第484話 おじさん慰労会を開く


 魔導武器の製造方法。

 それに加えて、魔導武器を作ったとされるストーンロールは転生者なのかという謎も抱えてしまったおじさんである。

 

 ただ、そこまで深刻には考えていない。

 意外とあっけらかんとしていた。

 なぜなら自分という存在があるのだから。

 

 過去に転生者の一人や二人いても問題なかろうと思うのだ。

 

 気にはなるものの積極的に調べようとは思わない。

 その程度である。

 

 そして、二日後のことだ。

 この日は週末で学園がお休みである。

 おじさんは休日を終えてから、慰労会にむけて準備をした。

 

 特にお料理については手抜かりがない。

 秋の味覚を存分に取り入れたものを用意していた。

 そして目玉となるものも。

 

「ちょっと今日の衣装はめかしこみ過ぎではありませんか?」


 おじさん、現在はお出迎え前の衣装選びである。

 女性なら誰ものがうらやむようなスタイル。

 その上に超絶美少女なのだ。

 

 ぶっちゃければ何でも似合う。

 むしろ似合わない服を持ってきたら褒賞がでるレベルだ。

 

 そんなおじさんが着飾れば、どうなるのか。

 もはや美しさによる暴力である。

 

 結局のところ、今日は秋らしさを演出する臙脂色がベースのドレスが選ばれた。

 レースがふんだんに使われた大人っぽいデザインだ。

 

 おじさんも調子にのってクルッと回ってみる。

 スカートの裾がふわりと舞う。

 そして、ニコリと微笑む。

 

「しゅてきれしゅううう!」


 侍女たちの目がハートになる。

 

「では、出陣です!」

 

 おじさんが号令をかけた。

 侍女たちがおじさんの後ろに続く。

 すれちがう邸の使用人たちも、その美麗さに息を呑むのであった。

 

「ほ……本日はお招きいただきありがとうございます」


 学生会を代表して元会長であるキルスティが挨拶をする。

 おじさんと同格の公爵家の御令嬢なのだから当然だろう。


「ようこそ、お越しくださいました」


 おじさんが満面の笑みを浮かべる。

 その笑顔を見た学生会の面々は、時間がとまるような錯覚を覚えた。


 挨拶もそこそこにおじさんたちはサロンへと移動する。

 

「ぱぱう、ぱう、ぱう!」


 聖女が並べられた料理を見て奇声をあげた。

 

「ちょっと、リー! いいの? こんなの最高じゃない!」


 聖女は既に小躍りしている。


 今回はお茶会ではない。

 なので、おじさんはバイキング形式で料理を用意したのだ。

 きちんと保温・保冷用の魔道具まで作って。

 

 スイーツから本格的な料理まで。

 幅広い種類がところせましと並んでいるのだ。

 

「宴じゃあ! 今宵は宴じゃあ!」


 聖女が蛮族さながらに叫んだ。

 まだ昼食時なのに。


「どんどとっと、どんどとっと! あろろろろ!」

 

 ケルシーが聖女に続いて声をあげる。

 エルフのお祭りではそうするのだろうか。

 

「エーリカ、今日の目玉はそれだけではありませんよ!」


 聖女とケルシーは、どんどとっとのリズムで踊っている。

 他のメンバーは呆気にとられていて動けない。

 

「ぱぱう、ぱう、ぱう! まさか、しょれは……」


 本日二度目の奇声を聖女があげる。

 聖女の目はおじさんの前に置かれた器具に釘付けだ。

 

「タコパですわ!」


 保温・保冷用のプレートを作ったおじさん。

 ここまできたのなら、もうホットプレートも作ってしまう。

 

 卓上で調理できるのなら、また選択肢が広がる。

 通常のプレートに加えて、タコ焼き用のプレートや鯛焼き用のプレートまで作ってしまったのだ。

 

 となれば、やるしかない。

 タコ焼きパーティーを!

 

「いいいいやっっふううぅうう!」


 聖女が跳ねた。

 

「エーリカ、少しはしゃぎすぎですわよ!」


 さすがにアルベルタ嬢がたしなめる。

 

「ばっか、あんた! 楽しまなきゃ損じゃないのよさ!」


「それはわかっています。ですが、まだリー様のご挨拶がすんでいません」


 さすがにバツが悪いと思ったのだろう。

 聖女も大人しく席についた。


「改めまして。本日はようこそ、お越しくださいました。皆さん、魔技戦に演奏会、さらには通常業務とよく働いてくれました。本日はささやかですが、当家自慢の料理をお楽しみくださいませ」


 おじさんがペコリと頭を下げた。

 

「本日はビュッフェスタイルです。あちらに各種お皿が用意されていますので、ご自身で食べたいものを食べたいだけおとりください。飲み物は当家の使用人に申しつけてくださいな」


 ほう、と声があがった。

 王国ではコース料理のように給仕されるのが一般的だ。

 しかし、あえておじさんはセルフ給仕にしてみた。

 

