第593話 おじさんは聖女たちとボードゲームを楽しむ
「しっかしケルシーは予想以上にポンコツね」
聖女である。
悔しさで床をドンドンと叩くケルシーを見ながら言う。
「仕方ありませんわ。はさみ将棋は……しない方がいいのでしょうね」
おじさんが聖女に答える。
「いや逆に見てみたくない? あのポンコツがどんな手を打つのか」
興味がないと言えば嘘になるおじさんだ。
見てみたくはあるが……また床を叩く羽目になりそうである。
そこまでしてケルシーの姿を見たいかと言えばノーなのだ。
だって、中の人はおじさんなのだから。
皆と楽しく過ごせれば、それでいいのだ。
「あ」
と声をあげるおじさんだ。
そう言えば、である。
おじさん、私製のスゴロクを作っていたのだ。
人生ゲームのようにお金のやり取りなどを必要としないものである。
弟妹用にと簡易版の物を作っていたのだ。
他にもTRPGをプレイできないお子様用のスゴロクも考えていたりするおじさんである。
それならばケルシーでもなんとかなると思うのだ。
「スゴロクねぇ。アタシ、ボードゲームも詳しいわよ!」
おじさんの説明を聞いた聖女が目を光らせる。
「まぁゲーム全般が好きだったんだけどね。一時期、ボードゲームにハマってたのよ。特に海外のやつって色々と凝った設定のものも多いじゃない?」
「ああ……ひょっとしてあの有名なカードゲームとかですか」
「他にも色々とあるのよ。資源を集めたりシミュレーション的なゲームとか」
聖女の言葉に頷くおじさんだ。
おじさんも知識としては知っている。
「リーならカードゲームとかも再現できそうだけど、どうなの?」
「できるでしょうね。ただ……わたくしはそこまで詳しくはないのですわ。モチーフを考えるのも大変そうですし」
「そうよねぇ……アタシは絵も描けないしな」
聖女とおじさんの会話に途惑うオリツだ。
二人が何を話しているのか、さっぱりわからない。
それでもはさみ将棋にはちょっと興味があったのだ。
だから会話が途切れたのを見計らって口を開く。
「あの……先ほど仰っていたはさみ将棋とはどういう遊びなのでしょう?」
オリツからの質問に聖女がニヤっと笑った。
「かんたんに言えばね。この兵士の駒を使ってやる遊びなの。こう一列に兵士の駒をならべるでしょう?」
と、将棋盤に駒をならべる聖女だ。
「動かせるのは縦と横、斜めにはいけないの。で、こうやって駒をはさんだら、その駒を取れるのよ。で、最終的に相手の駒が一枚になったら勝ち」
「……なるほど。シンプルだけど、奥が深そうです」
オリツは聖女の対面で駒を動かしてみる。
そこでおじさんが口をはさんだ。
「オリツ、自分の駒に魔力を流してみてくださいな」
おじさんの作った駒はチェス風味である。
将棋の駒のように、裏返せばデザインが変わるなんてことはないのだ。
そこで見分けが付きやすいように、魔力を流せば色が変わるようにしてある。
「ああ! めっちゃきれいじゃないの!」
どうにも聖女はキラキラ光る系が好きなのか。
オリツの手許にある兵士の駒に興味津々だ。
と言うか、自分の駒にも魔力を流している。
どっちもキラキラになったら、見分けがつけにくい。
もちろんデザイン的に正面と背面で変えてはいるのだけど。
「じゃあ、ちょっとやってみるわよ!」
聖女がオリツを誘ってはさみ将棋を始める。
そうこうしている間にケルシーも立ち直ったようだ。
「ねぇねぇエーリカとオリツはなにしてるの?」
はさみ将棋をしている二人を見て、興味がわいたのだろう。
苦笑まじりに、おじさんは説明した。
「やる! 今度こそ勝つんだから!」
懲りないケルシーだ。
しかし火が点いてしまったら止まることはない。
予備の将棋盤と駒を用意して、はさみ将棋を始める。
「ふふーん! 要するによ! はさめばいいのよね!」
と、駒を考えなしに進めるケルシーだ。
おじさんは定石どおりに進めていく。
端の駒から一マスずつ進める。
ケルシーも考えているのだろうか。
あちこちに駒を動かしている。
だが、おじさんは着実に前へと駒を進めていくだけだ。
「はさめない! ううう……こうなったら前にでてくる駒をとめるしかないわね!」
ケルシーは決断した。
そしておじさんの駒の隣にならべてしまう。
こうなったらもう駒をとられるだけだが、気づいていないようだ。
「ケルシー、それはダメですわよ。ほら」
おじさんが駒を進めて、駒をとってしまう。
「ああああああ! しまったー!」
頭を抱えるケルシーだ。
そこからは一方的だった。
右往左往するしかないケルシー。
着実に駒を進めていくおじさん。
おじさんの兵士に蹂躙されるケルシーだ。
最後はまとめて駒を取られてしまって、大口をあけてポカンとする始末である。
「ちっくしょうううう!」
元気よく悔しがるケルシーだ。
「ちっくしょうううう!」
ケルシーの隣から聖女が叫ぶ。
聖女もまた頭を抱えている。
どうやら初心者のオリツに負けたようだ。
はさみ将棋は焦った方が負けである。
じっくりと待ち構えるのが基本的な戦術になるのだ。
恐らくはゲームの戦略にケルシーと聖女の性格が合わないのだろう。
同じようなリアクションをする二人を見て思う。
この二人が姉妹でない方がおかしくないか、と。
いや、決めつけてしまうわけではない。
他にも可能性はあるのだ。
だが、余りにも似た二人を見ると、どうしてもそう思ってしまうおじさんであった。
「リー! スゴロクよ! スゴロクがいいわ!」
もはや、はさみ将棋はしたくないのだろう。
聖女がおじさんに声をかけた。
「スーゴロク! スーゴロク!」
ケルシーも負けじと声をあげる。
知らないものなのに。
「わかりました。では、スゴロクで遊んでみましょうか」
オリツも新しい遊びに目を輝かせていた。
年齢は確認していないが、オリツもまた聖女の妹の可能性があるのか。
そんなことを考えながら、おじさんはスゴロクに興じるのであった。
「っつああああ! なによ! 落とし穴にはまるって!」
聖女だ。
「……振り出しに戻るだと……ちっくしょうううう!」
ケルシーである。
一マスとまるごとに大騒ぎだ。
全力でスゴロクを楽しんでいる二人である。
もはや勝敗は二人に関係ないのかもしれない。
ここまで楽しんでくれるのなら、ゲームを作ったおじさんも冥利に尽きるというものであった。
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