第707話 おじさん外なる神の一柱と戦う
ゴゴゴと地鳴りがする。
闇の大精霊が封印を解いたのだ。
祭壇が地に飲まれていく。
そして溶岩がじわじわと大穴の底からあがってくる。
おじさんたちは宙を飛んでいた。
「あの溶岩が厄介ですわね」
『どうするのだ、主よ』
「すべて凍らせてしまいますか。いえ……それもよくないですわね」
ここを封じたとしても、どこかで溶岩は噴出する。
押さえつけるだけではダメなのだ。
「もう少し様子を見ましょう」
この大穴は入り口の部分が狭く、地下に降りて行くのに従って直径が大きくなっている。
逆すり鉢状とでも言えばいいだろうか。
半ば辺りまで溶岩で埋まったときである。
溶岩の中からボコリと手がでてきた。
巨大な人の手だ。
溶岩が固まったような、ゴツゴツとした黒い岩の塊である。
次に頭がでてくる。
龍を模したものだが、ゴツゴツとした岩に覆われていた。
龍に人の形を与えたような怪物だった。
まさに神話にでてくるような威容である。
おじさん的にはゴリラのような身体とクジラが好物が由来の怪獣を思う。
「はは……なんだあれは!」
ミヅハが叫ぶ。
「ちぃ! 封印の間も力を増していたのね!」
ヴァーユが舌打ちをした。
「これは……勝てるのですか?」
闇の大精霊は不安を隠せない。
封印が破られかけるということは、そういうことだ。
自らの力と比肩しうるから、そうなるのである。
だが……ここには大精霊が四人もいるのだ。
だから、勝てると踏んでいたのだが。
「ミヅハ、ヴァーユ。私たちは結界を全力で張るわよ! リーちゃんの足を引っ張っちゃダメ!」
アウローラがまともなことを言う。
「お姉様方! 結界をお願いしますわ! わたくし、ちょっぴり本気をだしますから」
おじさんがペカーと光る。
顕現するのは光神の鎧と小手だ。
アクエリアスとアンドロメダに身を包むおじさんである。
完全武装バージョンになったわけだ。
白金の下地にアクアブルーのラインが入る鎧と小手。
約束された勝利の女神の姿だ。
その神々しさに思わず息をのむ大精霊たち。
「はぁぁあああああああ!」
おじさんが魔力を解放する。
霊山ライグァタムが鳴動した。
巨大すぎる魔力に反応したのである。
だが、それもわずかな時間だけであった。
おじさん完璧に魔力を制御しているのだから。
「相手にとって不足なし! ですわね」
『主よ……やりすぎるなよ』
「トリちゃん、いつもどおりにいきますわよ!」
『任された!』
「フ%ス#フメヲォIウンコ、gクサイ! fモム5>Ql}-ヨW、8サ]ヌルポッ*"ガッm%GギV+」
怪物が何事かを発した。
その声の大きさだけで大穴が震える。
ビリビリとした振動によって溶岩が噴き上がった。
「ちょっとなに言ってるかわかりませんわね」
華麗に溶岩の柱を回避しながら、おじさんは首をかしげた。
大精霊たちはさらに上へと飛んで結界を張る。
瞬間、溶岩が大穴全体に噴き上がった。
今度は逃げ場がない。
「リーいいいいいいい!」
大精霊が叫ぶ。
どろりと溶岩がおじさんを包んでしまった。
「その程度ですか。外なる神々というのも案外大したことありませんわね」
おじさんは無傷だった。
光神ルファルスラの鎧――アクエリアスが防いだのだ。
おじさんの身の回りに、球状の防壁を張って。
さらに、おじさんの魔力が解放されていく。
もはや大精霊どころの話ではない。
世界すら覆うような膨大で底のない魔力。
その魔力を吸収して、より強くなっていく神の鎧と小手。
「はあああああああ!」
おじさんの桁違いの魔力が収束する。
同時に、怪物の周囲から白金の鎖が現れた。
アンドロメダの鎖だ。
ただ、二本だけではなく四方八方から怪物を拘束していく。
一瞬にしてがんじがらめになる怪物。
「いきますわよ!」
パンと両手を合わせるおじさんだ。
次の瞬間。
アンドロメダの鎖が怪物を締めつけた。
暴れる巨大な怪物だ。
しかし、神の鎖は獲物を逃がさない。
「ゎ6サガでビヒ>キボンヌ.! FUガデBルヲてョアゲポヨ!」
ばがん、と派手な音がした。
鎖の締めつけが強すぎて、怪物を覆う黒い岩にヒビが入ったのだ。
