第684話 おじさんなんだかんだで一件落着させる
女神の空間にて、魔神たちが争っている。
特に張り切っているのが召喚されたばかりの女魔神だ。
「死にてぇやつだけががっでごいやぁ!」
もう上半身裸になりそうな勢いの女魔神である。
背中には龍の入れ墨でも入っているのだろうか。
これではヤンキー漫画から反社会的団体の抗争になってしまう。
「おう! 良い度胸してるじゃねえか!」
呼応するのがカーネリアンだ。
どうにも血の気が多いのである。
「吐いた唾ぁ呑まんとけよ!」
「誰にぬかしとるんじゃゴルァ!」
超至近距離でにらみ合う二人だ。
そんな二人を見て、おじさんは呟いた。
「トリちゃん……」
『うむ。あれはもう……わからせるしかないのであろうな』
トリスメギストスが続ける。
『強いヤツが好きや! ……命令できんのは、強いヤツだけや! 的なのりであろうかろな』
「です……か」
おもむろにおじさんは立ち上がった。
そして、両手を組み合わせて頭上に掲げる。
【
二柱の魔神にむかって腕を振り下ろす。
同時に、おじさんの背後に出現した九頭龍が咆哮をあげた。
そして時間さえも止めてしまうブレスを吐く。
「あいだああああああああ!」
女魔神たちが吹っ飛んで時間がとまった。
「やれやれですわ」
おじさんがソファに座って、ひとつ息を吐いた。
そして、指をパチンと鳴らす。
同時に時間が動きだした。
『うむ。もはや水の大精霊よりもモノにしておるな』
「と言うよりも、変質してしまったのでオリジナルに近いのですわ。なので比べることなど無意味だと思いますの」
おほほほ、と笑うおじさんであった。
同時に二柱の魔神が空から落ちてくる。
ランニコールはカーネリアンを、バベルは女魔神を受けとめた。
「主殿、申し訳おじゃらぬ」
「あなたが謝ることはないのです。ランニコールもですよ」
ハッと畏まるバベルとランニコールであった。
さて、とおじさんは頭を働かせる。
女魔神に名前をつけねば、と。
「とは言え、奔放なのは困るのです。あなたたちが上手く導いてくださいな。どうしようもなければ、わたくしが対処するしかないのでしょうね……」
はぁと息を吐くおじさんであった。
「時にバベル。ひとつ聞いておくことがありますの。あなたの伴侶なのですが、なにかこう別名はありませんか」
「別名……」
と顎に手をあてるバベルだ。
「夜の魔神とも呼ばれておりましたな。夢魔のひとつとしても数え得られていたかと」
「ふむ……夢魔ですか」
おじさんが頭を巡らせたそのときである。
「感服いたしましたぁ! この――! 主様にお仕えさせていただきたい!」
件の女魔神である。
おじさんは短時間でデジャヴを体験してしまった。
「では、あなたの名前はリリートゥですわ!」
由来は夢魔の祖とも言われるリリスから。
黄金の夜明け団という秘密結社では、確か夜の女王にして悪霊たちの女王と位置づけられていた。
ちょうどいいじゃないか、と思ったのだ。
「はい! 私はリリートゥ。主様との絆といたします!」
もう色々と端折ってしまうおじさんであった。
ただ、一言いっておくことがある。
「カーネリアン、リリートゥ。あなたたちはわたくしの使い魔となりました。好戦的な部分をなくせとは言いません。が、もう少し押さえていただかなくては困りますわ」
おじさんに注意された二柱の魔神は下を向いている。
「もし改善が見られないようなら送還するかもしれませんわよ」
その一言に顔を真っ青にする二柱の魔神であった。
彼女たちにとっては、何よりも勘弁願いたい罰なのだから。
おじさんは、送還できるのかなんて知らない。
ただ盛大に釘を刺しておく方がいいと判断した。
だから、しれっと告げたのである。
「さて、そろそろ戻りましょう。あちらにお父様もお母様もお待たせしていますので」
おじさんが立ち上がる。
が、トリスメギストスが待ったをかけた。
