第395話 おじさん思わぬところで再会する


「もうそろそろ帰りますわよー」


 おじさんはアミラの私室にてお茶を楽しんでいた。

 この私室からは四苦八苦する三人の様子がモニターできるのだ。

 おじさんの魔法とアミラの権能である。

 

 最初こそ順調だった三人だ。

 しかし罠にハマり続け、魔物にはおちょくられ、謎が解けない。

 そうした悪循環に陥ったことで意地になっていたのだ。

 

 最初こそおじさんたちも微笑ましく見ていられた。

 だが、三人が意地になって頭に血が上ればのぼるほどドツボにハマる。

 おじさんの罠は二段、三段仕掛けのものだったからだ。

 

 そして、アミラとお茶をしながら待つこと数時間。

 そろそろ良い時間である。

 

 よって、おじさんは魔法を使って三人に声をかけたのだ。

 

「だが断る!」


 おじさんの声に反応した三人が口を揃えて言う。

 

「面倒ですわね」


「ん!」


 ぼつりと零したおじさんの言葉にアミラが頷く。

 さて、どうしようかとおじさんが考えたときである。

 

「ん!」


 アミラがモニターを切り替える。

 ミグノ小湖の岩場に作ったエントランスだ。

 そこに顔なじみの三人が映っている。

 

「おおー! エーリカが言うとおりだったのです。本当にあったのです!」


「ふふん! 私が聖女だってこと忘れてない?」


「忘れてたのです!」


「なんでよ!」


 いつもどおりのパトリーシア嬢と聖女であった。

 その後ろでアルベルタ嬢が真剣な眼差しでエントランスを観察している。

 

 どうしたものか、とおじさんは考える。

 なぜあの三人がここにいるのか。


 とは言え、だ。

 実はおじさん、もう面倒になっていた。

 

 待つのに疲れてしまっていたからである。

 おじさん、ただ待つだけなのは苦手なのだ。

 

 ふぅと息を吐いて立ち上がる。

 

「アミラはここで待っていてくださいな」


 と、おじさんはアミラの頭を軽くなでた。


「ん!」


 元気よく返事をするアミラ。

 そのアミラにエントランスへと転移させてもらうおじさんだ。

 これもコアとしての権能のひとつである。

 

 一方でエントランスに居る三人は転移陣を前に色々と調べていた。

 すぐに転移陣にのらない程度の慎重さはあるのだ。

 

「んーこの形の転移陣って見たことがないわねぇ」

 

 聖女が石柱に触りながら言う。

 

「確かに見たことがないのです。アリィはなにかわかるのです?」


「いえ、この転移陣の形は見たことがありませんわ。どこかへ繋がっているのでしょうが……」


 と、その瞬間だった。

 転移陣が唐突に光る。

 

 三人がいっせいにその場を跳び退いて警戒した。

 転移陣から姿を見せたのは、超絶美少女である。


「リ、リー!?」


 聖女が驚く。

 そして、パトリーシア嬢とアルベルタ嬢の二人はなぜか跪いていた。

 

「あら、どうしたのです?」


 あくまでも平常運転を貫くおじさんだ。

 

「それはこっちの台詞なんだけど……ねぇ」


 と、聖女がおじさんに問う。


「リーってば、なんかあった?」


「べつに何もありませんが、どうかしましたか?」


「んーなんか圧が増してるというか、なんというか」


 聖女が首を傾げている。

 その影響でアルベルタ嬢とパトリーシア嬢の二人は、思わず膝をついたのだ。

 

「なんでもありませんわ。さぁアリィとパティもなにを畏まっているのです。お立ちになってくださいな」


 ふわりとした笑みをおじさんから向けられて、二人は顔を赤くした。

 ふらふらと立ち上がって、二人もおじさんに笑みをむける。

 

「さて、エーリカにアリィとパティはどこで情報を?」


「うん。神託があったの。で、学園長たちは居なかったから」


 聖女の言葉をおじさんが受ける。

 