「はいやあああ!」
さらに、おじさんが声をかける。
亀裂が大きくなり、ごばっと音を立てて岩が割れた。
アンドロメダの鎖が岩を砕き、さらに食いこんでいく。
「WkTkリDピタゴラvvスイッチ+ベガ7ヵハイu7ワロス!」
そして――さらに締めつけて割れた。
粉々に。
四方八方に黒い岩が飛び散る。
だがそれは効果がなかったようだ。
なにせ中身はドロドロの溶岩である。
「ふむ。あれは外殻ということですか」
おじさんは冷静に見ていた。
そも鎖の締めつけごときで倒せるとは思っていない。
眼下に広がる溶岩の海。
そこにいるはずの本体を見つけなければ。
「さて、どうしますか」
『主よ、魔力視でもわからぬか?』
「先ほどから使っていますが、溶岩そのものが魔力で覆われています。恐らくは支配下においているのでしょう」
『そうか……ならば魔力視で位置を特定するのは難しいな』
ドンと溶岩の海から幾本もの柱がでてくる。
おじさんの位置をしっかり把握しているようだ。
軽く躱しているおじさんが、次々と柱が襲ってきた。
それでも当たらない。
まるで先読みでもしているように、おじさんは事前に察知してしまう。
後ろからの攻撃でも同様だ。
背中にでも目がついているのかと思うくらい通用しない。
お互いに決め手を欠く状況であった。
敵の攻撃は苛烈を極めていく。
柱という攻撃に加えて、巨大な溶岩の塊を弾丸のようにして飛ばしてくるからだ。
だが、おじさんには短距離転移がある。
思いのままに空中を飛びながら、短距離転移を併用して動く。
その動きに敵はついていけないのだ。
「ふむ……どうにも決め手を欠きますわね」
『主よ、溶岩を減らしてみるか』
「ああ……その手でいきますか」
パン、と手を合わせて高速で魔力を練り上げるおじさんだ。
「トリちゃん、制御を任せますわよ」
『心得た!』
「ド・ラグ・スー・レイヴ・ラ・グナー・ヴー・レイド・ザム・ディン!」
歌うように詠唱を続けるおじさんだ。
詠唱が進むたびに、積層型の立体魔方陣ができあがっていく。
今回は範囲の指定もばっちりだ。
岩壁ギリギリのところまで広げている。
【
なにもかもを虚空の狭間に消し飛ばしてしまう魔法である。
ごっそりと溶岩が消えた。
だが、まだ三割ほどは残っているだろうか。
「ズ^ゾボゲロオm20! ncオモテタントチガウOkヵア4!」
金属と金属をすりあわせたような不快な音だ。
ボコリと音がして、再び龍と人を混ぜたような姿を見せる。
『ふむぅ。どうだ、主よ。見つかったか』
「そうですわね……だいたい場所はわかりました」
んーと狙いをつけるおじさんだ。
【
黒い閃光が溶岩を割った。
「サ!ンガ0ツクレLkメンスIヌヵ,{ヲ3;!?」
むふふ、と笑うおじさんだ。
今のでだいたい理解した。
これならいける、と確信したからである。
一方で上空にいる大精霊たちである。
「あの……お姉様」
闇の大精霊が口を開いた。
その表情は完全にとまどっている様子だ。
「私たちの……その……妹なのですが」
ニヤニヤとする三人の大精霊たちだ。
闇の大精霊の言いたいことなら理解している。
いかに愛し子といえど、軽く大精霊を超える魔力。
さらに己の手足のごとく魔法を操る姿。
しかも、身にまとうのは光神の鎧だ。
なにか信じられないものを見たという感想しかない。
「なぜ、先ほどの魔法をもう一度打たないのでしょう?」
闇の大精霊が首をかしげながらミヅハたちに聞く。
「あれを打ってしまったら炎帝龍ごと消えてしまうからな」
ミヅハがすぐに返答する。
「消える?」
「正確なところはわからないけれど、そいういう性質をもった魔法ってこと」
ヴァーユが付け加えた。
「言ったろう? 私たち姉妹の中で最も頼りになる者だ、と」
ミヅハがどや顔で言う。
「私たちでも軽くあしらっちゃうくらいだもの」
思い出したのか、自嘲するような笑みをうかべるヴァーユだ。
「あったりまえでしょ! なんたって私の旦那さ……」
アババババと神罰を食らうアウローラであった。
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