第708話 おじさんと外なる神の戦いは新たなる段階へ進む


 鬼人族の里である。

 おじさんと外なる神との戦いの余波は、ここまで届いていた。

 

「山が、山が揺れておる」


 里長がつぶやくように言う。

 巫女であるオハルは魔力に敏感だ。

 先ほどから、おじさんの魔力が高まっていることは理解していた。

 

「大丈夫です。御子様の魔力の影響ですから」


「ハッハッハ……オハルよ。魔力の影響で山が揺れるとかありえん……」


 里長は孫であるオハルを見た。

 その真剣な表情はまったく変わらない。

 となると――。

 

「ありえるの?」


 里長の問いにこくんと頷くオハルであった。


「あの……」


 とオリツが手をあげて言う。

 

「御子様なら雑作もないことかと」


 短い間だが、公爵家でお世話にあったオリツは知っている。

 おじさんがどれだけ規格外かを。

 

「うむ……まぁなんじゃ」


 ポリポリと頬を掻いて、里長は笑った。

 笑ってごまかしたのだ。

 

 

 一方でおじさんである。

 霊山ライグァタムの地下にある闇の間だ。

 

 溶岩を操り、その中に姿を隠す炎帝龍こと外なる神。

 その神と相対するおじさんだ。

 

 先ほどから一進一退の攻防が続いていた。

 外なる神は溶岩を操り、おじさんを攻撃する。

 しかし、おじさんには当たらない。

 

 当たったとしても、おじさんが纏う鎧が無効化してしまう。

 逆におじさんの攻撃も決定打を欠いていた。

 

 なぜなら外なる神は溶岩そのものと一体化しているからだ。

 

 おじさんは外なる神の魔力を強く感じる場所に魔法を撃つ。

 だが、惜しいところまではいくが逃げられてしまうのだ。

 

 先ほどから何度か繰り返される攻防である。

 このままでは埒が明かない。

 

 そう大精霊たちも思っていた。

 ちなみに光の大精霊であるアウローラはミヅハが背負っている。

 

 ミヅハの背でプスプスと煙をあげている状態だ。

 

「_+ミQpqd*ゥンコ! ティンMティン%!」


 溶岩の怪獣が頭だけを何個も作った。

 その口から、ブレスのようにして溶岩を吐きだす。

 

 避けるのが面倒だ。

 おじさんがそう考えたとき、神の鎧が光の障壁を張る。

 その障壁の表面を伝って、溶岩が落ちていく。

 

「トリちゃん、そろそろ頃合いですわよ」


『で、あるな!』


 おじさんは先ほどから、一見して同じことを繰り返してきた。

 だが、それは単なる陽動である。

 

 おじさんの本命は溶岩の支配権を奪うこと。

 ヴァーユから魔法の制御権を奪ったように、だ。

 

 おじさんの神眼は見切っていたのである。

 炎帝龍が持つ魔力と外なる神の魔力、溶岩に干渉して支配している魔力。

 

 それらの識別に時間がかかったのだ。

 今、その準備が整った。

 

 見切ってしまえば、後はやるだけだ。

 おじさんがパチンと指を弾く。

 

「GPo3ガクブルLォqkジョウコウxR"Q???」


 外なる神が何事かを言う。

 が、それは理解できない。

 ただ戸惑っているような感情は伝わってきた。

 

「さぁいきますわよ!」


 おじさんが指を指揮棒のように振る。

 その動きにあわせて、溶岩が宙へと舞い上がった。

 

 指をクルクルと回すと、溶岩も蜷局とぐろを巻くように動く。

 

「;Kァヮダメポ|orz」


 そして溶岩の半分以上が空中へ。

 残されたのは炎帝龍の本体らしきもの、それと外なる神の本体ともいえる塊であった。

 

「ようやく丸裸にできましたわ!」


 さらに、おじさんが指をクルクルと回すと溶岩が固まってしまう。

 黒い岩になった溶岩を雨あられと降らせるのだ。

 

 

「pビレ@ゾンvQ!」


 外なる神の塊が炎帝龍の本体にとりつく。

 一瞬で同化して、外皮を黒く固めてしまった。

 

 が、おじさんの振らせた火成岩はその外皮を貫く。

 おじさんが魔力で固めたのだから。

 同じ物質でも硬度がちがうのだ。

 