「で、自分たちで確認をしにきたというわけですか」


「そのとり!」


 どこか嬉しそうな聖女だ。

 その姿が微笑ましくて、おじさんもついアミラにやるように頭を撫でてしまう。


 しまった、と思ったときには遅かった。

 同級生にすることではない。

 

「あ、ごめんなさい。つい……」


 慌てて手を引っこめるおじさんだ。 

 

「はふん」


 一瞬のことだったが、聖女は呆けたような表情になっている。

 

「ズルいのです!」


「ずるいわ!」


 パトリーシア嬢は平常運転だ。

 珍しくアルベルタ嬢も乗っかってくる。


 結局のところ苦笑しながら、おじさんは三人の頭をなでるのであった。

 ひと息ついたところで聖女が口を開く。

 

「で? リーはどうしてここに?」


「ダンジョンを作っていましたの」


 内緒ですわよ、とかわいく付け足すおじさんだ。


「…………」


 三人は無言であった。

 おじさんの言葉の意味を頭の中で咀嚼する。

 

「…………」


 暫く無言が続いて、おじさんがいたたまれなくなってくる。

 

「さ、さすがリー様。やっぱりそうだったのですね!」


 頬を真っ赤にさせたアルベルタ嬢だ。

 目もうるうるとしている。

 

 そう。

 あまりのタイミングの良さを訝しんでいたのだ。

 その解答が思い通りだった。

 

 良くも悪くも無理がある想像だったのだ。

 しかし、おじさんは言った。

 ダンジョンを作っていた、と。

 

 普通なら信じられないと思うだろう。

 だが、相手はおじさんなのだ。

 嘘ではないと思わせるだけの真実味があった。

 

 そもそもの話だ。

 おじさん以外に誰ができるというのか。

 こんなバカげたことを。

 

 だからアルベルタ嬢は改めて思った。

 リー様はスゴいと。

 

 パトリーシア嬢もぼぅっとした表情で頬を染めている。


「ねぇ……リー」


 聖女がおじさんを見る。

 

「なんですの?」


「めっちゃ面白そうじゃない!」


 最高ね! と聖女がおじさんに親指を立てた。

 

「でしょう!」


 おじさんと聖女がハイタッチを交わす。

 

「で! で! 入っていいの?」


「それは……やめておきましょうか」


 ブーイングをする聖女だ。

 その姿が微笑ましく見える。

 

 だが、今はあの三人がいるのだ。

 水の大精霊に光の大精霊、それに建国王。

 

 階層はわけてあるから、バッティングすることはない。

 が、おじさんはもう帰りたかったのである。

 

「だって、どうせなら薔薇乙女十字団ローゼンクロイツ全員の方がいいじゃないですか?」


 おじさんの正論にうっと言葉に詰まる聖女だ。

 そこで間髪入れずに微笑みを作るおじさん。

 

「とりあえず報告はこちらでしておきますわ。よろしければ御三人はうちにいらしてくださいな」


 この言葉で押し切ってしまう。

 

「もう! 仕方ないわね!」


 聖女の言葉を皮切りにしてアルベルタ嬢が口を開く。

 

「リー様。私たちは夜迷いの森入口でお待ちしております」


「久しぶりにお話ができるのです!」


 三人のうきうきとした感情を隠せない背中を見ながら、おじさんは思った。

 あの三人もこのくらい聞き分けが良ければいいのに、と。

 

 

「よし、ついにここまできたぞ! 抜かるなよ!」


 水の大精霊ミヅハが後ろの二人に声をかけた。

 その服装がここまでの激戦を物語っている。

 もはや三人の姿はボロボロだ。

 

「誰に言ってるのよ。あなたこそ罠にハマらないようになさい!」


 光の大精霊アウローラの言葉に大仰に頷く建国王。


「まったく同感ですな!」

 

「やかましい! 行くぞ、にっくき魔王を倒しに!」


 ミヅハが声をかけたそのときである。

 周囲に神威の力が集まった。

 

「っぎゃああああああ!」


 ちょっと調子にのりすぎた三人なのだ。

 彼女たちの冒険はまだ始まったばかり。

 このダンジョン攻略への果てしない道はまだまだ続くのであった。

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