第719話 おじさんコーヒーブレイクを満喫する
鬼人族の里で、嘘つきトカゲの唐揚げを食すおじさんたちだ。
揚げ物という発想は、鬼人たちに今までなかったのだろう。
なにせ油そのものが貴重なのだから。
その油を大量に使う料理である。
もう何度かめになる、どんたろすが披露されたのであった。
「お父様、この後もお話を詰めますの?」
「そうだね。もう少し詰めておこうかな」
食後のお茶を飲みながら、おじさんは思っていた。
コーヒーの豆を手に入れたのを忘れていた、と。
「あ、でも。お母様には召し上がっていただくわけにはいきませんか」
「ん? なんのことかしら?」
おじさんの言葉に母親が反応した。
「蛇人族の里で手に入れたヒーチェリのことですわ。あれを使った飲み物を作ろうかと思ったのです」
「ほおん……それは気になるわね」
「でしょう? でも……」
おじさんは母親のお腹に視線をむける。
それで察する母親であった。
「仕方ないわね」
軽く両手をあげて応える母親だ。
「私はこのモロシコのお茶も気に入っているのよ」
母親は笑みをうかべて、おじさんを見る。
おじさんも母親にむかって微笑むのであった。
そこで、はたと気づくおじさんだ。
コーヒーと言えば、である。
デカフェやカフェインレスなどがあった。
要は豆からカフェインを抜いてしまう技術である。
確か……おじさんは錬成魔法を発動した。
カフェイン抜けろっと念じながら。
それでもヒーチェリがペカーと光る。
「トリちゃん!」
『我はライグァタムの頂上で採取した植物の解析で忙しいのだが』
「このヒーチェリの豆を見てくださいな。こっちとそっちでなにか成分が違っていますか?」
おじさんの有無を言わせぬ態度に従う使い魔である。
『うむぅ……確かに成分が抜けておるな』
「やりましたわ! あとは焙煎して味を確かめてみましょう」
さっそくヒーチェリの豆を焙煎するおじさんである。
火の魔法など今や手足のようなものだ。
おじさん好みのフレンチローストにする。
その豆を錬成魔法で細かく挽いてしまう。
「あ、フィルターがありませんわね。ここはネルドリップでいきましょう」
おじさんはペーパードリップ派である。
特にこだわりがあったわけではなく、使いやすかったからだ。
ネルドリップはフランネルという生地をペーパーの代わりに使うものである。
おじさんの手元には五十グラムほどの粉末があった。
だいたい五杯分くらいの量だ。
ポンポンと魔法で必要な道具を作りながら手早く作っていく。
もちろん魔法でカフェインを抜いた豆である。
本来のデカフェは、少量のカフェインが残っているものだ。
だが、おじさんの錬成魔法に不可能はない。
実際に淹れてみたコーヒーに口をつける。
やはりカフェインがない分、すっきりあっさりとした味わいだ。
逆に言えば雑味がない。
おじさん的には物足りないが、やはり皆が楽しめる方がいいのだ。
「ええと……リーちゃん?」
父親がおじさんに声をかける。
なにやらそばで魔法を連発しているからだ。
「少々お待ちを」
おじさんがコーヒーをいれたカップを渡す。
自分の分に加えて、母親と父親、それに里長の分だ。
「本来の味とは少しちがいますが、これでも十分おいしいのですわ。お好みでミルクやお砂糖を入れてくださいな。おすすめはミルクのみ入れたものですの」
おじさんは自分のカップにミルクを注ぐ。
黒い液体が茶色へと変わる。
それに口をつけるおじさんだ。
「うん。おいしいですわ。ミルクの風味も感じられます」
にっこりと微笑むおじさんだ。
カフェイン入りのものは、妹か弟が生まれてからでいい。
「ほおん……これはおいしいわね」
「そうだね……とっても風味がいい。すっきりしていて飲みやすいね」
里長も驚いている。
モロシコのお茶とはまったく風味がちがうからだ。
「お茶請けには焼き菓子でいいでしょう」
宝珠次元庫から焼き菓子をだして、ニコニコとお茶をするおじさんであった。
「公爵閣下、この飲み物は手に入りますのかのう」
「あーこれは蛇人族の里の特産品でねぇ。まだ安定して手に入れるのは難しいのかな?」
おじさんを見る父親だ。
「もう少し時間はかかるでしょうが、将来的には安定供給ができるようにしますわ」
「聞いてのとおりだよ」
おじさんの自信にあふれる言葉に納得する父親であった。
それからも詳細を詰めて、父親は里長と握手をする。
「だいたいこんなところでいいだろう。里長、もしなにかしらの不備があれば、また言ってくれればいい。その都度、対応していこう」
「承知しました。閣下にはお骨折りをいただいて感謝するのですじゃ」
時刻はすっかり夕刻である。
おじさんは母親と魔法談義の最中であった。
「ヴェロニカ、リーちゃん、そろそろ帰ろうか」
父親の一言で帰路につくおじさんたちだ。
最終的な承認は国王や宰相とも相談してからになる。
だが、しっかりとした手応えを感じていた父親であった。
少しだけ時を戻そう。
おじさんの作った浴場である。
「言ったわねぇ妹のくせに!」
「ばーか、ばーか」
おじさんが作ったばかりの浴場で上級精霊の魔力が渦巻く。
ビリビリとした振動が建物を揺らしていた。
「ニーハハハハ! ここは浴場! つまり
「黙れ! ユトゥルナのくせに偉そうに!」
「ながーい間、封印されてた姉とは一緒にされたくありませーん! いえ、その時間を入れればもはや妹! 妹なのよう!」
ぷーくすくすと笑う
「バカはお前だ! ここにあるのは水ではなくお湯! つまり熱を持っている。ならば
「な! なんだってええええ!」
負けじと
二人がカッと目を見開く。
「いくぞ!」
「かかってきなさい!」
高めた魔力を放出しようとしたときだった。
二人の頭にゴチンとげんこつが落ちる。
「にぎゃあああああ!」
そこにいたのは闇の大精霊と光の大精霊であった。
「げええ! お姉様!」
「あなたたちは何をしているのかしら?」
闇の大精霊が
「ユトゥルナ……処してほしいのね」
光の大精霊が
「かわいい末妹が作った場所を壊そうとするなんて許せないわねぇ」
どろりとした笑顔をむける闇の大精霊である。
実に陰湿な微笑みであった。
「ちがっ! ちがうんです! アウローラお姉様! ヘカテイアお姉様!」
「サクヤが悪いんです。リーちゃんが居ないからって無茶なこと言い出して」
「なにぃ! そんなことは言っていないだろうが!」
「ほら! 見ましたか? 姉であることを笠に着て、妹の私をいじめるんです! 私は聖域の管理があるからって言ったのに」
ペラペラと舌を回す
「ほおん……ならミヅハを喚べばいいわね!」
アウローラが言った瞬間であった。
「ふひひひ! リーちゃん、今行くわああ……ぶべら!」
透明の壁にぶち当たる
「なんでこんなところに見えない壁があるのよう!」
素早く起き上がった
だが、時すでに遅しである。
「罠、これは罠です! お姉様!」
彼女が見たのは額に青筋を立てた三人の姉たちであった。
そこへ水柱があがる。
水の大精霊の登場だ。
「っあぁあああぁぁぁぁぁぁ!」
問答無用で成敗される
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