「とは言えです、か」


 おじさんの目にはダメージがとおっているように見えない。


 瞬間、炎帝龍の本体がおじさんに襲いかかる。

 本来の龍の姿に戻り、大きな顎でかぶりつこうとしたのだ。

 

 おじさんに焦りはなかった。

 短距離転移で炎帝龍の頭上に移動して、はいやーと踏みつけたのだ。

 

 得意の震脚である。

 本来は踏みこみの反作用を得るものだ。

 それを炎帝龍の頭に炸裂させた。

 

「ktkr! :\ヲ0!」


 衝撃に耐えられず、炎帝龍の頭の部分が粉々になった。

 さらにおじさんは跳び上がって、両腕を頭上へ。

 

「背信者の汚名を進んでかぶる者! 罪業深き闘争者たり! ドゥ・ア=キラ・スウカ・リヨウ!」


 詠唱を続けながら、頭上から腕を振り下ろす。

 

「ガーイム・シ=レーヌ!」


天魔破陣ディ・アーブル!】


 おじさんの両腕の先に魔法陣が描かれる。

 そこから黒き竜と白き竜が咆哮をあげながら、二重螺旋を描くように飛ぶ。

 

 炎帝龍の本体に食いこみ、さらに身体の中を進んでいく。

 

「そこですわ!」


 おじさんがクンと人差し指と中指を上に持ち上げる。

 

「7R:[66ツラレタクマーXvMaWm」


 白と黒の竜がその顎にて、外なる神の本体に食いついていた。

 だが、一筋縄ではいかない。

 

 炎帝龍の核ともいえる魔力と同化しているのだから。

 このままでは、おじさんも攻撃を加えることができない。

 なぜなら核が消えてしまうのは、よろしくないからだ。

 

「こざかしいですわね!」


『主よ! 我の出番であるな!』


【魂魄剥離!】


 トリスメギストスが魔法を使った。

 それは建国王の魂を救ったものだ。

 聖女とその妹にも使った。

 

 魂を分割する魔法である。

 

 炎帝龍の核と外なる神の本体が分割された。

 瞬間、おじさんは結界を作って炎帝龍の核を保護する。

 

「6SHvc6%モチツケN"+」


 間一髪であった。

 外なる神が炎帝龍の核にとりつく前に結界が発動したのだ。

 

 さらにおじさんが手を握る。

 白い竜と黒い竜が弾けた。

 

 大爆発だ。

 

「さて、これで終わましたか?」


 その言葉が言い終わらないうちに、おじさんは身を躱す。

 おじさんがいた場所を通過していく、黒いなにか。

 

「存外、しぶといですわね」


「あ゛、あ゛……あ。これでいいか」


 爆煙が晴れていく。

 そこにいたのは黒い歪な球体に触手が生えたものだった。

 球体の表面には臓器らしきものや口までついている。

 

「貴様、邪魔をしおって」


 意外とイケメンボイスである。

 見た目に反して、聞き取りやすい。


「ふむ……あなたは何者ですの? 外なる神と聞きましたが」


 おじさんは平常運転であった。

 大精霊たちはその醜悪な姿を見て、顔をしかめていたが。


「妖麗なる怨霊神ヴ=ト。我が姿を見れたことを光栄に思うがいい!」


「ほおん……この世界にはあなたのような外なる神の居場所はありませんわ」


「なければ作るまで」


 ヴ=トの身体から触手が伸びる。

 その触手は光の障壁で焼け落ちた。


 だが、一本や二本焼けてもヴ=トは攻撃をやめない。

 やがて光の障壁そのものを触手で包んでしまうのであった。

 

「リーちゃん!」


 声をあげたのは風の大精霊であった。

 

「安心しろ。あの程度では障壁を破ることはできん」


 水の大精霊であるミヅハが応える。

 

「ですが……焼かれることを承知で包むということは何かしらの考えがあるのでは?」


 闇の大精霊が疑問を口にした。


「見ておくといい。外なる神の一柱とて、我らの妹にかかれば……」


 ミヅハの言葉が言い終わらないうちに、触手の壁から光が漏れる。

 それは少しずつ輝きを増していく。

 

「なん……だと?」


 外なる神ヴ=トは困惑するしかなかった。

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