第469話 おじさん今後の方針を固める


 その日、おじさんと母親は夜遅くまで秘密会議を行なった。

 父親は母と娘の秘密会議を知り、胃の辺りをさすることになる。

 ついでにおじさん特製の胃薬が活躍したのは言うまでもない。

 

 明けて翌日のことである。

 その日、おじさんは学園に顔をだした。

 懸念していたことの解決策が見えたからだ。

 

 大過ない一日を過ごし、魔技戦でもしっかり演奏をした。

 もうそろそろ魔技戦本戦も終わりである。

 

 大方の結果も出そろってきた。

 対校戦に出場する十五人の枠はすべて薔薇乙女十字団ローゼンクロイツと相談役で埋まっている。

 これから番狂わせが起きることはない。

 

 つまり消化試合となっている。

 おじさんの前世でもそうだが、消化試合は盛り上がらない。

 

 一部からはもうべつに試合をしなくてもいいじゃん、という声もあがっているほどだ。

 主に学園長の部屋の方から聞こえてくるらしい。

 

 ちなみに脱落する四人も既に決定している。

 イザベラ嬢・ニュクス嬢・セロシエ嬢・ジリヤ嬢の四人だ。

 

 この四人、実は本気をだせば上位に入る実力を持っている。

 だが対校戦にて、手の内を見せたくないと考えたのだ。

 

 いずれ敵になるかもしれない。

 手の内を晒さずに勝てるまでは対校戦に出場しない、と当初から考えていたようである。

 

 そのため薔薇乙女十字団ローゼンクロイツや相談役との戦いでは、わざと棄権した。

 その他の試合では圧勝するところが、なかなかタチが悪い。

 

 無論、そのことはおじさんも途中で確認した。

 どうしてもそうしたい、と四人に押し切られたのだ。

 となれば、おじさんにも否はなかった。

 

 そんなこんながありつつ、今日は素直に帰宅するおじさんだ。

 ちなみにケルシーは聖女と打ち合わせをしてから帰るらしい。

 

 なにを打ち合わせするのか。

 よからぬことを考えていそうな蛮族一号と二号であった。

 

 帰宅したおじさんはお着替えを済ませて、サロンに顔をだす。

 そこには祖父母と母親の三人が揃っていた。

 

 挨拶もそこそこにおじさんも会議に加わる。

 議題は昨日の件だ。

 

 要はリソースの不足をどう補うのかである。

 

「リー、話はヴェロニカから聞いたよ」


 祖母である。


「新規事業が目白押しになっているからね。確かに色々と不足しているのも事実なのさ」


 恐らくは人も資材も足りていないのだろう。

 

「リーの提案は的を射ている。だが……」


 と、口ごもる祖母だ。

 そこを祖父が引き継ぐ。

 

「他領に情報を流すといっても、どういう形をとるかじゃなぁ。まぁ儲かるとなればやるのじゃろうが、そこは貴族としての矜持をもちだす輩もおるでなぁ」


 儲かるからやれ、と言われて素直に頷くかどうかだ。

 貧すれば鈍すという状況なら飛びつくだろう。

 しかし、今に大きな不満がなければというものだ。

 

 無論だが、おじさんちの寄子なら問題なく利用できる。

 事実、寄子の中には既に公爵家の提案で事業に参加している家もいくつかあるのだ。

 

 問題は残る二公爵家に対しての情報の流し方である。

 

「そこは王家から言ってもらえばいいのではないですか?」


 特にしがらみがないおじさんの発言だ。

 

「ううむ。王家に技術を提供するということになると、それが功績として残るからのう。一回や二回ならいいのじゃが、何度もとなると力の均衡が崩れてしまうのじゃ」


 確かにそうだろう。

 おじさんが開発したものはひとつやふたつではない。

 さらにこれからも増えていくだろう。

 

 すべてを公開しないとしても、一度や二度ではすまない。

 となるとカラセベド公爵家だけが抽んでることになる。

 

 そもそも国を巻きこむような技術の提供など、そうそうできないものなのだ。

 連発するおじさんがおかしいだけではある。


「なるほど……なかなか難しいのですね」


 うむ、と頷く祖父である。

 

「では、内々で済ませてしまう方法しか残りませんわ」


 今代の三公爵家当主は年齢が近い。

 また国王とおじさんの父親は兄弟でもある。

 そのため王国史でも希に見るほど仲がいいのだ。

 

 この仲の良さを使わない手はないだろう。

 

「まぁその手が使えるとは思うのだけど……」


 母親の歯切れが悪い。

 その理由がわからず、おじさんが首をこてんと傾げる。

 

「仕方ない。リーを表に立たせるには早いが、今回ばかりは本人がでた方がいいだろうさね」


 祖母の言葉で、おじさんピンときてしまった。

 要はおじさんが頼め、ということだ。

 

「承知しました。では、わたくしが頼んできますわ!」


 おじさんとしては特に思うところはない。

 なので即断したのである。

 

「リー。あんたを国王にって話がでるかもしれないが、好きにしていいからね」


「わたくしが国王に? そんなの嫌ですわ!」


 またもや即答する。

 おじさんはおじさんでしかない。

 

 根は小市民なのだ。

 ガワがいかに超絶美少女であろうと。

 おじさんはおじさんなのだ。

 

 そんな立場に立つことなど想像できない。

 

 非常に嫌そうな表情になるおじさん。

 そんな娘を見て、母親がフッと笑った。

 

「リーちゃん、顔にだしすぎよ」


 ほほほ、と笑う母親だ。

 相当おかしかったようである。

 

 そこでサロンの扉がばーんと開いた。

 

「ちょ。お嬢様、今はダメですって!」


 クロリンダの制止も聞かず、登場したのはケルシーだ。

 

「ごめんなさい! でも緊急の用なの!」


 その表情からもかなり焦っていることがわかる。


「どうしたのです」


 ケルシーを落ちつかせようと、あえてゆったりと聞くおじさんであった。

 

「リー! エーリカが、エーリカが!」


 おじさんにすがりつくケルシーだ。

 

「エーリカがおかしくなっちゃったの!」


 それはいつものことでは? と頭によぎったのは内緒だ。

 

「それだけでは意味がわかりませんわ。もう少し詳しく説明してくださいな」


 ケルシーの肩に手を置いて、おじさんが問う。

 

「んとね! なんかよくわからないことを言ってるの!」


 それもいつものことでは? と思うおじさんだ。

 

「とにかく! わかんないの! リー、お願い!」


 鬼気迫る表情のケルシーだ。

 

「承知しました。エーリカはどこにいるのです?」


「連れてきた! 今は噴水のところにいるから!」


「承知しました。お祖父様、お祖母様、お母様。ちょっと行ってまいりますわ」


 家族に挨拶をしてから、おじさんは部屋を退出した。

 ただ三人も気になったのだろう。

 

 おじさんとケルシーに続いて部屋をでる。

 

 急ぎ表の庭にむかう五人だ。

 

「お嬢様! 聖女はあちらに!」


 従僕のひとりが言う。

 確かにそこには聖女がいた。


「ボハハハハハ! 空よ、風よ、海よ! オレは自由だああああああ! ボハハハハハ!」


 あら? と思うおじさんだ。

 

「ね? おかしいでしょ?」


 ケルシーがおじさんに声をかける。

 

「そうですわね。いつもの三割増しというところでしょうか」


 おじさん、なかなかに辛辣である。

 だが、聖女はそのくらいおかしくて当たり前という認識なのだ。

 

「んーそうですわね。ここはトリちゃんを喚んでおきましょう」


 困ったときの使い魔であった。

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