『主よ、蛇人の里をどうするかだけでも決めておくといい。もうあやつらは主の配下みたいなものだからな』
「配下って。そんなつもりはなかったのですが……」
『もう遅い。元からいた蛇人は五人のみ。それに加えて主が百を超える蛇人たちを作ったのだ。力関係を考えれば、主の配下のようなものだぞ』
「むぅ……」
事実をトリスメギストスに指摘されたおじさんだ。
生き方を縛るのは嫌いなのである。
ただ――トリスメギストスの言うこともわかるのだ。
「筆頭殿。主様は良かれと思ってやったのだ。そう責めるものではないでおじゃるよ」
バベルが擁護する。
『いや、責めているわけではないのだ。ただ作った以上はきちんと生活が成り立つようにしてやらねばならん。バベル、お主らのところで百人を賄えるか?』
そのとおりだと思うおじさんだ。
「まぁやれんことはないですがな。ただ……先ほど聞こえてきたがダンジョンを活用した方がいいは思う。あちらの方が環境を整えてやることができるからな」
そこまで聞いて、おじさんは決断した。
コルネリウスのダンジョンと結んでしまおう、と。
そしてコーヒー豆の量産をするのだ。
「……承知しました。では、カーネリアンとリリートゥの二人に蛇人の統治を任せましょう。くれぐれも無体なことはしないように」
「心得ましてございます」
女魔神たちが頭を下げる。
「では、方向性は決まりました。行きますわよ!」
ハッと全員の声が揃った。
女神の空間から戻るおじさん一行だ。
隣にはトリスメギストス。
さらに後ろに四柱の魔神がいる。
知らないのが増えたことに、おじさんの両親はとまどいが隠せなかった。
「リーちゃん。増えてるみたいだけど」
父親である。
若干、頬が引き攣っているのはご愛敬だろう。
「成り行きでそういうことになりましたわ。紹介しておきましょうか。ランニコールの配偶者であるカーネリアンです」
呼ばれたカーネリアンがきれいにお辞儀をした。
「もう一人はバベルの配偶者のリリートゥですわ」
リリートゥも丁寧なお辞儀をみせた。
やればできるのだ、二人とも。
「以後、よしなにお願い申し上げます」
二人の声が揃った。
両親もなんだかよくわかっていない。
『御尊父殿、御母堂殿。蛇人たちの扱いであるがな』
その隙にさっさと話を進めてしまうトリスメギストスだ。
よくわかってないうちに言質をとっておく作戦であろう。
「あ、ああ……」
父親はとまどったままだ。
母親はぢっと女魔神たちを見ている。
『主とも相談したのだが、蛇人たちにはここに住んでもらおう。そしてダンジョンと結んでしまって、ヒーチェリを生産する事業に関わってもらうのはどうであろうか?』
「ダンジョン……? ああ、コルネリウスのダンジョンだね。ふむ……」
『住む場所がなければダンジョン内で提供してもいい。主ならすぐに対応ができる』
「ううーん。まぁそれでいいか。というか、キミたちはどう思うんだい?」
父親は蛇人たちに話を振った。
蛇人の巫女であるマ・モザと、補佐のグリヴ=オは困惑するしかない。
がが……とマ・モザが身体を震わせる。
『それでよい。感謝する神子よ』
ひび割れた声であった。
マ・モザの身体に神威の力が宿っている。
恐らくは蛇神なのであろう。
「承りました。あなたの眷属たちのこと、決して悪いようにはしませんので」
おじさんがニッコリと微笑む。
まったく気後れしていないのはおじさんだけである。
「蛇神様のお導きがありましたので、我らに否はありません」
マ・モザに代わって、グリヴ=オが頭を下げた。
これにて一件落着である。
やはり鶴の一声があるのは強い。
「では、よきにはからいましょう」
おーほっほっほと上機嫌なおじさんであった。
一方で残されたままの侍女は深い息を吐く。
きっとまたお嬢様は無茶をしているのだろう、と。
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