第716話 おじさんねんがんのアイス……魔導武器を手に入れる


 おじさんが大活躍をした翌日のことである。

 早速だが、公爵家ではチビ龍であるウラエウスが人気になっていた。

 

 おじさんにはちゃんと言葉として聞こえるのだが、他の人間にはキュイキュイと愛らしい鳴き声に聞こえるらしい。

 人見知りはしないのか、色々と世話を焼く公爵家の人たちに愛想を振りまいている。

 

 おじさんも一安心である。

 

 朝食も終わり、ケルシーを送り出した後のことだ。

 サロンにておじさんたちは今日の予定を摺り合わせていた。

 

「そうだね、私は鬼人族の里長ともう少し話を詰める必要があるね」


 父親である。

 優雅にお茶を飲みながらの発言だ。

 

 一方で母親はコーンフレークにヨーグルトと果物の甘味を食べている。

 かなり気に入ったようである。

 

「私は……リーちゃんと一緒に行くけど。楽しみでしょ、光る水晶の洞窟なんて見たことないし」


 ワクワクが止まらない様子の母親だ。

 そんな母親の言葉を聞いて、父親もううむと考える。

 そっちにも行きたいからだ。

 

「お父様、魔導武器を取りに行くだけなのです。さほど時間はかかりませんわ。わたくしが結界も張りますし、飛行魔法もトリちゃんがいれば問題ないですの」


「……なるほど。では、先に魔導武器から行こうか」


 と言うことで、おじさんと両親は魔導武器から取りに行くことにした。

 

「ああ、そうだ。今日はアドロスも連れて行こう」


 家令である。

 今後は鬼人族の里とも取引するのだから顔を見せておく方がいい。

 

 話が決まったので、転移の準備に入るおじさんたちだ。

 公爵家の使用人たちはすでに準備を終えている。

 

 なので、おじさんが母親と父親に結界を張る。

 

「いきますわよ!」


 鬼人族の里にいるバベルにむかって逆転移をするおじさんであった。

 

「おはようございます、御子様」


 鬼人族たちに出迎えてもらう一行だ。


「里長、わたくしとお父様、お母様は先に件の洞窟へ行ってまいります。その間はこちらのアドロスとお話をしてくださいな」


 名代である家令が静かに頭を下げた。

 

「ほう……それは楽しみですじゃ。是非とも我らも拝見したい」


「もちろんですわ! では、行ってまいります」


 おじさんと両親はまた転移をする。

 もはや転移は見慣れてしまった鬼人族たちであった。

 

 逆転移をしたおじさんたちを迎えたのはランニコールだ。

 前回と同じ場所である。

 

 また雪が降ったのか。

 今は晴れているが、地面が雪で覆われていた。

 

「ほおん……ここが霊山ライグァタムの山頂近くか」


 物珍しげに周囲を見渡す父親である。

 母親も同じようにキョロキョロとしていた。

 

「昨夜、お話ししましたが、この雪の下に植物があるのですわ」


「……なるほどねぇ」


 ここで使い魔を喚ぶおじさんだ。

 トリスメギストスが姿を見せる。

 

『何用かな、主よ』


「トリちゃん、お父様に飛行魔法を。魔力なら好きなだけ持っていってかまいません。ランニコールも必要なら魔力を持っていきなさい」


 二体の使い魔に魔力を供給するおじさんだ。

 

「……リーちゃんの魔力はすごいわね」


「そうだねぇ……」


 間近で見るも、月並みな言葉しかでてこない両親であった。

 

『御尊父よ、最初は慣れんかもしれんが我が完全に制御できるので安心されよ』


「お母様は大丈夫ですわよね? 負担があるのならランニコールに魔法を使ってもらいますが」


「問題ないわ!」


 ビッと親指を立ててみせる母親であった。

 

「では、いざ魔導武器のもとへ!」


 霊山ライグァタムの山頂へと飛行魔法で移動していく。

 山頂にある火口の様子を見て、またもや言葉を失う両親だ。

 

 そして火口の中にある洞窟へ。

 ゲーミング水晶の洞窟だ。

 

「ふわぁ……」


「これはスゴい……」


 話に聞いて想像していた三倍は驚いた。

 なにせあちこちに巨大な水晶が生えているのだから。

 それが魔力を受けて、七色の輝きを放っている。

 

 ゆっくりと飛行魔法で洞窟の中を進んでいく。

 

 お次に縦穴を降りて行くと、ついに目的地である。

 地下にある小さな湖。

 その中央にある島に大太刀が突き刺さっていた。

 

