第644話 おじさん色々と開発したことでご婦人たちのハートをキャッチする
裏庭の
おじさんは
魔道具を作るためである。
先ほどリクエストのあった暖房の魔道具一式だ。
敷物の名を借りたホットカーペットに、クッションやらなんやら。
素材さえあれば、おじさんの錬成魔法の前に敵はない。
まずは人数分を一瞬で作ってしまう。
王妃には椅子もセットだ。
ものの数分で終わらせてしまったおじさんだが、素直に終わらせておけるほど人間ができていない。
ついでにとばかり、おじさんは作りたいものがあった。
本命は弟妹用の着ぐるみである。
ふわふわの毛布生地で作れば、さぞかし似合うだろう、と。
いや――弟に着ぐるみは酷か、とも思う。
さすがにもうすぐ十一歳。
かわいいよりは、格好いいの方がいいだろう。
となると――。
壁際に控えている侍女を見るおじさんだ。
いつもの側付きの侍女である。
侍女のメイド服みたいなのも冬仕様だ。
邸の中は暖房がついている場所もあれば、そうでない場所もある。
なら――侍女や従僕たちにも作ってしまうか。
ちょっとしたサービスだ。
「どうかなさいましたか?」
侍女がおじさんを見て口を開いた。
「いえ。サイラカーヤも冬はその仕様だと寒くないかな、と」
「寒くないと言えば嘘になりますが……動いているとさほど寒さは気にならな……お嬢様?」
おじさんの手もとが光った。
錬成魔法を使ったのである。
おじさんが作ったのはケープだ。
袖がなく、着丈が腰くらいまでのもの。
取り回しがしやすいかと思って作ってみたのだ。
「袖はあった方がいいですか? 着丈はどうでしょう?」
早速、羽織っている侍女だ。
「そうですね。袖がないと動きが制限されてしまいますわね。なので袖はあった方がいいかと思います。ただこの羽織るだけという手軽さも捨てがたく思います」
さすがに付き合いの長い侍女だ。
身体を動かしつつ、しっかり吟味している。
忖度せずに、意見は素直に言う。
その方がおじさんが喜ぶことを知っているのだ。
「着丈は……もう少しあった方が防寒になるかと。特にこう腕を伸ばしたときに、どうしても上にズレてしまうので。もう少し着丈があるといいと思います」
いい意見におじさんもニッコリだ。
おじさん、こういう衣装は知っていても着たことがない。
おじさんなんだもの。
なので生の意見がすごく役に立つ。
「では、袖をつけて、着丈を長くして、と。意匠や色合いはどうですか?」
「そちらは特に問題ないかと。ただ……あまり高級な素材ですと使いづらいですわ。汚れてもいい感じの素材だとありがたいです」
「そうですわね……」
色々と考慮していくと、ピーコートのようなものになってしまった。
まぁこれはこれでいいか、と納得するおじさんだ。
ちなみにアメスベルタ王国では、男性が左前で女性が右前といった区別がなかったりする。
なのでデザイン的に区別をつける必要があるのだ。
ということで、侍女用には丸みを帯びさせたコクーンコートのような形状にしてしまう。
騎士たちにはトレントコートを作ろうと決めたおじさんだ。
ただ騎士たちは数が多くて、素材が足りない。
なので後回しだ。
「どうですか?」
ちょっと自信ありのおじさんだ。
「ばっちりですわ! お嬢様! これをお配りになるのですか?」
「福利厚生も人を使う者の使命なのですから遠慮は要りません」
ニッコリと侍女に微笑むおじさんであった。
が、次の瞬間に小首を傾げる。
「この外套、お父様やお母様も必要かしら」
「……もし余裕がお有りになるのなら作っておく方がいいかもしれませんわね。ただ奥様やご当主様むけとなると、素材は最上級のものがよろしいでしょう」
「それもそうですわね。ちゃちゃっと作ってしまいますか!」
一度、物作りを始めてしまえば、こんなものである。
ひとつ作れば、あれもこれもとなってしまう。
結局、なんだかんだと予定外の物も作ってしまうおじさんだ。
ただ本人はそれが楽しいのだから苦と思っていないのであった。
気づけば、陽が傾き始めている。
夕焼け空だ。
おじさんは侍女を引き連れて、
母親と王妃たちの体力は無限なのか。
近づくだけで、あはは、おほほ、といった笑い声が聞こえてくる。
なんとも楽しそうだ。
「ご歓談中に失礼いたします」
おじさんがペコリと頭を下げて割って入った。
「リーちゃん!」
いちばん近くにいたメイユェが立ち上がって、おじさんをぎゅうとハグする。
そのことに驚いてしまうおじさんだ。
「……なにごとですの?」
絞りだすような声になるおじさんであった。