 新鮮に感じるだろうし、何よりも好きな料理を好きなだけ食べられるというのがいい。

 

「では、楽しんでくださいな!」


 おじさんの声に反応したのは聖女だった。

 続いてケルシーが動く。

 

「あー! リー! わかってるじゃない!」


 聖女が声をあげたのも無理はない。

 だって仕切りのあるプレート型のお皿があったのだから。

 

 木製のトレーをとり、皿の吟味から始める聖女だ。

 ケルシーは見よう見まねで適当に選んでしまう。

 

「チッチッチ! ケルシーその選び方はよくないわよ!」


「ん? なんで?」


「大きな家具はなぜ四角いのか、考えたことがある?」


「????」


 頭の中をハテナでいっぱいにするケルシーである。

 

「いい? 家具が四角いのは部屋が四角だからよ!」


 未だ聖女の言わんとするところがわからないケルシーだ。

 首を傾げている。

 

「つまり! エーリカは四角いトレーだから四角の皿を選べって言ってるのです!」


 パトリーシア嬢が説明を加える。

 我が意を得たりと指を弾く聖女だ。

 

「イグザクトリー! よくできました、パティ!」


「イグ? よくわからないけど褒められたのです!」


「四角いトレーに丸いお皿を載せる。となると、余分なあまりがでちゃうでしょ。だから四角には四角が基本なの!」


 聖女なりのこだわりなのだろう。

 

「いい? お皿の選び方はわかったわね。ここからはセンスが問われるわよ」


「ああ、きれいに盛りつけができるかってことなのです?」


「そうよ! 何を選んで選ばないのか! 腕の見せどころなのよ!」


「確かにエーリカの言うことには一理ありますわね」


 アルベルタ嬢が同意する。

 

「ふふ……では、お手並み拝見といこうかしら?」


 余裕をぶっこく聖女である。

 

「ならワタシが見せてあげるわ! エルフの生き様をね!」


 ケルシーが意気揚々とトレーを持って料理を選ぶ。

 本能なのだろう。

 とにかく食べたいものだけをガンガン載せていく。

 

「あら? 料理長! え? ここで焼いてくれるの? じゃあ二枚お願いします」


 ビュッフェスタイルには欠かせない料理人による調理。

 目の前でお肉を焼いてもらうケルシーだ。

 だが、もう既にトレーの上はいっぱいである。

 

「あの……置き場所が」


「大丈夫! この上にどーんといってちょうだい!」


 と、チャーハンが盛られた皿を指定するケルシーだ。

 

「は、はぁ……畏まりました」


 何をか言わんやの状況だ。

 しかし料理長は弁えている大人である。

 なにも言わずに、指定どおりにお肉をのせた。

 

「ふふん! どーよ!」


 満面の笑みで戻ってくるケルシーだ。

 

「茶色ね」


「茶色なのです」


「茶色しかありませんわね!」


 口々にツッコまれるケルシーだ。


「茶色のなにが悪いのよ! 美味しいのよ!」


 そんなことは皆が知っている。

 だが、今はどう美しく盛るかを問われているのだ。

 

「ここは先輩にお手本を見せてもらいましょう!」


 アルベルタ嬢がキルスティに振った。

 

「よ、よく見ておきなさい! これが貴族の令嬢というものです!」


 キルスティがチャレンジする。

 だが目新しい料理ばかりで迷ってしまった。

 さすがに時間をかけすぎである。

 

「長い! 失格!」


 聖女の無慈悲な声が響いた。

 

「えー!」


 抗議の声をあげるキルスティである。


「元会長、時間がかかりすぎです。まだ半分も埋まっていないではないですか。皆さんお待ちなのですよ」


 諭すヴィルの言葉に、キルスティは渋々頷くのであった。

 

「じゃあ、お次はオレが。もう我慢できねえんだよ」


 制服姿のシャルワールだ。

 これぞ男子といった盛り付けをしてしまう。

 

「茶色二号!」


 アルベルタ嬢である。


「お、おい。二号ってのはねえだろう?」


「じゃあ、茶色パイセンね」


 聖女の無慈悲な言葉にうなだれるシャルワールであった。

 

 次々とチャレンジしていく学生会の面々である。

 だが、誰しもがやはり偏りを見せてしまうのであった。

 そして大トリを務めるのが聖女だ。

 

「さぁいくわよ! 見てなさい、これが聖女というものだと!」


 意気軒昂たる聖女である。

 その一歩目を踏みだしたときだ。


「エーリカ、タコ焼きの準備ができましたわよ!」


「はい、よろこんで!」


 トレーを置いて、一目散に駆けていく聖女だ。

 おじさんから舟をもらって、両手で掲げている。

 

「いいいいやっっふううぅうう!」


 あまりの見事な手の平返しに、ずこーとなる面々であった。

 これが聖女であると見せつけたのだ。

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