第391話 おじさんダンジョン増築する


 おじさんの作ったアスレチックダンジョン。

 大精霊の二人と建国王たちは、文句を言いながらハマったようだ。

 何度もおじさんの罠に引っかかりながら、一層をクリアしてしまうほどに。

 

「リー! このまま最後まで遊んで、もとい試してきてもいいか!」


 正直な水の大精霊ミヅハである。

 本音がダダ漏れだ。

 

「かまいませんわー。わたくしはアミラと他の階層も作ってしまいますから!」


 おじさんの返答に、嬉々として次の階層へと移っていく三人であった。

 

 その姿を見送ってから、おじさんはアミラと相談しながらダンジョンを構築していく。

 最初に地上にある転移陣から移ってくるエントランスを作った。


 石壁で囲まれた体育館ほどの広さの部屋である。

 その中央には各階層を指定して転移するための転移陣を設置しておく。


 コアルームとは別にアミラと建国王の私室を設置する。

 さらに管理者の部屋も作って用意は万端であった。

 

「さぁアミラ、次の階層を作っていきますわよ! 魔力が必要ならいつでも言ってくださいな」


 おじさんのテンションは上がりまくっていた。

 色々とアイデアが湧いてくるのだから仕方ない。

 

「ん!」


 最初におじさんが作ったのは、いわゆるオーソドックスな迷宮探索型の階層である。

 やはり薄暗い迷宮の中、お宝を探しつつ魔物とも戦うというのは心をくすぐるのだ。

 こちらも全部で五層になっているが、難易度はかなり低めの設定である。

 

 次におじさんは謎解き型の階層を作っていく。

 迷宮を探索していくのは同じだが、こちらは謎解きがメインになっている。


 迷宮各所にある謎を解きつつ先へと進んでいく。

 もちろん謎解きに失敗すれば、魔物との戦闘などの罰ゲームがある。

 場合によっては装備をロストしたり、ランダム転移でパーティーがばらばらにされてしまう。

 

 さらにおじさんは迷宮を作っていく。

 

 アスレチックダンジョンとは趣の異なる罠がメインの階層。

 強くはないが搦め手ばかり使ってくる魔物と罠の複合階層。

 物理攻撃ができない階層に、魔法が使えない階層などなど。

 

 最後におじさんはアミラの権能と、魔法を駆使してちょっとした遊び道具も作った。

 大満足でホクホク顔のおじさんである。

 

 おじさんとアミラの二人がエントランスに遊び道具を設置し終わったタイミングである。

 満身創痍となった大精霊と建国王たちが、転移陣から戻ってきた。

 

 三人はおじさんを見つけるなり、同じ言葉を発する。

 

「リー!」


「あら? 最後まで攻略しましたの?」


 おじさんは三人の姿を見て言った。

 三人はと言えば、口々に言いたいことを叫ぶ。

 

「うむ。攻略はした。が、あの浮き石はズルいぞ。毎回、偽物の位置が変わるじゃないか!」


「リーちゃん、最後のゴブリン城はちょっとこっちの装備が弱すぎるわよ! こっちは五発当てないといけなのに、一発当たったらやり直しだなんて! それにあのゴブリンたち、憎ったらしいのよ!」


「あの吊り橋渡りは難易度が高すぎやせんかのう。さすがにスライムが顔に当たった時にはあせったぞい」


 三者三様の感想があるようだ。

 しかし、おじさんはわかっていた。

 だって三人の表情を見れば、一目瞭然だったのだから。

 

「でも、楽しめたでしょう?」


「もっちろん!」


 三人の声がまた揃った。

 

「では、お三方ともこちらへきてくださいな」


 おじさんは完成したばかりの自慢の道具の前へと誘う。

 

「こちらはアミラと二人で開発した、新しい魔道具ですわ!」


 ゲームセンターにある大型の筐体くらいの大きさだろうか。

 パッと目につくのは手の平の形をした石板があることだ。


 おじさんは宝珠をひとつ取り出して、筐体の上部にある穴にセットした。

 そして、穴の横にあるスイッチを押す。

 すると宝珠が筐体の中に吸いこまれて、ぶぅんと起動音が鳴った。

 

「では、ミヅハお姉さま。こちらの石板に手を置いてくださいな」


 なんのことかわからないが、言うとおりにするミヅハだ。

 

「これでいいのか?」


 おじさんがコクリと頷く。


「そこで軽く魔力を流してくださいな」


 ミヅハが魔力を流すと、ちょうど目線の当たる場所が淡い光を放つ。

 名前を言ってください、と筐体から声がでる。

 おじさんの声をベースにして、魔楽器の要領で加工したものだ。

 

「ミヅハ」


“もう一度、魔力を流してください”


 筐体の指示に従うミヅハだ。

 次の瞬間、手の平の形をした石板から一枚のカードがでてくる。

 

 そこにはこう記載されていた。

 

 名前:ミヅハ

 攻略中の階層:なし

 攻略済み階層:アスレチック階層

 称号:初見殺しに必ず引っかかる大精霊

 

 そのカードを手にしたミヅハがわなわなと震えた。

 

「リ、リー? これは?」


「ちょっとしたお遊びですわ!」


 ミヅハの手にあるカードを横から覗く光の大精霊である。

 その瞬間、ぶふーと吹きだす。

 

「あはははは。なにこの称号! 遠回しにバカって言われてるわよ!」


「やかましい! ならお前もやってみるがいい!」


 ヒィーヒッヒと引き笑いをしてしまう光の大精霊だ。

 その姿に機嫌が急降下するミヅハである。

 ぴしゃんと床をその尻尾が叩く。

 

「久々にキれちまったよ、表へでろ!」


「まぉまぁミヅハ殿。ここは穏便に。リーも言っておるように、たかがお遊びですからのう」


 どれ、と建国王がミヅハに変わって筐体の前に立つ。

 

「リー、すまんが頼む」


 建国王の言葉に頷いて、おじさんが宝珠をセットして筐体を起動させる。

 滞りなく進めていくあたり、卒がない建国王だ。

 

 名前:リチャード

 攻略中の階層:なし

 攻略済み階層:アスレチック階層

 称号:スライムに溺れし伝説の勇者

 

「リー!」


 思わず、建国王は叫んでいた。

 称号に心をえぐられたのだ。

 

 その建国王のカードを覗き見るミヅハ。

 次の瞬間、爆笑していた。

 

「ハーハッハッハ! うんうん。確かにスライムに溺れておったな!」


「あ、あれは。あの吊り橋が揺れるのが悪いのだ!」


「ヒヒヒ。私たちはすべて躱したがな!」


「そう言うミヅハ殿は吊り橋の落とし穴、すべてに引っかかっておったではないか!」


「あんなところにある落とし穴が悪い」


「ふん。さすがに初見殺しに必ず引っかかる大精霊ですなぁ」


 ダーハッハッハと笑う建国王であった。

 さらに険悪な空気が場を支配する。

 

「はいはい。そこまでですわよ」


 さすがに割って入るおじさんだ。

 ふん、とお互いに顔を背けるミヅハと建国王であった。


「光のお姉さまは先に名づけからですわね」


「そ、そうよ! すっかり忘れてたわ!」

 

「では、約束どおりに二人きりといきましょう」


 おじさんの言葉に顔を赤らめる光の大精霊である。

 その隙をついて、おじさんは親指のリングに魔力をとおす。

 

 次の瞬間、光の大精霊の手を取り、一緒に女神の作った空間に転移するのであった。

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