例えば、こんにゃくである。
素材である芋のままでは毒があるのだ。
それを丁寧に処理して毒抜きをする。
水酸化ナトリウムや消石灰を使うなんて、どこから発想したのだとおじさんは思ったものである。
他にもフグなども該当するだろう。
この種類は身に毒がある、毒がないというのは経験した人がいるからわかったはずである。
それを思えば、調理法にこだわるくらいならなんてことはない。
『……ということでな。まぁ我としては煮込みにするのがおすすめであるな』
「ですわね。煮こみなら材料も間に合いますし……お母様! 禁呪はいけませんわよ!」
母親の魔力の高ぶりを感じて、釘を刺すおじさんであった。
「もう! リーちゃんは誤魔化せないわね」
てへぺろする母親である。
『主よ、そろそろ魔法を撃ちこむのはやめた方がいいのではないか? 地形が変わってしまう』
「すでに殲滅はしていますし、そろそろとめますか」
おじさんが手をあげた。
そして声をあげる。
「撃ち方やめーいですわ!」
おじさんの号令に従う母親と祖母だ。
うん――もはや原型をとどめていない
パチンと指を弾くおじさんだ。
魔法を使って大地を戻してしまう。
それも一瞬で。
「さて、戻りましょうか」
確保しておいた
「ご隠居様! ハリエット様! ヴェロニカ様!」
ヨアンニスである。
最後におじさんの名を呼んで、その場で膝をつく。
「このたびの助勢、まことにありがたく存じます」
「かまわないよ。ちょうどいいときに報せを受けてね」
祖母がヨアンニスに声をかけた。
「うむ。被害がでずに何よりじゃったな」
ガハハハと笑う祖父。
「リーちゃん、
母親はそちらに関心がないらしい。
おじさんに声をかけている。
「お肉を振る舞いましょう。
おじさんと盛り上がる母親であった。
その日の夜のことである。
だって、自分だけそっちのけで面白そうなことをしていたのだから。
父親だってたまには
「もう! スランってば!」
そんなことを言いながらも、母親はお酌をして機嫌をとるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます