第600話 おじさん蛇神の信奉者たちの対策を考える
魔本に封印されていた魔人ユーゴ。
その身の上話を聞いて、反省するおじさん。
「でな、でな! よう考えたらな、二十三年も時間経っとんねんで。そらもうアズニャンが産んだ子も大きゅうなっててな! その娘が新しい聖女やいうやないか!」
おじさんの様子に気づくはずもなく、魔人は話を続ける。
そういうとこだぞ、と父親はこっそりと思った。
「いやぁでも自分で言うのもなんやけど、ボクの呪いってけっこう強力でなぁ。けっこうえらいことになってもうて。神殿から討伐隊を派遣されてな。ワハハハ!」
魔人は完全に調子にのっている。
「ボクの手にかかったら、そんなんちょちょいのちょいやったけどな。でもまぁ神殿って思ったよりしつこくてな。たいがい面倒臭なって、自分で自分を封印したってわけや!」
どや、という表情になる魔人だ。
どこに胸を張れる要素があるのか、よくわからない。
「ほおん、では直接的に
おじさんに代わって、母親が質問をする。
「
「それがわかればいいわ。他に話しておきたいことはあるのかしら?」
母親がさらに問う。
「んーそのなに?
「その根拠はどこにありますの?」
精神的なショックから、立ち直ったおじさんが聞いた。
「そもそもやね、蛇神様いうんがもう……おっとこれは言うたらあかんことやったわ。ごめん、今のは忘れてくらはい」
ペコリと頭を下げる魔人であった。
「まぁここにおる面子が揃ってたら、小揺るぎもせんと思うで。特にお嬢ちゃん、リーちゃんって言うたかな。自分、めっちゃ強いやろ。さっきからビンビンきとる」
魔人がおじさんを見る。
真正面から。
「うんうん。正直に言うけどな、ボクの全盛期でも足元にも及ばんわ。せやからリーちゃんにケンカ売るなんちゅうのは、ただのアホウや。それに……」
急にモジモジしだす魔人ユーゴ。
「めちゃくちゃ美人さんやしな! どや! ボクとデートせんへんか! 呪いのあれこれ教えたるで!」
おじさんはパチンと指を弾く。
封印術式をまた展開したのである。
「さて、聞きたいことは聞けましたわね」
おじさんの言葉に頷く両親である。
「まぁ相手が大したことがないというのはわかったけど、油断はしちゃダメだよ」
父親が形ばかりの忠告をする。
が、母親にもおじさんにも油断はない。
「しかし、うちの国も舐められたものねぇ……」
母親の言葉に胃がキリキリと痛みだす父親だ。
なにをしでかそうというのか。
「そろそろ思いださせてあげないといけないわね」
なにを、だ。
父親は嫌な予感が止まらない。
そこで、おじさんに助けを求めようとした。
だが、愛しい娘はテーブルの上の魔本を宝珠次元庫に戻し、席を立とうとしている。
「リーちゃん?」
「お父様、お母様。こちらの魔本はもう少しお預かりしておきますわね。わたくし、少しやることができましたのでお先に失礼しますわ」
「……リーちゃん、やりすぎないようにしなさいね」
母親の言葉にぎょっとする父親だ。
どの口が言うのだ、である。
「承知しましたわ」
そんな両親にニッコリと微笑んでサロンを後にするおじさんであった。
おじさんはその足で聖女が泊まっている部屋にむかう。
コンコンとノックをすると、聖女が顔を見せる。
「リー! お話は終わったの?」
「ええ……もう終わりましたわ。エーリカ、魔人のことですが……」
おじさんが口を開くよりも、聖女は先に頷いた。
「うん、お兄ちゃんだった!」
「……なるほど。では積もる話もあるでしょう。こちらを渡しておきますので、ゆっくりと話してくださいな。魔本の表紙に触れて魔力を流せば封印が解除できます。また封印したときは同じように表紙から魔力を」
かんたんに説明しておくおじさんだ。
「わかった! けど、いいの?」
「かまいません。本当はエーリカに差しあげたいのですが、ラケーリヌ家が保管してきた魔本ですからね。もう少し時間をいただければ、聖女に預けるという名目で渡せると思います」
「ありがと! でも、無理はしなくてもいいよ。お兄ちゃん、関西臭が強すぎるのよね。私もちょっと苦手だったし!」
モテない男という評判は身内からも覆らない。
関西が悪いわけではないのだ。
あの魔人が悪いのである。
ケラケラと笑う聖女だ。
「では、エーリカ。明日、魔本を渡してくれるといいですわ。わたくし、少しやることができましたので」
「わかった! ありがと! ちょっと話してみる」
着ぐるみ姿の聖女がニパッと笑う。
その頭をひとなでしてから、おじさんは私室へと戻った。
「トリちゃん! シンシャ!」
使い魔を喚ぶおじさんだ。
部屋の中には、側付きの侍女だけ。
彼女なら何を聞かれても問題はない。
『まったく、まったく、まったく! 主は我というものがありながら! あのような出来損ないに浮気するとは!』
トリスメギストスは嫉妬を隠さない。
同じ本型である。
それをおじさんが扱ったというだけで気に入らないのだ。
「そう言われても困りますわ。そもそもあの魔本に魔人が封印されているなんて思ってもみませんでしたし。そもそも自分から封印されたとか言ってましたわよ」
理はおじさんにある。
だが、トリスメギストスが言うことも理解できるのだ。
だから、おじさんはいつもより早口になっていた。
まるで浮気を詰められているようだ。
『テケリ・リ、テケリ・リ!』
シンシャが跳ねる。
膝の上にのせて、なでる。
「あの魔本はいずれエーリカに贈りますわ。わたくしはトリちゃんがいれば問題ありませんの」
『でゅふふ。で、あろうな! で、あろうな! で、あろうな!』
なぜ三度も言うのか。
ちょっとイラッとするおじさんである。
そんなに大事なことなのだろうか。
「さて、トリちゃん。今からウドゥナチャに連絡を入れておきます。あちらからの情報も合わせて対策を考えますわよ!」
『心得た! 我に任せておくがいい! ふははははは!』
どうにも魔人とノリが似ている気がしないでもないおじさんであった。
『ところで主よ。明日、件の輩が動くとしよう。だが、主は対校戦に出場するのではないか? 相手にはならんだろうが、時間は取られると思うのだが』
確かにそうである。
ただ、その点はあまり心配していない。
「ああ、その点は大丈夫でしょう。お母様も何かしらのお考えがあるようでしたし、お父様も承知しているはずですから」
『なるほどな。だが……大丈夫か? いや御尊父と御母堂の実力を疑うわけではないのだ。やりすぎないかという点でな、我は心配なのである』
「問題ありませんわ。お母様はわたくしに仰いました。やりすぎないように、と。ですので理解されていると思いますわよ」
『ふむ。別の意味が含まれていなければいいがな……。まぁバベルとランニコールを忍ばせておけば問題なかろうが』
「ですわね。ラケーリヌ家のときもそれで巧くいきました。あの二人に任せておけば安心ですわ!」
では、ウドゥナチャに連絡を。
おじさんがそう考えたときである。
カラセベド公爵家邸に爆発音が響くのであった。
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