第505話 おじさん召喚魔法ガチャを引いてみる
どごおん、どごおんと腹に響く音が何度もする。
おじさんの作った舞台の上で、バベルとランニコールが肉弾戦を繰り広げているのだ。
「んーどっちもどっちですわね」
おじさんがぼそりと感想を漏らした。
『いいのか、主よ』
「かまいませんわ。ただじゃれているだけでしょう?」
『まぁ我にはその感覚はわからんがな』
トリスメギストスはヒト型ではない。
故に魔法を使った戦闘になる。
そもそも単体で戦うことなどない。
本来は主であるおじさんの周囲で砲台として魔法を使ったり、魔法処理の補助をしたりといった役割を担うものだ。
目の前で笑いながら殴りあいをする二柱をどのように見ているのか。
『……ところで主よ。もう少し低級の魔物も召喚してみる気はないか?』
「できるのですか?」
『そもそも本来の召喚魔法とはそういうものだ。主が規格外すぎて異界の魔神を召喚しているだけだぞ』
もちろん、おじさんは興味津々である。
「ヒト型の魔物を喚べますか?」
『厳密にこの魔物と指定することは無理だな。だが、ある程度なら範囲を絞ることは可能である』
「では、トリちゃんに発動は任せますわ! やってみましょう!」
『うむ。まかされた!』
【魔人召喚!】
無詠唱でトリガーワードを発動させたトリスメギストスだ。
それが万象之文殿であることの強み。
自身に記載されているのだから、複雑な詠唱を必要としないのである。
中には必要なものもあるが、大抵の魔法はこなせるのだ。
おじさんから少し離れた場所に、黒く輝く魔法陣が出現する。
クルクルと回転する魔法陣だ。
そこから現れたのは、男性型の悪魔であった。
頭は羊そのもの。
人間の上半身、へその辺りからは獣のような二本足。
足の関節の付き方が逆になっているのが細かいポイントだろう。
背にはコウモリの羽もある。
まごうことなき悪魔であった。
ただ問題がひとつ。
それは下半身が丸出しであったことだ。
しかも天を衝くようにいからせている。
「ふしゅるるる……ご、御主……さ……ま」
聞き取りにくいが、確実に人の言語だ。
おじさんはおじさんである。
だが、かなり不快感を覚えていた。
恐らくはこの世界にきて初めて感じるであろう欲望に濁った目をむけられたからである。
おじさんは超絶美少女だ。
だが高嶺の花すぎる。
それは身分というだけではない。
おじさんの美しさそのものに気後れしてしまうからだ。
ちなみにアミラの目は建国王が塞いでいた。
「……気に入りませんわね!」
不快感がおじさんの言葉となってでる。
『淫魔の類いか! なぜ、いつも変なものを引き当てるのだ!』
「しりませんわ!」
「ふしゅるるる……あ……ごしゅ……股……とおった……空気」
さすがに眉をしかめるおじさんだ。
「不敬でおじゃる!」
「ククク……三族まで滅ぼしてくれようか」
闘技場で戦っている二柱の使い魔が猛る。
次の瞬間、召喚された淫魔は消滅していた。
「まったく! わたくし、思うのです! トリちゃんが召喚魔法に関わると、変なものを喚んでいるのですわ!」
『なにがだ!』
「だって、そうじゃありませんか? 以前の変な天使といい、さっきの変態といい……トリちゃんのせいですわ!」
『ぐぬぬ……親心からでた親切というものだぞ!』
「ふっ……では、今度はわたくしがやってみましょう。それで証明できるではありませんか?」
『望むところだ!』
【魔人召喚!】
おじさんが模倣した魔法を発動させた。
今度は魔法陣が虹色に輝いている。
大当たりの前兆か、と思うおじさんであった。
「ふふふ……見てくださいな、トリちゃん! もう魔法陣の色からしてちがいます!」
『ふん。まだわからん! まだわからんぞお!』
望みを捨てないトリスメギストスだ。
ずずずと召喚された魔物が姿をゆっくりと見せた。
パーマのかかった黄金色の髪。
風貌はまだ幼さの残る青年だ。
その背には一対二翼、猛禽類の羽が見えた。
そして――全裸である。
「やぁキミがボクを呼びだしたんだね。美しい者同士は引かれあう! そうキミという星とボクという星の引力がそうさせるのさ!」
ばちこん、と大げさにウィンクをする使い魔。
そのことに怖気が走るおじさんであった。
「ボクは性愛を求道する天使! 名をエロ……」
言いながら、ことさら松茸のような股間を強調するようなポーズをとる天使。
「不届き者めが! 麻呂が成敗するでおじゃる!」
「神聖にして侵すべからず! 手折らず愛でてこそ美しいものがある!」
「うぼああああ……」
またしても二柱の使い魔によって成敗されてしまう。
さらさらと砂のように朽ちていく天使であった。
『主よ……』
「わかってますわ……トリちゃん」
召喚魔法ガチャは危険。
改めてそう思うおじさんと使い魔であった。
翌日のことである。
あの後、おじさんはアミラの権能を使って、新しく作られた階層に仕掛けをほどこしてから帰宅した。
なかなか、いい仕事ができたと思うおじさんである。
学園がそろそろ始まろうかという時刻だ。
おじさんちに学生会に所属する全員が集合していた。
聖女とケルシー、キルスティの三人は眠そうである。
「おはようございます」
ぺこりと頭を下げるおじさんだ。
それに対して、全員からおはようございます、と返ってくる。
「ようこそお越しくださいくださいました。さて、今日から五日の間、わたくしたちは迷宮にこもりますわよ」
おじさんの言葉に目が点になるメンバーたち。
「対校戦にて勝利を確実なものにするためには、とにかく実戦あるのみですわ!」
「あ、あの……会長!」
手をあげるキルスティだ。
「ダンジョンにこもると聞こえましたが……」
「はい。まちがいありませんわよ!」
「ええ……と」
色々と不安になってくキルスティだ。
そもそもダンジョンに入る準備もしていない。
「会長、ダンジョンに入るには許可も準備も必要になると思いますが大丈夫なのでしょうか?」
ヴィルがキルスティを補足するように問いを重ねる。
「問題ありませんわ! わたくしが作ったダンジョンですから! あ、これは内緒にしておいてくださいな!」
しぃと唇に人差し指をあてるおじさんだ。
その姿は稚気にあふれていて、実に愛らしいものだった。
「は? い、いまなんと……」
ヴィルは予想もしなかった衝撃を受けた。
まさか、とは思う。
「内緒にしておいてくださいな、と言いましたのよ?」
そこで空気を変えるように、ハッハーと豪快な笑い声があがった。
シャルワールである。
「こまけえこたぁいいんだよ! 会長だったらなんでもありだ! それだけ押さえとけって!」
「よく言ったのです! シャルぱいせん!」
既に知っていたパトリーシア嬢がシャルワールの腰を叩いた。
「おう! 俺もまぁ慣れてきたってこった!」
がははは、と笑うシャルワール。
リー様なら当然でしょう、という顔をしている
そして、まだ呆気にとられたままの上級生の二人。
皆をつれて、迷宮へとむかうおじさんであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます