第390話 おじさんアスレチックダンジョンを作る


 おじさん一行はダンジョンのコアルームに移動した。

 殺風景な部屋である。


 広さはだいたい五平方メートルくらい。

 石造りの壁で囲まれ、中央にはコアが中空に浮いている。

 おじさん的には某ゲームの初期オープニングを思いだしてしまう。

 

 一メートルほどある透明な石が浮いているのだから。

 それも仄かに碧い光を放ちながら。

 

 神秘的な雰囲気だとは思うのだ。

 ただ、現実の場面として見ると感動が強い。

 

「とってもきれいですわね」


 そっとコアに触れるおじさんである。

 瞬間、コアに膨大な量の魔力が流れこんでいく。

 同時にアミラが身体をブルブルと震わせる。

 

「ね、姉さま……」


「ん? どうかしましたか?」


 おじさんはまるで気にしていない。

 が、既に並の魔導師なら二十人分以上の魔力を吸われている。

 ただアミラを見たおじさんは、コアから手を放していた。


「ふぅ……」


 と、大きく息を吐くアミラだ。

 

「姉さまの魔力がおかしい」


 おかしいのは元からである。

 だが、それに頷く大精霊コンビだ。

 

「と、言われてもどうしようもありませんわ!」


 そうなのだ。

 おじさんに言われても困るのだ。

 だって、おじさんは何もしていないのだから。

 

「まぁまぁ十分に補給できたのじゃろう? ならば良いではないか」


 建国王である。

 さすがに割って入る場所を弁えているのが偉い。

 

「で、どういうダンジョンにするんだい?」


 水の大精霊であるミヅハがおじさんに声をかける。

 

「とっても素敵なダンジョンがいいと思う!」


 光の大精霊がすかさず手を挙げた。

 それを見て肩を落とすミヅハである。

 

「素敵とか曖昧なことを言うな。訳がわからんだろうが」


「だってぇ」


 と両の頬を手で挟んでクネクネとする光の大精霊だ。

 背中の翼もパタパタと小刻みに震わせている。

 その姿はまるで恋する乙女だ。

 

「リー。あれのことは放っておいていい」


 もはやミヅハの言葉すら聞こえていない光の大精霊である。


「そうですわね。以前のダンジョンと同じような作りではいけませんし……」


 と、おじさんは頭を捻る。

 数分の黙考を経て、おじさんは閃いた。

 閃いてしまったのだ。

 

「そうですわ! とってもいい案がありますの!」


 おじさんは腹案を語ってみる。

 その内容に大精霊コンビは、うんうんと頷く。

 よくわからないが納得できるという表情だ。

 

「アミラ! ダンジョンを作っていきますわよ!」


 おじさんにとっては慣れたものである。

 既にコルネリウスのところで何層か作っているのだから。

 

「広さは最大で草原タイプでいいですわ!」


「ん!」


 と、勢いよく返事をするアミラである。

 すぐに一層目ができあがった。

 

「ここから作り込んでいきますわよ!」


 おじさんのコンセプトは明確だった。

 それは前世の記憶の影響を完全に受けているものだ。

 様々な障害を乗り越えて、最奥にある城を目指す。

 

 最初は斜めに設置された足場を使って池を飛び越えて行く。

 その後には傾斜の強い坂がある。

 たまに邪魔をするように、石が転がってくるのがポイントだ。

 

 さらに先には壁に両手足を突っ張って乗り越えていくルートもある。

 大きな池に林立する足場があり、足場を伝って飛び越えていく。

 もちろんダミーの足場もある。

 

 記憶を頼りにしながら、どんどんルートを作っていくおじさんだ。

 つい楽しくなってしまって、意地の悪いルートも作成してしまう。


 最終的には全部で五層仕立ての初級ダンジョンができあがった。

 

「ちょっと体験してみますか?」


 呆然とおじさんのすることを見ていた一行だ。

 声をかけられて、ハッと我に返った。

 

「光のお姉さま! お空を飛ぶのはなしですわよ」


 自然と人工物が一体化になった美しいステージだ。

 草原と苔むした石がしっかり障害物になっている。

 

 そんなおじさんの言葉に声をあげたのはミヅハだった。

 軽やかに笑って、おじさんに視線を向ける。

 

「リー! その挑戦、受けて立つ!」


 うおおお、と勢い込んで走っていくミヅハである。

 その一歩目、斜めに飛んで石に足をかけた瞬間だ。

 ずるり、と苔に足を取られて滑ってしまう。

 

「なにぃ!」


 普通ならここで水場に落ちてしまうところだろう。

 しかし、さすがにそこは大精霊である。

 崩れた身体を池の水で支えて、トントンと越えていく。

 

「ははは! どうだ、リー!」


 最後の石を蹴って対岸に着地しようとしたときである。

 ミヅハの姿が消えてしまった。

 

 落とし穴である。

 

「リー! これはズルいぞ!」


 落とし穴の端から顔を覗かせたミヅハの言葉に皆が笑った。

 それほど衝撃だったのだ。

 

 落とし穴。

 シンプルだが、意表をついてくるのだ。


「ふふん、初見殺しといったところね!」


 次は光の大精霊が挑んでいく。

 その身軽さはミヅハ以上と言えるだろう。

 トントンと進んで、ミヅハの落ちた穴の部分にまで到着する。

 

「ここで大ジャンプ!」


 既に落とし穴から出たミヅハが盛大に舌打ちをした。


「ミヅハ! これが大人のやり方というもので……へぶし!」


 おじさんの罠は二段構えだったのだ。

 大ジャンプをした先で、天井から大きな石壁が降りてきてブロックしたのである。

 

 大の字の状態で壁にぶつかる光の大精霊。

 またしても皆が笑うのであった。

 

 特にミヅハは腹を抱えて笑っている。


「調子にのるから、そんなことになるのだ!」


 ずるり、と石壁をずり落ちていく光の大精霊。

 地面に落ちた瞬間に、大声をあげる。

 

「きいいいぃ! いいところを見せたかったのにぃ!」


 次に挑戦したのは建国王であった。

 既に見ているのだから、落とし穴を越えて壁に直面する。

 

「だりゃああああ!」


 気合い一発。

 空中で壁に体当たりをして、そこを突破する。

 

 その手があったかと、手を打つ大精霊たちであった。

 

「ううん。あの壁の強度をあげた方がいいかもしれませんわね!」


 一人冷静なおじさんである。

 これだけ罠と一体化したルートを作っておきながら、まだ不満のようだ。

 建国王の目の前に現れたのは傾斜の強い坂である。

 

「ふ……ここを登れというのか」


 身体能力に物を言わせて、建国王は一気に登っていく。

 が、半ば近くまで登ったところでトラップが発動した。

 

 油である。

 

「ぬおおおおおお!」


 滑る。

 だが、簡単には転けない建国王である。

 まるでキャットホイールの中の猫のように、その場で必死に足を動かす。

 

 動かして、動かして、転けた。

 

「なぬうううううう!」


 油まみれになって転がる建国王である。

 そのまま勢い余って、ミヅハの落ちた落とし穴まで転がってハマってしまう。

 

「ぶふー」


 と、つい笑いが漏れてしまう大精霊コンビであった。

 

「ふぅ。とんでもない目にあったわい!」


 ひょっこり顔を見せた建国王。

 その姿を見て、アミラが笑いながら言った。

 

「こんなんでましたけどー!」


 やっぱりお気に入りのようであった。

 ニコニコとしたその姿を見て、おじさんは思う。

 やっぱり笑顔がいいですわ、と。

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