第459話 おじさんの出番がほぼない魔技戦本戦第一試合が終わる


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魔法戦術研究会の会長プリスキーラの名前をプリシエーラに変更しました。

キルスティの愛称キーラとプリスキーラの愛称プリスがフュージョンしてしまって非常にややこしいからです。

よろしくお願いいたします。

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 学園長が飛び入りで楽団に参加する。

 実に楽しそうな笑顔だ。

 それはキルスティの目にも入っていた。


「お、曾祖父様おじいさま!?」


 つい、驚きの声をあげてしまうキルスティである。

 キルスティは嬉しかった。

 

 曾祖父様おじいさまが自分の応援をしてくれている。

 そう思えたからだ。

 

 キルスティの表情が一瞬だが華やぐ。

 尊敬する偉人が血族にいる。

 それは大きな重圧にもなるものだ。

 

 なぜならどうしたって比較されるからである。

 学園長に比べて……そういった声が大きな重圧となってしまい、キルスティの祖父は早くに身体を壊してしまった。

 

 後を継いだ父親は、よくも悪くも気にしないタイプだ。

 そうした父親の性格はキルスティの兄にも受け継がれた。

 だが、彼女自身はそうではない。

 

 サムディオ公爵家の一員として、曾祖父に恥じぬ自分であろうとしてきたのだ。

 その思いが、今、報われたような気がしたのである。

 

 ……完全に気のせいなのだが、知らぬが華だ。

 

「ふっ」


 キルスティの目に今まで以上のやる気がみなぎる。

 それを見たプリシエーラが笑った。

 

「よかったじゃない、キーラ。でも、私が勝つわ!」


曾祖父様おじいさまに応援をいただいた以上、絶対に負けませんわ!」


 舞台上の二人がともに不敵な笑みをうかべた。

 

 魔法を交えつつ、中距離で戦いたいプリシエーラ。

 対してキルスティは、その立ち回りの巧みさに翻弄されている。


 単純な強さで上回っているだけに腹立たしい。

 だが、それを表にだすほど未熟ではないキルスティだ。

 

 お互いに攻めきれない展開が続く。

 

「埒があきませんわね!」


 キルスティが結界を張る。

 その結界を崩そうと、プリシエーラが集中砲火をした。

 

 だが、キルスティは落ちついて詠唱を紡ぐ。

 

「上・上・下・下・左・右・左・右・B・B・A!」


 印を組んで、きっとライバルを睨む。

 

「Bが一個多いわよ! それじゃあ……」


 聖女が演奏そっちのけで叫んだ。

 

「ババアになっちゃうじゃない!」


 構わずに詠唱を続けるキルスティである。


「太陰の隔たりを誘え、地を這う蛇をおののかせよ!」


忌々しい魂ダムド・ソウル!】


 キルスティの足下から黒い霧が噴出する。

 その霧が人の形へと変わっていく。

 

 ぱっと見キルスティに見える人形のできあがりだ。

 それが三体。

 

「いきなさい!」


 号令一下、三体の陰人形たちが三方向から特攻する。

 

「ちぃ! 面倒な魔法を!」


 プリシエーラが初級の魔法をつるべ打ちにして対応した。

 だが、初級の魔法がぬるりと陰人形たちに吸いこまれる。

 

「嘘でしょ。魔法がきかない?」


 一瞬だが逡巡するプリシエーラだ。


「いえ中級の魔法でそこまでの効果はないわ! ならば」


 と、プリシエーラも距離を取りつつ詠唱を始めた。

 

「マル・マル・モリー! 泥塊のオーガ・スーよ、きたれ!」


偽物の制約イミテーション・オース!】


 プリシエーラの足下から泥人形が出現する。

 こちらは合計で五体。

 

 足止めにむかわせるも、ほどなくして陰人形にやられてしまう。

 だが、時間は稼げたと考えるプリシエーラだ。

 

「キーラ! これで最後よ! ありったけで勝負するわ!」


 プリシエーラが叫ぶ。

 その前にキルスティは吶喊していた。

 

「いえやああああ!」

 

