第723話 おじさん魔導武器を作ってしまう


 引き続き、公爵家本邸の実験部屋である。

 おじさんと母親、祖母の三人が頭を突きあわせていた。

 

「できちゃったわね」


「できた、ねぇ」


「できましたわ!」


 三者三様ではあるが、同じ言葉を発する。

 おじさんたちの前には、三本のロング・ソードができあがっていた。

 

 見た目はなんの変哲もないロング・ソードだ。

 作り方は太刀のときと同じである。

 

 おじさんが錬成魔法を使って、どんと実物を作ってしまう。

 刀身となかごの部分も含めて。

 

 あとはなかごの部分に古代星神紋様を刻む。

 この作業になかなか骨が折れる。

 

 そもそも刻める箇所は多くないのだ。

 いろんな効果を持たせてみたいが、最初はひとつだけ。

 かんたんなものから始める。

 

 ここにきて思うのは、あれこれ好きにはできないということだ。

 神々にも関係性があって、相性がいいのと悪いのがある。

 

 そのためなんの配慮をせずに神紋をならべてしまうと、効果を発揮しない。

 なかなか面倒臭い。

 

 ただ――やはり下級神とは言え、だ。

 神の力を降ろせる武器というのは魅力的である。

 

「さっそく実験といきましょう!」


 おじさんが母と祖母を見る。

 二人もおじさんを見て、晴れやかに笑った。

 

 いやワクワクとしているのだろうか。

 目が輝いている。

 

『主よ、この大太刀も持っていくといい。トリガーワードなら我が解析しておいた』


「さすがトリちゃん! かゆいところに手がとどきますわね!」


『ぬわははは! 我はできる使い魔であるからな!』


 他愛のないやりとりをしつつ、準備をして庭へとでるおじさんたちだ。

 庭へでると、祖父がまだ大太刀を振っていた。

 

 クルクルと回るのはやめたらしい。

 どうすればいいのか試行錯誤の途中であるようだ。

 

「おお! リー! できたのか!」


 おじさんを抱き上げてしまう祖父だ。

 祖父もまた楽しみにしていたのだろう。


「もちろんですわ!」


 にこやかに言うおじさんである。

 

「うむ。では早速だが見せておくれ」


 おじさんを下ろして、祖父が言う。

 

「では、まずはわたくしからいきますか」


 自分の宝珠次元庫からロング・ソードをだすおじさんだ。

 ちゃんと持ち手の部分も仕上げてある。

 

垂氷たるひ神の力を!」


 おじさんがトリガーワードを唱える。

 すると、ボヤッとロング・ソードが輝いた。

 そのまま土魔法で作った標的を切りつけるおじさんだ。

 

 一刀両断。

 

 右袈裟に斬られた標的がずるりと落ちそうになる。

 が、その瞬間斬られた箇所から凍結していく。

 あっという間に標的が凍りついてしまった。

 

「おおう! なんちゅう威力なんじゃあ!」


「従来の魔法剣なら切られた箇所を凍結させるくらいはできますが、ここまでできますか」


 カチンコチンになった標的の表面を、コンコンと叩くおじさんだ。

 すると氷漬けになった標的が、パリン、と音を立てて崩れる。

 

 その様子を見て、声をだせない祖父母と母親であった。

 

 おじさんは無言で標的を作り出す。

 同じものだ。

 

「いやああああ!」


 母親がロング・ソードを振るう。

 母親が試したのは熾火の神の力である。

 

 一刀両断の後に標的が燃えあがった。

 灰になるまで消えないという効果付きである。

 

「最後は私さね!」


 祖母が刻んだのは草原の神の紋だ。

 標的はが斬れると同時に草が生え、そのまま標的を覆ってしまった。


「……スゴいですわ! お母様もお祖母様も!」


 おじさんがぴょんと跳びはねる。

 母親とハイタッチして喜ぶ。

 

 一方で祖母はロング・ソードと標的を交互に見る。

 そして、少しだけ沈思してから口を開く。

 

「リー、ヴェロニカ。魔導武器は門外不出。というか、これは王家で管理させるものさね」


 祖母の言葉に、おじさんと母親が首をかしげる。

 似たもの親子であった。

 

「さすがにこんな武器は量産しちゃ危険だ。作るのはいいけど、管理は王家に任せた方がいいさね」


「……そんなものですか?」


 おじさんの言葉にしっかり頷く祖母である。

 