「むふう。とってもいい食事会ができました! リーちゃんの魔道具のお陰です」
にんまりといった笑顔のメイユェだ。
おじさんよりも少し背の低い彼女だが、手を伸ばしておじさんの頭をなでた。
ほんのりとアルコールの匂いがする。
お酒を飲んだのか。
妊娠していないのなら構わないけれど。
そんなことを思うおじさんだ。
同時に、母親の方をちらりと見る。
助け船を求めたのだ。
「リーちゃん、用意ができたのかしら」
母親が意を汲んで、話をきりだしてくれた。
さすがにおじさんのことをよくわかっている母親だ。
「はい。魔道具一式、揃えてまいりました」
と、宝珠次元庫ごと渡してしまうおじさんだ。
容量的には市販サイズのものよりも若干大きいくらい。
これなら渡してしまっても問題ないだろうという判断だ。
いちいち道具をだしてから、収納してもらうのも面倒だし。
「うわぁ! ありがとう、リーちゃん!」
王妃を筆頭にご婦人たちに礼をされるおじさんだ。
「それと……」
母親にも宝珠次元庫を渡すおじさんだ。
「私にも?」
「お母様も自室で必要になるかと思いまして」
おじさんの気遣いであった。
もともと作ってと言われれば、いくらでも作る。
が、やはりプレゼントされると嬉しいものだ。
「ありがとう、リーちゃん!」
おじさんの予想どおりに、にんまりとなる母親だった。
そこへ弟妹たちが走ってくる。
アミラとソニアの二人は着ぐるみを着ていた。
毛布素材のあれだ。
アミラにはクー・シーの着ぐるみを、ソニアにはケット・シーの着ぐるみである。
ちゃんとフードには耳までついているのがこだわりだ。
これでスリッパまでセットなのだから。
全身着ぐるみセットだ。
「あらあ! かわいらしいわね!」
王妃が声をあげた。
他の面子も目を輝かせている。
愛らしい着ぐるみ姿のアミラとソニアが、おじさんにくっついた。
「ねーさま! ありがとう! とってもきにいった!」
妹とアミラの声が重なっている。
よほど嬉しかったのだろう。
その後ろに続くようにメルテジオも姿を見せた。
メルテジオはピーコート風の外套を着ている。
かっちりとしたデザインのものだ。
「姉さま、とっても暖かくてカッコいいのありがとう!」
弟の頭をなでるおじさんである。
「メルテジオが気に入ってくれてよかったですわ!」
やはりこっちで正解だったようだ。
着ぐるみでは弟のこの笑顔が見られなかっただろう。
「ほおん……いいわね!」
母親である。
ちょっと着ぐるみが気になっていたのだ。
「そう仰るかと思いまして……お母様の宝珠次元庫に入れてあります」
もはやエスパーかという読みのおじさんである。
その言葉をうけて、母親は宝珠次元庫から着ぐるみをとりだす。
それは母親の使い魔である白天狼のマルちゃんをイメージしたものだ。
白く、長い毛足のオオカミである。
母親が上から羽織ってみるが、なかなか似合っていた。
エレガントな感じなので、かわいいというものではない。
が、大人の女性といった具合で似合っていた。
「あら? ヴィーちゃんも似合うわね! 私も欲しいわ!」
メイユェだ。
王妃も、サンドリーヌもおじさんを見ている。
おじさんは肯定の意味をこめて、コクンと頷いた。
全員がすぐに宝珠次元庫から着ぐるみをとりだす。
「きゃああ! 私のはグリフォンかしら!」
メイユェが声をあげた。
「これは……
首を傾げながらも嬉しそうな表情を隠せない王妃である。
「やった! ドラゴン!」
水竜をイメージしたものに喜ぶサンドリーヌだ。
おじさんと弟、侍女たち以外、全員が着ぐるみになる。
その姿にきゃいきゃいと甲高い声が庭に響いた。
「あの……これはいったい?」
王宮魔法薬師筆頭のボナッコルティ卿であった。
なんだかんだと国王たちと対策を練った結果、やっぱり王宮魔法薬の仕様書をおじさんに下賜すると決まったのだ。
その結果を伝えにきたのである。
「……はあん! なにを勝っ手に!」
いや、勝手にではない。
きちんと先触れもだしたし、従僕にも伝えた。
そして従僕も伝えたはずである。
ただ――母親たちの耳に入っていなかったのだ。
「みぎゃああああああ!」
一瞬で魔法を練りあげた母親。
その一撃が筆頭薬師に炸裂――しなかった。
おじさんが間一髪で結界を張ったから。
だが、訳のわからんうちに攻撃されたのだ。
結界で守られたといえど、そのことを認識する前に筆頭薬師は叫び声をあげ、気絶していたのである。
後に彼は語った。
あそこは魔王たちの巣窟だった、と。
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