蠍の一撃スコーピオン・ストライク!】


 迎え撃つプリシエーラが魔法を発動させた。

 本来なら詠唱を必要とする中級魔法だ。

 

 だが、詠唱をしていては間に合わないと踏んだのである。

 だから無詠唱で放ったのだ。

 

 針の形状をした数本の石筍が高速でキルスティに迫る。

 その瞬間だった。

 

 プリシエーラの目にはキルスティに命中したように見える。

 どう、と舞台上に倒れるキルスティ。

 

「やったわ! 私の勝ちね!」


 その言葉が終わらないうちに、プリシエーラの首筋に木剣が添えられた。

 

「え!?」


「今回は私の勝ちね、プリシエーラ!」


 キルスティであった。

 先ほど倒れていたキルスティが消えていく。

 

 陰人形は四体目がいたのだ。

 キルスティの背後に。

 

 そして吶喊すると見せかけて、ぶつかる直前に身代わりになってもらった。

 タネを明かせばシンプルである。

 

「……私の負けね!」


 両手をあげるプリシエーラ。

 その直後におじさんの声が響いた。

 

「勝負ありですわ! 勝者はキルスティ先輩ですの!」


 わっと薔薇乙女十字団ローゼンクロイツから声があがった。

 男子二人が舞台上のキルスティに駆け寄る。

 

 実はキルスティもギリギリの勝負だったからだ。

 膝が震えている。

 二人に肩を借り、キルスティが学園長に近づく。

 

「やりました! 曾祖父様おじいさま!」


 満面の笑みになるキルスティだ。

 

「ようやったの、キルスティ!」


 じゃが、と学園長が小言を加えようとする。

 

 そこへおじさんが割って入った。

 短距離転移で移動したのである。

 

「学園長! 今は褒めてあげてくださいな!」


 いきなり姿を見せたおじさんに途惑うキルスティだ。


「む。いや、リーよ」


「学園長!」


 おじさんの見幕に、ふっと笑う学園長である。

 

「キルスティ。かなり魔法の腕があがっておったな」


「そうですの!」


 やっぱり尊敬する曾祖父から褒められると嬉しいのだ。

 

 ああだこうだとキルスティが学園長に話す。

 その笑顔は何ものにも変えられないものだろう。

 

「今はお二人にしてさしあげましょうか。行きますわよ!」


 おじさんが先頭に立って、薔薇乙女十字団ローゼンクロイツが撤収していく。

 

 そんなおじさんの背中に声をかける者がいた。


「ちょっと待って」


 声の主はプリシエーラだ。

 魔法戦術研究会のメンバーに借りていた肩から離れる。

 

「会長……いえ、敢えて今はリー様と呼ばせていただきます。我が研究会が働いた非礼をお詫びいたしますわ。申し訳ありませんでした。私への罰をもってご寛恕いただきとうございます」


「随分と都合のいい話じゃない?」


 即座に蛮族一号がうざがらみする。

 そんな聖女の口を背後から塞ぐ者がいた。

 イザベラ嬢である。

 

「だすもんだしてもらわないと、こっちも収まりが……ふがふが」


 蛮族二号の口を塞いだのはパトリーシア嬢だ。


「プリシエーラ先輩……謝罪を受けとりましょう。ですが二度目はありませんわよ。そのときは遠慮なく潰します」


 おじさんは身内に手をだされることを好まない。

 いや、許せない。

 だから、いつもよりもつい言葉がきつくなってしまった。

 

 潰します。

 その言葉を聞いて、プリシエーラは震える。

 脅しの言葉ではないと理解できたからだ。

 

「寛大な措置に感謝いたします。二度とご迷惑はおかけしませんと誓いますわ」


「けっこう。では、プリシエーラ先輩。御身御大事に」


 と、一瞬で治癒魔法を発動させて回復させてしまう。

 踵を返すおじさんの背を見つめ、プリシエーラはその場にへたりこんだ。

 

 プリシエーラは悟ってしまった。

 あれには勝てない、と。

 

 颯爽と歩く薔薇乙女十字団ローゼンクロイツたち。

 まだ魔技戦本戦は始まったばかりである。

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