第512話 おじさんと対校戦にて戦う予定の者たち
アメスベルタ王国における侯爵家とは、基本的に公爵家のサポートをする存在である。
広大な領地を持つだけではなく、王都にて王を補佐する役割がある公爵家。
なかなかすべてに手を回すのは難しい。
そこで各公爵家には二家ずつ侯爵家がサポート役としてついている。
おじさんちの場合、そもそも祖父母が有能すぎて出番が少ないだけだ。
フィリペッティ家は王国北部地域、サムディオ公爵家のサポートを行っている侯爵家となる。
そのフィリペッティ家の領地における第二の都とも言えるのがロザルーウェンである。
魔物の生息域である森と隣接する地域だ。
魔物の素材や森から採れる恵みなど、重要な物資の拠点として発展してきた。
当然だが魔物との戦いにおける前線基地としても活用されていることもあり、王国内でも屈指のレベルを誇る組合がある。
半官半民的な運営をする冒険者育成学校もあり、そのレベルの高さは推して知るべしだろう。
今回の対校戦に出場するメンバーの中で、本命中の本命と呼ばれるパーティーもロザルーウェンを拠点としている。
冒険者組合にある訓練場だ。
そこでは訓練に励む若者たちの姿があった。
「だーはっはっは!」
バカみたいな大声で笑うのは明るい茶色の髪をした男子だ。
まだ顔に幼さは残るものの、精悍な顔つきをしている。
「師匠! こいつらダメダメだぜええ!」
片手剣を肩に担ぐようにして持つ男子。
その足下に倒れこんでいるのは、赤・青・緑・紫・茶色の髪色をした五人組だ。
元取り巻きたちである。
学園で騒動を起こした赤が、男性講師に紹介されたのが、ここロザルーウェンの冒険者組合であった。
彼らはベテラン冒険者パーティーである『猛き王虎』に弟子入りをしているのだ。
これも男性講師の手配であった。
「当たり前でしょうに。彼らは大事な弟子から紹介されたのですから、じっくり丁寧に仕込んでいきますよ」
燕尾服――と似たようなスーツ姿の老紳士が口を開く。
冒険者としては場違いな服装である。
が、彼こそが猛き王虎の初代リーダーなのだ。
そして、取り巻きたちを罵った若者もまた彼の弟子である。
「ほおん。まぁどうでもいいけどな!」
かかかか、と大笑する若者だ。
その若者に近寄る者がいた。
二人とも同じ年頃の少女である。
「クルート、弱い者いじめはかっこ悪い……」
若者をクルートと呼ぶのは黒髪の少女だ。
肩の辺りで切りそろえられた髪型が特徴的だろうか。
「ばっか! 師匠が手合わせしろって言ったんだろうが!」
「手加減できた……」
「ちっ。うるせえよ、ヤイナ」
もう一人の少女は赤・青・緑・紫・茶色の髪色をした五人組に近寄り、しゃがみこんで手を当てている。
「いでで……悪い。助かった」
治癒魔法をかけていたのだ。
赤が率先して礼を言う。
クルートも含めて、三人の中では最も背が高い少女である。
暗めの赤髪にそばかすが残る顔立ち。
「礼は言わなくてもいいわよ、うちのバカが迷惑かけたわね」
「誰がバカだっ! マニャミィ」
「勇者を自称するんだからバカでしょうに」
スクっと立ち上がるマニャミィだ。
まだ地面に寝たままの取り巻きたちを見てから、言う。
「あとは自分たちで手当できるわね?」
その言葉に頷く五人であった。
背中を向けるマニャミィに赤が声をかける。
「なぁ……対校戦に出場するのか?」
「うちの組合からは私たちが選ばれているわよ」
「そうか……まぁがんばってくれ」
期待がこめられていないとマニャミィは思う。
社交辞令の言葉というよりも、さらに軽いと考えたのだ。
クルートのバカがやり過ぎたせいだろうか。
だが、それにしては恨みはこもっていない。
他に本命がいる……いや、考えすぎだろう。
そう判断して、彼女は愛想笑いを作った。
「ふぅん……まぁありがたく受けとっておくわ」
「おう……」
冒険者組合の若手で最も実力があると言われる三人。
その背中を見て、赤は思うのだ。
――生まれた時代が悪かったなと。
そして、うっすらと青みがかった銀髪にアクアブルーの瞳をした超絶美少女を思い浮かべるのであった。
カラセベド公爵家領都のすぐ近くにある冒険者育成学校では、対校戦に出場するメンバーを選ぶための激戦が行われていた。
おじさんが関わっているのとは別の学校である。
というか、こちらの学校が古くなったことでおじさんが新しく建てることにしたのだ。
さすがに領都のすぐ近くにある育成学校である。
何度か顔見せをしたおじさんのことを知る者は多い。
――憧れのリー様に会える。
そのことが若手冒険者たちのやる気に火をつけていた。
「リー様の御前で目立って下僕にしてもらいヤツ、この指とーまれ!」
うおおおお、と人が群がる。
中にはベテランの冒険者の姿もあるのはご愛敬だろう。
それだけ、おじさんの人気は高いのだ。
「オレがリー様の下僕になるっつうの!」
「お前じゃ無理だ。……代われ」
「リー様に踏んでもらうんだ!」
「烏滸がましいな……軽蔑の眼差しをいただくだけでもパン十個はいけるだろうに」
「……ムッシュムラムラ」
「鼻血でてるじゃねえか!」
「おい、誰か、こいつ摘まみだせ!」
男子がそうやって盛り上がっているのを女子組は冷ややかな目で見ていた。
「……最低」
誰かが言った言葉に同意すると言わんばかりに、女子たち全員が頷いていた。
「決めたッ! あんな下品なヤツらをリー様のお側に近づけさせるわけにはいかないわっ!」
灰色の長い髪を後ろで括った女子である。
周囲から“ウィスパの言うとおりね”と声がでた。
「そうね……ねぇ、ここは女子だけで手を組まない?」
群青色の髪をツーブロックでまとめている女子だ。
「それがいいかも!」
手をあわせて同意する女子が複数いた。
「そうよ! リー様に近づく者は許さない! 私たちで断固お守りするのよ! そして、リー様に褒めていただくのよ!」
おお! と女子組の意見が統一される。
おじさんの人気は、領都でとどまるところを知らないのであった。
「そうそう、聞いた? 今度、三丁目の角にある仕立屋で、リー様のお召しになっていた服と似たものが販売されるって話よ!」
きゃああ、と黄色い悲鳴があがる。
「でもさーあれってリー様だから着こなせるんじゃないの?」
現実的な意見がでるところが女子らしい。
「いいのよ! いっときでもお嬢様の気分が味わえるなら!」
夢見る女子もいる。
そこへ冷や水をかけるのが男子なのは世の常だ。
「けっ。身の程を知れっつうの!」
「だな。リー様と同じなのは性別だけのくせに!」
バカである。
そして、声だけは大きいのだ。
「あ゙あ゙ん? お前らコラ、なんつった。殺すぞ!」
一部の女性が殺気立つ。
一触即発の空気が広がっていく。
「やってみろよ!」
「やったらあああ! 吐いた唾ぁ飲まんとけよ!」
冒険者育成学校の生徒は元気である。
元気が良すぎて、こうした揉めごとはしばしば起こるのだ。
特に最近ではおじさんが引き金となることが多い。
だが、それはおじさんの預かり知らぬことであった。
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