「お祖母様、わたくしはあの巨大ゴーレムの武器をこの魔導武器で作ろうと思ったのですが」


「はう! なんてことを考えるの、リーちゃん! あの巨体に合わせるサイズなら、たくさん刻めるわね」


「そうなのです! 絶対に楽しいと思うのです!」


 いえーいとハイタッチする二人だ。

 その姿を眩しそうに見る祖母である。

 

 本来なら祖母だってあっち側だ。

 ただ無邪気に喜ぶことはできない。

 

 たった一つの神紋を刻んだだけでこれなのだから。

 その辺りの感覚はなんだかんだ言って、王族出身なのかもしれない。

 

「よいではないか、ハリエット。リーの好きにやらせてやればいい。その管理をわしらがすればいいだかじゃからの」


 祖父が声をかける。

 鷹揚なその言葉に苦笑まじりの笑みを作る祖母だ。


「だねぇ。まぁなんにせよ、王国の戦力が増えるのは悪いことじゃない。管理をしっかりしないといけないが……まぁその辺は考えようじゃないか。なぁトリスメギストス殿!」


『え? 我も?』


「当然だろう? トリスメギストス殿がそそのかしたのだから」


 しれっと巻きこむ祖母であった。

 使えるものはなんでも使うの精神である。

 

『むぅ。仕方ないな、主のためならば我も協力しようではないか』


「頼む」


 素直に頭を下げる祖父であった。

 

『まぁ大船にのったつもりでいるがいい。それはそうとだな。あの大太刀も試してみんか?』


 にぃと笑う祖父である。

 

「ワシがやる」


『では、御祖父殿にトリガーワードを伝えよう』


 祖父と内緒話をするトリスメギストスであった。

 その話し合いが終わり、祖父がおじさんから大太刀を受け取る。


「いくぞ! だっだあん、ぼよよん、ぼよよん!」


 膝から力が抜けるおじさんだ。

 なんでそのトリガーワードなのだ、と。

 

 これも転生者の悪いところがでている。

 

 標的が燃え上がっているところを見ると火に関する神なのだろう


「んーメンダム!」


 祖父が次の標的の前にトリガーワードを切り替えた。

 こちらは雷系だろうか。

 ビリビリと電撃が走っている。


「次じゃあ、ごぉまぁりさぁん!」


 ぬりゃあと大太刀を振るう祖父。

 そのかけ声というか、トリガーワードよ。

 おじさんは力が抜けっぱなしだ。


 これはなんだろう。

 斬られた箇所から腐食しているのだろうか。


「最後じゃああああ! かっこインデグラ!」


 そのトリガーワードを唱えた瞬間である。

 大太刀が伸びた。

 さらに大きくなって伸びたのだ。

 

「なぬぅ!」


 予想外に刀身が伸びたことに驚いた祖父である。

 おじさんが走った。

 

 懐かしの台詞シリーズに心が折れている場合ではなかったのだ。

 一瞬にして横凪に振るわれた長大な刀身の下に潜りこむ。

 

 同時に、はいやーと気合いを入れて下から垂直に蹴り上げたのだ。

 止めるのは難しい。

 

 なら軌道を変えるしかないと判断したためである。

 

 だが――おじさんの耳に聞こえてきたのは甲高い金属音であった。

 

 祖父がバランスを崩して転けてしまう。

 おじさんはそれどころではなかった。

 

 なにせ蹴り上げたことで、刀身が折れてしまったのだから。

 

 空中をクルクルと回転しながら刀身が舞う。

 太陽の光を浴びて、キラキラしながら。

 

 蹴り足をあげたまま、おじさんは刀身を見ていた。

 

『主!』


 トリスメギストスからの声で我に返るおじさんだ。

 落ちてきた刀身が地面に突き刺さる。

 

「お祖父様!」


『うむ……まぁ仕方ないであろう。刀身が伸びることは伝えていたが、我もあそこまで伸びるとは思っておらなんだ。すまぬ』


「そんなことはいいのです! トリちゃん。直せばいいだけの話ですから。お祖父様、お怪我はありませんか?」


「ああ、大丈夫じゃ」


 おじさんはその言葉に頷いた。

 そして、祖父を一瞥する。

 無事を確認してから、祖母と母親に顔をむけた。

 

「お祖母様、お母様も、少し下がっていてくださいませ」


『どうした? 主よ?』


「きますわよ、トリちゃん!」


 そう。

 おじさんが動きをとめたのは折ってしまったからではない。

 折れた瞬間に、奇妙な魔力の動きが見えたからである。

 

 おじさんの声が終わるとともに、折れた刀身から光がこぼれるのであった。

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