第588話 おじさんダウジングをしてみる


 ――ダウジング。

 その起源を遡れば、古代文明に行き着くという。

 おじさんの前世での話だ。

 

 木の枝は神の意志を啓示すると信じられていた。

 それ故に占いに使われ、派生したのがダウジングだ。

 

 なぜたかが木の棒に一定の効果があるのか。

 そのことについては科学的に実証されていない。

 だが近代に入っても、古い水道管を探すのに使われていたりするそうだ。

 

 基本的にはL字型やY字型の木の枝が用いられることが多い。

 が、ペンデュラムという錘のようなものも使われる。

 今回はそれに該当したと言えるだろう。


 女神の空間にて、おじさんが本気の魔法を披露した。

 聖女の魂魄の一部を使って、特殊なペンデュラムを作ったのである。

 

 仄かに黄色く光る六角錐状のものである。

 ついでにとおじさんは錬成魔法を使って、ペンデュラムを吊り下げるような形で鎖も作ってしまう。

 

「エーリカ、これはあなたの魂からできているものですわ。ですので、あなたがお持ちなさい」


「もらっていいの?」


 と言いながらも、おじさんから手渡されたペンデュラムを掲げるようにしてクルクルと踊る聖女だ。

 よほど嬉しいのだろう。

 

「トリちゃん、アメスベルタ王国の地図をだしてくださいな」


『承知した』


 トリスメギストスの本体がペラペラとめくれていき、王国の地図が掲載された頁が開いた。

 

「エーリカ、さっそく試してみましょう」


 いいいいやっっふううぅうう! とテンション高めの聖女である。


「リー、アタシ、ダウジングのやり方を知らない」


 まぁ想定内の答えである。

 若干だが苦笑いをしながら、おじさんは説明した。

 

「まずはリラックスしましょう。深呼吸を何回かしてみるといいですわね」


 おじさんの言うとおりに深呼吸をする聖女だ。

 二回、三回と繰りかえして、大きく頷く。


「ペンデュラムが反応しやすい位置、直感でいいですから鎖を親指と人差し指でつまんでくださいな。余った鎖は手の平に」


 聖女が準備を整える。

 

「いいですか。リラックスしつつ集中します。そして己の魂に語りかけるのです。まずはイエスのサインを見せてほしいと」


 コクンと頷いて、目を閉じる聖女だ。

 集中しているのだろう。

 すると、ペンデュラムが左右に大きく振れた。

 

「次はノーのサインですわ」


 おじさんの言葉に従うように、今度はペンデュラムが前後に振れる。

 

「これでイエスとノーのサインがわかりましたわね」


 今度はペンデュラムが左右に揺れる。

 同意したということだろう。

 聖女がちらりと目を開ける。


「うわぁ! 本当に動いてるのね。アタシ、絶対に動かしてないわよ!」


 つい、集中を切らしてしまう聖女だ。

 その瞬間にペンデュラムがピタリと動きをとめてしまう。

 

「うっそ! スゴいわね!」


 聖女の言葉に首肯するおじさんだ。


「エーリカ、もう一度です。深呼吸してリラックスを。それから集中して……準備はいいですか」


 聖女の様子を確認してから、おじさんが問う。

 対して、口を開かずに聖女は頷いた。

 

 さすがにこの辺りは神殿でも修行を積んでいるのだろう。

 実にスムーズに集中状態に入る聖女だ。

 

「エーリカ、妹のことをイメージしてくださいな。最初に確認しておきますわね。エーリカの妹は転生していますか?」


 聖女の持つペンデュラムが左右に振れる。

 イエスという答えだ。

 

「まだ生存していますか?」


 辛いことだが確認しておかないといけない。

 村人として生まれた場合、この世界の命は軽いのだから。


 前後に振れませんように、とおじさんは祈った。

 直後、ペンデュラムが左右に振れて一安心である。

 

「エーリカの妹はアメスベルタ王国内に転生していますか?」


 これも必須の確認事項だろう。

 王国外でも探しに行く。

 が、まずは足下から固めておきたい。

 

 ペンデュラムはまたしても左右に振れた。

 ということは、だ。

 王国内にいる可能性が非常に高い。

 

