第500話 おじさん対校戦の準備をする


 真なる妖精の女王ティターニアとなったおじさんは、なんだかんだと後始末をつけて妖精の里を後にした。

 うっかりその姿のままで、公爵家邸に帰ってしまったものだから大騒ぎである。

 

 主に、おじさんの愛らしさについてだが。

 ちなみにアミラと妹、ケルシーも背中に魔法で羽をつけてもらってご満悦であった。


 そんなこんなで日々が過ぎていく。

 

 その日、おじさんは学生会室にて考え事をしていた。

 目下に迫った対抗戦のことである。

 

 ――対校戦。

 アメスベルタ王国にはいくつかの学校がある。

 王都にある学園は貴族専用だ。

 

 だが、民の中にも優秀な者はいる。

 あるいは王都にある学園には行かない貴族の子息、息女もいるのだ。

 そうした者たちの教育機関として、各公爵家領にはそれぞれ教育機関を置いている。

 

 他にもおじさんが携わっていた冒険者育成学校などもあげられるだろう。

 こうした学校は各地にある。

 おじさんの作った大がかりなものではなく、もっとこぢんまりとしたものだが。

 

 対校戦に出場するのは、王都の学園と各公爵家領にある学校の四つである。

 加えて、各地にある冒険者育成学校から選抜して四つのチームが作られるのだ。

 

 つまり、合計で八チームの参加になる。

 この八チームでトーナメント戦を行っていく。

 

 なかなか侮れない実力を持つ者も多い。

 特に冒険者育成学校は、実戦を重視している。

 卒業すれば、本職として働くのだから。

 

 ここ数年、優勝しているのも冒険者育成学校の者たちだ。

 

 学園の生徒は優秀である。

 確かに優秀なのだが、やはり実戦ばかりとはいかない。


 おじさんの目から見て、今年の対抗戦に出場するメンバーの実力はなかなかのものだと思う。

 既に学生のレベルは超えていると判断できる。


 だが、実戦となるとどうだろう。


「ここらで総仕上げといきたいところですわね」


 ぼそり、と呟いた言葉を聞いていたのがパトリーシア嬢である。

 

「お姉さま、なにか考え事なのです?」


「そうですわね。対抗戦にむけて合宿をいたしませんか?」


「合宿ってなんなのです?」


「そうですわね。対抗戦の準備をするという目的で、学生会全員が寝食をともに……」


「やります!」


 おじさんの言葉が終わらないうちにアルベルタ嬢が食いついてきた。

 興奮しているのだろうか、瞳孔が大きくなっている。

 ガンギマリであった。

 

「ちょっと待って。そうね、その提案は素晴らしいわ。だけど、学生会が全員お休みしてしまうのはマズいわ」


 そこにブレーキをかけるのがキルスティだ。

 しっかり相談役をこなしている。

 

「はぁあ゙あ゙ん?」


 ガンギマリのアルベルタ嬢が相談役に目をむける。

 ひぃと小さく悲鳴を漏らすキルスティだ。

 

「学園の運営に穴を開けるのはよくないのです」


「……うぅ。リー様とご一緒できる機会ですのに……」


「アリィ、その気持ちはとてもよくわかるわ」


 狂信者であるニュクス嬢がアルベルタ嬢に寄り添う。

 

「学園長に聞いてみましょうか?」


 おじさんが提案する。

 その提案に目を輝かせる薔薇乙女十字団ローゼンクロイツだ。

 

 了承をもらえるかどうかはわからない。

 だが、少なくとも学生会は休めないと決めつけているよりはマシである。

 

「では、キルスティ先輩、学園長室に伺いましょうか」


 学園長は退屈を持て余していた。

 特にすることがない、そういう日もあるのだから。

 

 そこへおじさんたちがやってきたのだ。

 これはいい話し相手ができたと思う学園長であった。

 

「……ふむ。合宿のう」


 キルスティがおじさんの代わりに説明したのである。

 

「それで勝てるか、リー、キルスティ?」


「要は実戦が不足していると思うのですわ。もちろん、ここは貴族の子息や令嬢がかよう場所。そうそう命をかけた実戦ができるとは思っておりませんが……やはり経験不足は否めないのでしょうか」


 おじさんが学園長に答える。

 

「学園の性質上、確かに実戦はしにくい。しかし、リーがついておるのならその危険性は低くできる……か。まぁ確かにそのとおりなんじゃがのう」


 学園長がちらりと孫娘を目をむけた。

 その表情には迷いが見える。

 

 確かに実戦不足というのは痛い点だ。

 だが本当にそんなことをしてしまってもいいのか。


 前例がないことに躊躇してしまう。

 それはそれで大事な感覚であるのだ。

 だが……時には腹を括ることも必要である。

 

 学園長はそう考えて、ふっと息を吐いた。

 白鬚をしごいて孫娘の目を見る。

 

「よかろう。明日から五日の間、学生会全員が学園を休むのを認めよう」


 キルスティと声をかける学園長だ。

 

「この五日間で一皮むけてみせよ。サムディオに連なる者として、大きく成長してみせよ。リーや、頼んでよいか」


「はい。お任せくださいな」


曾祖父おじいさま! 私は……私は必ずやってみせますわ!」


「うむ。学園のことはこちらに任せておけばいい。そうじゃな、バーマン卿にがんばってもらうかのう」


 完全にとばっちりを食う男性講師である。

 

「ところで、リーや。キルスティから聞いたんじゃがのう……とても面白い札遊びがあると」


「かまいませんわよ。わたくしたちは用があるので失礼しますが、こちらでお遊びになってくださいな」


 おじさんが宝珠次元庫からバッティグゲームをとりだす。

 

「遊び方はご存じなのですよね?」


「うむうむ……なんじゃとー!」


 学園長の予定ではおじさんたちとゲームをする予定だったのだ。

 だが、おじさんからすれば明日から合宿をするのだ。

 当然だが用意しておくべきものもある。

 

「では、キルスティ先輩はお残りくださいな。あと、学生会から何人か寄越しましょう」


 聖女とかケルシーとか。

 既に人選を決定しているおじさんだ。

 

「ならばよし!」


 おじさんはそこで学園長室をおいとまするのだった。

 学生会室に戻って、聖女とケルシーに事情を話す。

 二人は喜び勇んで学園長室へとむかった。

 

「明日から五日間、お休みをもらってきました!」


 おじさんの声に歓声があがった。

 

「明朝は我が家に集合してくださいな」


 やる気に充ちている薔薇乙女十字団ローゼンクロイツ

 その日の学生会の仕事は実にスムーズに進んだそうである。

 

 一方で学園長室では白熱の対戦が行われていた。

 

「学園長ー。ほんとーにこの勝負で勝てばお役御免ってことでいいんですよねー」


「もちろんじゃ。じゃが、そうかんたんに勝てると思うなよ」


 聖女とケルシーが頷いている。

 キルスティは既に嫌な予感がしていた。

 

 翌朝のことである。

 キルスティは学園長室にあるソファで、こっくりこっくりと舟を漕いでいた。

 ケルシーと聖女も同様だ。

 

「ぐぬぬ……まだじゃ! まだ終わらんぞい!」


 寝不足なのに元気な学園長である。


「ク……まだ決着がつかない!」


 学園長と男性講師は出勤してきた他の講師に怒られるまで対戦を続けていたそうである。



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500話達成です。

いつも応援してくださっている皆さんのお陰です。

本当にありがとうございます。

これからも更新していきますので、ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。

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