第519話 おじさんと聖女はつい悪乗りしてしまう
学園の闘技場である。
おじさんはポケーとなっている
誰もがおじさんのように遠隔で結界を作動できるわけではないのだ。
なので傘を開閉する部分と、結界の展開をする部分を連動させた制御盤を作っていたのである。
「こらあああああ!」
そこへ叫声をあげながら走ってくる者がいた。
聖女とケルシー、キルスティの三人である。
「アタシのいないところで何やってんのおおお!」
心からの叫びであった。
誰もおらず、途方に暮れていたキルスティは見たのだ。
学生会室から闘技場に咲く巨大な花を。
それが美しい結界を作るのを。
思わず、声をあげていた。
その素晴らしい景観に。
及びもつかない発想と技術の高さに。
それは心からの感嘆であった。
聖女たちはキルスティのあげた声で目を覚ましたのである。
そして隣に立って、闘技場の異様を見た。
「ちっっっくしょおおおおお! やってくれたわね、リーいいいいい! あんたたち、行くわよ!」
聖女はそう叫んで走りだしたのだ。
引きずられるようにして、キルスティとケルシーも後を追った。
そして、今である。
「あら、エーリカちょうどいいところにきましたわね」
両手を腰にあてて、プクッと頬を膨らませている。
わかりやすく怒ってますとアピールする聖女だ。
対して、微笑みをうかべるおじさん。
「
「やっちゃってさー!」
ケルシーも聖女の隣で同じポーズをとっている。
キルスティは間近で見た結界と傘の素晴らしさに呆けていた。
「エーリカ、ケルシー。こっちに」
手招きするおじさんである。
それには素直に従う二人であった。
おじさんが二人に指さしたのはスイッチである。
青と赤のスイッチの下には、開くと閉じると書かれていた。
「エーリカ! 押してごらんなさい」
「え? いいの?」
コクンと首肯してアピールするおじさんだ。
すぅと息を吸ってから、聖女が表情を変えた。
「全国の女子高生のみなさーん! 乙女の中の乙女、エーリカよーん。それでは張り切ってまいりましょう! 今回の見せ場、ポチッとなぁああああ!」
聖女ならやると思っていたおじさんである。
実に嬉しそうな顔になっているので単純だ。
展開されていた結界が自動的に閉じる。
その後で傘がゆっくりと閉じていくのだが、この閉じていく様もまた一見の価値があるものだった。
「おおー!」
ケルシーが驚いている。
聖女も同様だ。
「ワタシもやりたい!」
「ちょ、ダメよ! 待ちなさい!」
ぎゃあぎゃあと聖女とケルシーで言い合いが始まる。
蛮族一号と二号は仲が良いのだ。
「閉じきるまではスイッチを押しても意味がありませんよ」
「え? そうなの?」
聖女が声をあげるも、首を傾げている。
「動作の途中で閉じたり開いたりはできないようにしていますの」
「半分だけ開けたいとかそういうときはどうするの?」
「そこには対応していませんわね。傘の先端部分に宝珠を組みこんで結界を展開するようにしていますから。そもそも半分だけ開けたいというのがよくわかりませんわね」
「言われてみれば……それもそうか」
納得したという聖女である。
すっかり斜めだったご機嫌が直っていた。
『主よ、そちらの制御盤も上手くいったようだな』
ふよふよと中空を舞って使い魔がおじさんの側に寄る。
少し離れた場所で動作不良を起こさないか確認をしていたのだ。
「リーいいいいいいいいい!」
そこでまた叫声があがる。
見れば学園長が走ってきていた。
蛮族三号の登場である。
「面白そうなことをワシ抜きで!」
そこでケルシーが傘が閉じきったのを確認してボタンを押す。
「ポチッとなぁああああ!」
なぜかテンションが高いケルシーであった。
「うおおおお! これか! こんなものを! くううう! 次はワシじゃからな!」
順番を予約する学園長なのだ。
そんな学園長にケルシーが聞きかじったことを説明している。
一方でおじさんは聖女に声をかけていた。
「エーリカ、舞台の特殊効果を作りますわよ!」
「まかせんしゃい! バンギャ上がりの実力をみせてやるわ!」
え? バンギャだったの? と驚くおじさんだ。
いやでもそうか、と思い直す。
以前やったマニアックな選曲のミニライブでも、聖女はしっかりとついてきたのだから。
「そうね。スモークは必須だとして、あとは銀テも欲しいでしょ。他にもライトの演出もいるし……あ、それはあるか……」
と、指折り数える聖女である。
かなり本気のバンギャだったらしい。
「物販! 物販はどうなのよ! リー!」
聖女の目がギラリと光る。
「物販?
「そうよ! ライブと言えば物販なのよ! わかってないわね! 長蛇の列よ! ちょーだのれつううう!」
身振り手振りを使って伝える聖女である。
その目は血走っていた。
「わたくし、そこまで詳しくはありませんの」
そうなのだ。
おじさんは苦労人。
ライブに足を運んだことなどないのだ。
映像を見たことはあるけれど。
「ふっ。まかせんしゃい! 物販のオニと呼ばれたこのアタシがついてるんだから、どーんと構えていればいいのよ!」
やけに自信満々な聖女である。
「Tシャツは基本でしょ。それにマグカップとか、アクリルスタンドとか。うふふ……これは儲かる匂いがしてきたわね!」
実に楽しそうな聖女を見て、おじさんも楽しくなってきた。
「物販ということはロゴとかも必要ですわね!」
「はう! そうよ、ロゴ大事。絶対に大事!」
「ちなみにバンド名はどうするのです?」
おじさんが疑問に思っていたことを聞く。
だが、学生会には相談役の三人がいる。
また学園長も飛び入りで参加してくる可能性だってあるのだ。
なので、バンド名は別のものにした方がいいかとも思うおじさんなのであった。
「
「それだと課外活動の部活の名称になっていますから」
おじさんが聖女に返答する。
うーんと考えこむ聖女だ。
「ううん。でもやっぱり
「そうですか。では相談役の御三人にも聞いてから決めましょう」
それがいいわね、と聖女も納得するのであった。
「エーリカ、ロゴに関しては任せてもかまいませんか?」
ウズウズとしている聖女に声をかける。
こういうのはやる気がある者が責任者をやった方がいい。
「もちのろんよ! っていうか
紆余曲折あったと聞いている。
聖女はすぐにドクロを入れようとするのだ、と。
これもバンギャの名残なのか。
「まぁその辺はお任せしますわね。でも、まずは舞台装置を作っちゃいましょう!」
「おうともよ! 屁のつっぱりはいらんですよ!」
取るに足りないという意味である。
「おお! 言葉の意味はわかりませんがとにかくすごい自信ですわね!」
聖女はおじさんを見る。
そして二人して唇の端をつりあげると、あははと明るい笑い声をあげるのであった。
「あ、ポチッとなぁああああ!」
そこへ学園長のムダに大きな声が響いてくるのであった。
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