「転生したエーリカの妹は男性ですか、女性ですか。男性ならイエス、女性ならノーの動きで応えてくださいな」


 ちょっと変化球の質問をするおじさんだ。

 これも確認しておかないと困る。

 

 ペンデュラムが前後に振れる。

 つまり、女性だと言うことだ。

 おじさんのように性別が変わったわけではないらしい。

 

「転生したエーリカの妹は何歳ですか? 十代ならイエス、十代よりも下ならばノーで応えてくださいな」


 今後はペンデュラムが左右に振れた。

 つまり十代。

 ここから、質問を繰りかえしておじさんは年齢を確定させた。

 

 結果は王国内に住む十四歳の女性。

 つまり、おじさんたちと同じ年齢だということだ。

 

「かなり特定できましたわね。次は王国内のどの地域に住んでいるのか確認していきますわね」


 トリスメギストスがふよふよと飛び、ペンデュラムの下に移動する。

 

「王国の地図がありますわ。今、エーリカの妹が居る場所はどこでしょう」


 おじさんの言葉にペンデュラムが大きく円を描いた。

 その円は王国全体を指している。

 暫く待っていると、円の直径が少しずつ小さくなっていく。

 

 そして、最後にペンデュラムが指し示したのは王都だった。

 

「……王都ですか」


 おじさんの呟きにペンデュラムが左右に動く。

 イエスということだろう。


「トリちゃん……この結果はどう思います?」


『うむ……今、王都にいる。そして主と同じ年齢の女性か』


「……ひょっとして対校戦に出場しています?」


 トリスメギストスへの問いに対して、ペンデュラムが左右に振れる。

 

「かなり人数が絞れてきましたわね」


 そこで聖女がぷはぁと大きく息を吐いた。

 息を荒げ、額に汗までかいている。

 さすがに魂の共鳴には疲労したのだろう。

 

「ごめん、リー。これ以上は無理」


「承知しました。エーリカ、ご苦労様でした。お陰さまでかなり対象が絞れましたわよ」


 治癒魔法を使って聖女を回復させるおじさんだ。

 

「十四歳で王都にいる女性、しかも対校戦に出場している、か」

 

 聖女が呟く。

 かなり具体的な情報がわかったので安心したのだろう。

 

「リーの魔法で回復したから、もう少し絞りこんでみる?」


『いや、それはやめておいた方がいい。魂の共鳴による疲労とは魂魄からくるもの。肉体的な疲労はあくまで表面的なものでしかないからな。しばらくは使わん方がいいだろう』


「……わかった。でも、かなり絞れたからね! あとは手当たり次第に……」


 と、膝をつく聖女だ。

 

「あれ? なにこ……れ」

 

 そのまま眠りこんでしまう。

 

『主よ、寝かせておけば回復する』


「承知しました。しかし、魂の共鳴とはこんなに消耗してしまうのですね。最初に確認しておくべきでした」


『すまぬな。聖女をもってしてもここまで消耗するとは思わなかった。


「仕方ありません。次からは気をつけましょう。エーリカを連れて戻りますわよ。あ、そうですわ」


 と、おじさんは思いだしたことがあった。

 

「トリちゃん、ラケーリヌ家からいただいた魔本はどうだったのです?」


『ああ……あれか。御母堂と協力して封印を解こうとしてみたのだがな。我も見たことがない術式が組まれておってな』


「ほう……トリちゃんでも知らない術式ですか」


『うむ。御母堂も見たことがない術式だと言っておった。とっかかりもなにもなくてな。困っておるのだ』


「わたくしも見てみたいですわ!」


 好奇心が駆り立てられるおじさんだ。


『で、あるな。明日は聖女の妹捜しに時間を取られるだろうが、今日の夜なら大丈夫だろう』


「そうですわね。食事をいただいた後に挑戦してみます」


 なぜ封印を解くという方向性で話をしているのか。

 ここに宰相がいれば、そこを疑問に思うだろう。

 

 だが、ここには誰もとめる者はいない。

 むしろ煽る者しかいない。

 

「さぁ帰りましょう」


 聖女を魔法で浮かせるおじさんだ。

 そのままトリスメギストスを引き連れて、自分の部屋へと転移するのであった。

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