第476話 おじさん出陣を却下される
「ダメじゃ! いかにリーといえど許可できん!」
学園長室にて件の怪文書のことを説明をしたおじさんとキルスティである。
二人が学生会で動くと報告したのだが、学園長の口からでてきたのが上の言葉だった。
「ですわねぇ……」
さも当然であるといった感じで追従するキルスティだ。
「せやかてくどーですわ! せめて理由を教えてくださいませんか?」
逆に食い下がるおじさんである。
そんなおじさんを見て、ふむ、と学園長は白髯をしごく。
「ひとつに学生会といえど、さすがに職掌を越えておること」
と、学園長が人差し指を立てる。
次に親指を立てて、学園長が続けた。
「ふたつに時間帯じゃな。さすがに深夜という時間帯に生徒を引っぱりだすわけにはいかん。ハリエット様にどやされるわい」
学園長が渋面を作る。
なるほど、とおじさんは理解した。
そもそも忘れがちだが、おじさんは超絶美少女。
いわゆる御令嬢なのだ。
本来なら箱入り娘であって当然の身分である。
自由にしているのは家族の意向もあるが、おじさんがおじさんだからだ。
ふ、と我が身を振り返ってみれば学園長の判断は当然だと思う。
そしてキルスティが同調したのも同意できた。
「承知しました。では、どのように対処を?」
潔く引き下がるおじさんだ。
ただ、誰が対応にあたるのか気になった。
「ここはバーマン卿に出張ってもらおうかのう」
つるり、と禿頭をなでる学園長だ。
おじさんたちを担任する男性講師である。
またブツクサと文句を言う姿がイメージできるだろう。
「なら、メーガン先生も招集しておくべきですわ」
おじさんは知っているのだ。
メーガンが男性講師を慕っていることを。
「その心は?」
「お二人は冒険者時代から組んでいたそうですわ。それにメーガン先生は斥候職。見張りをするのには彼女の力があった方がいいでしょう」
「……うむ。わかった。では、バーマン卿とメーガンの二人に頼んでおこう」
では、と腰を浮かそうとしたおじさんたちだ。
「リーや。カレーなる美味なる料理があると聞いたんじゃが」
「さすがにお耳が早いですわね」
くすり、と笑うおじさんだ。
「承知しました。明日にでもこちらにお持ちしますわ。キルスティ先輩はどうされます?」
「ええ! 私も? ここで?
「そんなに驚かれることもないと思いますが……」
あまりにも大仰な反応を見せたキルスティだ。
おじさんとしては、どうせならと考えただけである。
「え? あ? ごめんなさい! いただくわ! お願いします」
「では、お二人分をこちらにご用意しておきます。昼食でよろしいですね?」
「うむ。では、大盛りで頼むぞい」
今度は席を立つおじさんたちであった。
翌日である。
昼食の時間帯、学園長室から叫び声があがる。
すわ緊急事態かと動く講師たち。
だが、すぐに何事もなかったことがわかる。
おじさんのカレーがちょっとした事件を引き起こしたのであった。
そして放課後である。
「リーさん、ちょっといいかしら?」
学生会室に顔をだしたおじさんを捕まえるキルスティだ。
そのまま学生会室の奥にある、パーティションで区切られた場所まで引っぱって行く。
「いきなりごめんなさい。ですが、どうしてもお伝えしておきたくて」
キルスティが眼鏡をクイとあげる。
「今日いただいた昼食、とても美味しかったわ。ありがとうございました。あと。
どうにも言いにくそうなキルスティである。
「学園長がどうかなさいましたか?」
先を促すおじさんだ。
「たぶん……いえ、絶対にご迷惑をおかけすることになるかと思うの」
「?????」
訳がわからず、首を傾げるおじさんであった。
「公爵家に行ってくると仰っていたから」
「ああ、なるほど。お母様もいらっしゃいますし、どうとでもなりますわよ」
あっけらかんとしたおじさんに毒気を抜かれるキルスティであった。
その日も魔技戦本戦の応援を終えて、帰宅の途につく。
おじさんの目はなにかを企んでいるようであった。
きれいな満月であった。
少し黄色がかった望月が夜空を支配するかのように鎮座している。
「なぁ……」
と男性講師は隣に立つメーガンに声をかけた。
すっかり暗くなった学園内を歩いている。
二人は学園長からの依頼をこなそうとしていた。
「こんなの悪戯だと思わないかー?」
ペラ紙を叩きながら、不満を隠さない男性講師だ。
「それを調べるのが私たちの仕事でしょ。悪戯なら何も起こらないんだから楽なものよ」
「まぁそうなんだけどなー」
どこかスッキリしない返答をする男性講師だ。
「なによ? 歯切れが悪いわね?」
「なーんか、嫌な予感がするんだよなー」
と、男性講師は自身の使い魔を召喚する。
羽の生えた小さな蛇である。
その頭を指でなでてやりながら、男性講師は言う。
「少し前の食堂棟の異変もそうだけど、なーんか引っかかるものがあるんだよー」
男性講師が使い魔を喚ぶ。
それは本気のときだけである。
「……あんたの予感は当たることが多かったわね」
男性講師の使い魔を見ながら、メーガンは顎に指をあてる。
「……私も使い魔を喚んでおく?」
「ああ……その方がいいかもな」
メーガンも使い魔を召喚する。
くるくると回転する魔法陣からでてきたのは鬼であった。
鬼といっても身体はあまり大きくはない。
だいたい一五十センチくらいだろうか。
全身が黒いが、シルエットで鬼と判断できる。
戦闘能力は高くない。
が、絡め手を得意としているのが特徴だろう。
この使い魔がいたからこそ、メーガンは斥候になったといっても過言ではない。
「まったく! とんだ夜になりそうなんだけど!」
「いやオレのせいじゃないだろう?」
メーガンの強めの口調に反論する男性講師だ。
「楽な仕事で臨時報酬をもらえると思ってたのに!」
「まぁ……なにがでるかはわからん以上は警戒……」
ピタリと足をとめる男性講師である。
メーガンも警戒態勢をとった。
二人は旧学舎の近くにまできている。
件の噴水まではまだ距離があった。
それでもなにか不穏なものを感じるのだ。
緊張が二人の間に走った。
「パーヴォ。ここからはいつもの手で」
メーガンの言葉に男性講師が頷く。
「おいで、インファン」
その言葉とともに陰鬼の姿が崩れていき、メーガンの足下にある影と一体化した。
足下から影の中にズブズブと沈んでいくメーガン。
陰鬼の特殊能力のひとつである。
メーガンが完全に影の中に姿を消すと、影だけがスルスルと噴水にむかって移動していく。
メーガンの二つ名を呟く男性講師だ。
「はぁ……なんだかなー」
口では文句を言いつつも、男性講師の目に光が宿った。
「いきますか」
足音を消して、自身も噴水へと近づく男性講師。
「ぎゃああああ! おばけえええええ!」
聞こえてきたのは、メーガンの叫び声だった。
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