「これはリーちゃんが言うのもわかるわね」


「ああ……なにかを封印しているは言い得て妙だ」


 怪しげな雰囲気が満載なのだ。

 地底湖の湖底に見える人面の岩にしても。

 この縦穴の雰囲気にしても、だ。

 

 闇の大精霊が言っていたが、初代トウジロウはお茶目な人だったらしい。

 色々といたずらを仕掛けているのだから。

 

「そうですわ! せっかくですから、お父様とお母様のお二人であの大太刀を抜いてはいかがですか!」


 おじさんとてロマンを解する者である。

 このシチュエーションはあれだ。

 聖剣を抜く勇者のパターンである。

 

 控えめに言っても突き刺さっている大太刀が無骨すぎて、聖剣には見えないのが難点だが。


 ふふふ、と母親が笑う。

 ははは、と父親も笑った。

 

「じゃあ三人で抜こうか」


 両親の声がかぶった。

 それでおじさんも笑う。

 

 仲のよい親子である。

 

 おじさんもそれを否定せずに、空を飛んだまま三人で大太刀の束を握る。

 

「せーの、でいきますわね!」


 こくんと頷く両親である。

 

「せーの!」


 三人が力を込めて大太刀を引き抜いた。

 さほど力をこめたわけではない。

 あっさりと引き抜けてしまったのだ。

 

 それにちょっと拍子抜けをするおじさんである。

 

 だが――大太刀を引き抜いた瞬間であった。

 

 ゴゴゴゴと地鳴りのような音が鳴る。

 さらに湖底にあった人面を模した岩がせり上がってくるではないか。

 

 やはり何かを封印していた、のか。

 そんなことを思いつつ、警戒する三人だ。

 

「ランニコール、トリちゃん!」


「うむ」


 使い魔たちも油断をしている様子はない。

 ことの成り行きをしっかりと見守る。

 

 人面の岩が水上に上がってきたところで動きをとめた。

 地鳴りも収まる。

 

 次の瞬間、パカッと大口を開けるように口が開いた。

 その口の中には台座があって、その上に宝箱が見える。

 

「あれはなんでしょう?」


『主よ、すでに解析してみたが罠はない』


 できる使い魔である。

 

「では、開けてみましょうか」


 おじさんが飛んで近づく。

 口の中に入って、宝箱を開けた。

 

 そのときであった。

 口が閉じてしまったのだ。


「まったく。そんなことだと思ってましたわ」


 おじさんの言葉が聞こえたと思うと、バゴンと人面岩の口が開いた。

 どうやら宝箱を開けると、口が閉じるようになっているみたいだ。

 

「ま、なんの問題もありませんでしたけど」


 おじさんの手には一枚の石版が握られていた。

 その石版には――

 

『な なにをする きさまらー』


 ――と日本語・・・が彫られていた。

 これで確定である。

 今までの所業を見れば確定したのも同じだったが。

 

「さて、帰りますか」


 無事に魔導武器も手に入れた。

 初代の残した石版もだ。

 まだ続きが彫られているが、それは後でいいだろう。

 

「楽しかったわぁ」


「そうだねぇ」


 両親もおじさんなら大丈夫だと思っていたのだろう。


「リーちゃん、後で石版を解析しましょう」


「ですわね!」


 日本語だから読めるとは言いにくいおじさんである。

 

「あと、あの水晶持って帰ってもいいかしら?」


 母親の問いに父親が首をひねりながら答えた。


「んー少しくらいならいいんじゃないか?」


「まぁわたくしも持って帰りましたので」


『かまわんだろう』


 トリスメギストスも答える。

 ということでゲーミング水晶を持ち帰ったおじさんたちであった。

 

『ママぁ!』


 鬼人族の里に戻ると、炎帝龍が飛んでくる。

 それを受けとめて、頭をなでてやるおじさんだ。

 

 父親が持っている大太刀。

 それを見た鬼人族たちは、おお、と声をあげた。


『主殿、少しよろしいでおじゃるか?』


 バベルである。

 

『あ! ひょっとしてありました・・・・・か?』


『主殿の言うとおりのものがおじゃった。温泉であるな』


「いいぃいいやっっふうううううう! ですわ!」


 おじさん、実は楽しみにしていたのである。

 この地形なら、必ずあると踏んでいたのだから。

 

「え? リーちゃん?」


 父親がおじさんに声をかける。

 珍しく娘が大声をあげて喜んでいるのだから。

 

「お父様、バベルが温泉を見つけてくれましたわ! わたくし、ちょっと行ってまいります!」


 父親と母親が返事をする前に、転移で姿を消すおじさんだった。

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