第667話 おじさんいつものように後始末をする
神罰を受ける聖女という前代未聞の珍事が起きた。
おじさんがらみだけど。
「ビッ・ガ・ヂュー!」
ケルシーを成敗した聖女が雄叫びをあげた。
右手を天に掲げて、勝ち誇っている。
そんな聖女を見る
さて、どうしたものか。
獣の数字を頭部に刻まれた着ぐるみ姿の聖女。
「どうするのです?」
パトリーシア嬢がアルベルタ嬢に聞く。
「どうもこうも……正直なところ私たちでは手をだせないというか」
「ですわねぇ」
アルベルタ嬢の言葉に同意するキルスティだ。
「今のところ打つ手としては、やはり神殿勢力とコントレラス侯爵家に知られないようにすることでしょう。下手をすると……」
敢えて言葉を濁すセロシエ嬢だ。
だが、ニュクス嬢がはっきりと口にする。
「物理的に首が飛びますわね」
その言葉を聞いて、勢いよく振り返る聖女だ。
まさかそこまでのこととは思っていなかったのである。
「ビッ・ガ・ヂュー!」
ちょっと黙っていてと聖女を一蹴するイザベラ嬢だ。
今後の対応を考えているのだろう。
「現時点では我々しか知らないので、黙っていればいいのですが……一生このままだとすると」
イザベラ嬢の言葉を文学少女であるジリヤ嬢が引き継ぐ。
「隠し通すことはできませんわね」
場に沈黙が流れた。
誰しもが眉に皺を寄せている。
誰一人として聖女が悪いとは言わない。
「ビッ・ガ・ヂュー」
聖女がポンと手を打った。
「ビッ・ガ・ヂュー! ビッ・ガ・ヂュー!」
身振り手振りでなんとか伝えようとする聖女だ。
そこへケルシーが復活してくる。
見かねた脳筋三騎士たちが清浄化の魔法を使ったのだ。
「エーリカ、これこれ!」
ケルシーが聖女にぬいぐるみを渡した。
サロンの中に飾られていたものだ。
ケルシーが呪いで喋れないときに、聖女にパペットを渡されたのだ。
その仕返しなのだろう。
聖女がぬいぐるみを受けとって、顔の前にもってくる。
「ビッ・ガ・ヂュー!」
床にぬいぐるみを叩きつける聖女だった。
ケルシーは腹を抱えて笑っている。
脳筋三騎士も笑う。
「仕方ありませんわね。もうこうなったらリー様に頼るしかありませんか」
アルベルタ嬢が言う。
「ですが……リー様とて神のなさることに」
キルスティが正論を返す。
が、ここで切れるのが狂信者の会である。
おーほっほっほと声が響く。
ニュクス嬢だ。
「リー様こそが神! 神罰なにするものぞ!」
コクコクとニュクス嬢の隣で頷くイザベラ嬢だ。
「リー様に不可能はありません!」
その期待が重いとかは考えない。
おじさんならなんとかできる、としか信じていないのだから。
「あんまりお姉さまに負担をかけたくないのです」
パトリーシア嬢がおじさんを気遣う。
「それはそう!」
そこにも掌を返して、同意する狂信者の会であった。
明けて翌朝のことである。
おじさんは一晩寝てスッキリだ。
妹ががっしりとおじさんに抱きついて寝ている。
身動きがとれないくらいだ。
その身体を起こさないように、優しくはがすおじさんであった。
「今日もいい一日ですわね」
カーテンを少しだけ開けて、窓の外を見る。
今日も晴天だ。
ちちち、と小鳥が鳴いている。
「さて、少し身体を動かしますか」
「おはようございます。お嬢様」
側付きの侍女である。
いつも時間に部屋に入ってくるも、すすすとおじさんの近くに寄った。
「お嬢様、少しお話が」
「なんでしょう?」
「聖女が神罰を受けてしまいました」
朝一番で聞きたくない話だ。
まったく……。
「神罰……ですか」
「はい。ビッ・ガ・ヂュー! としか話せなくなりました」
もう一度、深く息を吐くおじさんだ。
「まぁなんとかなるでしょう。とりあえず外には報せないように。本日は学園も休ませますか」
「それがいいですね。まったくあれがどうして聖女なのか」
「その辺りは神々の思し召しですわね」
深く頭を下げる侍女であった。
おじさんはいつものように外にでて身体を動かした。
特に脳筋三騎士はウズウズしているようだ。
そんな彼女たちを手招きするおじさんであった。
軽く脳筋三騎士をあしらったおじさんたちはサロンに顔をだす。
サロンの中では明るい笑い声が響いていた。
「ビッ・ガ・ヂュー!」
聖女ではない。
妹である。
「ビッ・ガ・ヂュー!」
あははは、と笑う妹だ。
聖女も妹に癒されたのだろうか。
「ビッ・ガ・ヂュー!」
ケルシーも調子にのる。
なんだかんだで蛮族たちは気に入っているのかもしれない。
「さて、皆は学園へ。エーリカはわたくしと居残りです」
決定を告げるおじさんだ。
「えー! ずるーい!」
ケルシーが声をあげる。
学園に行かずに遊ぶと思っているのだろう。
「ケルシー、学園に行くのなら後で栗のお菓子を作っておいてあげます」
「はい! 学園に行きます!」
ちょルフのケルシーだ。
くるりと掌を返す。
「では問題ありませんね」
「はい!」
今度こそ全員が唱和するのであった。
全員が学園を見送った後のことである。
おじさんは聖女を連れて、女神の空間に転移した。
「まぁおよその原因はわかりますが……」
食事の間に詳しい事情を確認したおじさんだ。
そのことをもって確信した。
女神の仕業である、と。
「エーリカ、反省しましたね?」
「ビッ・ガ・ヂュー!」
おじさんにむかって敬礼をする聖女だ。
「では、女神様に祈りましょう。わたくしも一緒に祈りますから」
ステンドグラスにむかって膝をつくおじさんと聖女だ。
そして胸の前で手を組む。
「ビッ・ガ・ヂュー!」
どうにも間抜けな声が神聖な空間に響く。
「エーリカ、声はださなくていいのです」
「ビッ・ガ・ヂュー!」
わかったという合図だろうか。
苦笑しながら、おじさんは目を閉じて祈る。
その効果は覿面であった。
きらきらと光る神威の力が降りそそぐ。
聖女の神罰は解除されたのだ。
「ふぅ……ちょっと調子にのったわ。ごめんなさい、リー」
素直に頭を下げる聖女であった。
「もういいのです。女神様はちょっと過保護なのですわ」
「まぁ……でもいいんじゃない。無視されるよりは」
「それもそうですわね」
おじさんと聖女の二人が顔を見合わせて笑う。
「さて、エーリカ。ついでといっては悪いですが、妹さんを探してみましょうか。そろそろ対校戦で集まった面々も王都からばらけているはずですから」
「あ! すっかり忘れてたわ! やるやる!」
「学園に通っていてはなかなかチャンスがきませんからね。今日で決着といけばいいのですが」
聖女が着ぐるみのフードを外す。
そして首元に手を回して、おじさんが作ったペンデュラムを手にとった。
「これでやるのよね?」
「今、地図を用意しますから」
ステンドグラスの前に設えておいてテーブルの上に地図を広げるおじさんである。
「では、はじめましょうか!」
こうして聖女の妹捜しが再開されたのであった。
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