第389話 おじさん新しくダンジョンを作る


「……」


 目の前で雷に打たれた光の大精霊。

 それを見たおじさんとミヅハの二人は無言であった。

 光の大精霊はグッタリとしている。

 

「……ミヅハお姉さま。どうしましょう?」


「私が行ってもいいんだが……」


 その言葉を聞いた光の大精霊がガバッと起き上がる。

 

「ダメダメのダメぇえええ! 私が行くの! 絶対なの!」


 そんな光の大精霊を見たおじさんはちょっと引き気味だ。

 

「……では、参りましょうか」


 そこは経験豊富なおじさんである。

 サクッと気持ちを切り替えてしまう。

 

 だが、おじさんは気づいた。

 どこへ行くといってもどこへ行けばいいのか。

 

 ダンジョンを新しく作るのはいいが、どこにすればいいのだろう。

 心当たりがないおじさんである。

 

 ただアミラのダンジョンがあった場所、そして利用のされ方を考えると自ずと選択肢は狭まる。

 王都の近郊、それも日帰りできるのがベストだ。

 

 いや、そもそもダンジョンを作った場合は攻略する必要があるのだろうか。

 でもおじさんはコアであるアミラと既に契約しているわけだ。

 その辺りの扱いがよくわからない。

 

 考え始めると、色々と疑問が湧いてくるおじさんだ。

 

「リー、やはり私も一緒に行こう」

 

 ミヅハも壺湯から立ち上がる。

 

「あいつと二人だと何をしでかすかわからん」


「むぅ……大丈夫ですぅ! リーちゃんと二人きりで行くんですぅ!」


 その瞬間、神威の力が集まってくる。

 光の大精霊は顔色を変えて言葉を翻した。

 

「と、思っていましたけど、やっぱり三人で行きましょう!」


 霧散していく神威の力。

 どうやらアウトよりのセーフだったようだ。


 聖域であれば力が使いやすいのだろうか、と考えるおじさんであった。

 

 ふぅと息を吐く光の大精霊である。

 その姿を見て、肩をすくめるミヅハだ。

 

「では、どこへ参りましょうか」


 おじさんは場所の選定から始める。

 

「うむ。私はミグノ小湖だったか、あの場所でいいかと思うぞ」


 ミヅハが提案する。

 おじさんたちが野営訓練に行った場所だ。

 アルベルタ嬢たちとお泊まりをした記憶が蘇る。

 

 わずか数ヶ月前のことだが、懐かしく思うおじさんだ。

 思えば、あそこから色々とスタートしたような気がする。

 

「なるほど。王都からもほど近いですし、良い場所かと思いますわ!」


 おじさんがミヅハにむけて、ニッコリと微笑む。

 

「わ、私もミ、ミノ小湖がいいと思ってました!」


 完全に後から乗っかってきた光の大精霊である。

 ミヅハがジトッとした目をむけると、ニカっと微笑みで返す程度には図太い。

 

「まぁいい。ではミグノ小湖まで行くか」


 おじさんはバベルを飛ばそうとしたが、ミヅハが手を挙げてとめた。

 

「リー。今回は私が」


 さすがに水の大精霊である。

 水場であれば、一瞬で転移できるのだ。

 

「お任せしますわ!」


「ねぇ。転移なら私にもできるんだけど!」


「知らない場所には転移できんだろう」


 割って入る光の大精霊と、冷静に返すミヅハである。


「し、知ってるわよ!」


「どこに転移するつもりなんだ?」


 ニヤニヤとしながらミヅハが問う。


「ミ、ミノ小湖よ!」


 おじさんは微笑んだ。

 そして、ミヅハにむかって言った。

 

「では、お姉さま。お願いしてもよろしいですか?」


「うむ! では行こうか!」


「ちょっとミヅハ! リーちゃん!」


 天空龍を始末した時の面影がまるでない光の大精霊であった。

 

 ミヅハの大精霊としての力を使って、聖域から一瞬にしてミグノ小湖へと移動した三人である。

 三人は湖の上に立ちながら、周囲を見た。

 静かな場所である。

 

 波紋のひとつもない湖面。

 その周辺には木々があふれている。

 

「あら? 素敵な場所ね!」


 ばさりと羽ばたいて中空に浮く光の大精霊である。

 

「知ってたんじゃないのか?」

 

 ミヅハはボロをだした光の大精霊に問う。

 

「と、当然でしょ! ミヅハは意地悪なことばっかり言うんだから!」


 つーんとしながら、宙を舞う光の大精霊。

 その姿は正しく天使のようであった。

 

「さて、どこにダンジョンを作るのかだが」


「その前にお姉さまに確認したいことがあるのです」


 おじさんは聞いた。

 先ほど自分が思っていたことを。

 さらにはここへきて、新しく疑問に思ったことも追加して。

 

「なるほど。リーの疑問はわかった。そもそもアミラとリーは契約しているのだから、どのような状態にでも好きに作ることができる。それとダンジョンを作る場所だが、リーの話も勘案すると湖底に入口を作るのはどうだ?」


 おじさんはここへきて思ったのである。

 未発見のダンジョンがあったというのはいい。

 しかし、この場所は学園の野営訓練でも使われる場所だ。

 

 つまり周辺はくまなく探索されていると言ってもいいだろう。

 だから、それまで未発見のダンジョンがあったというのは不自然さを隠せない。

 

 その点を解決したのがミヅハの案である。

 湖底に入口があったとしても、それを確かめにいく酔狂な者などいないのだから。

 説得力はあるだろう。

 

 ただ、おじさんがどうやって発見したのかという理由は必要になる。

 

「んー発見の理由か……」


 と考えてこんでしまうミヅハだ。


「古文書に載ってたとかでいいじゃない!」


 光の大精霊が提案する。

 

「それは強引ではないか?」


 ミヅハが眉をしかめる。


「大丈夫よ! リーちゃんにはトリスメギストスがいるじゃない」


「なるほど! それは名案ですわね!」


 智の万殿であるトリスメギストス。

 ダンジョンがなくなったという相談をして教えてもらった。


 少々、我田引水ではある。

 が、おじさんの使い魔の特性は知られているのだ。

 問題はないだろう。

 

「よし! そうと決まれば作るぞ!」


 光の大精霊がアミラのコアを召喚する。

 ミヅハが場所の選定をして、コアを設置した。

 

 二人の大精霊に加えて、おじさんもバカみたいな魔力でコアに力をとおす。

 そして、ミグノ小湖の湖底にダンジョンの入口が爆誕してしまった。

 

 湖底に穴を開け、そこにダンジョンの扉を設置したのだ。

 水が浸入してこないような設定で。

 入口ができてしまえば、おじさんが転移陣を刻むだけだ。

 

 ミグノ小湖湖畔の奥まった一角にあった岩壁をやりすぎない程度に加工して、転移陣の入口を作ってしまう。

 これで準備は万全だ。

 

「姉さま!」


 そこへダンジョンのコアが起動したことでアミラが転移してきたのだ。

 おじさんに抱きつき、うわぁんと泣き声をあげる。

 アミラはずっとおじさんを心配していたのだ。

 

 その気持ちが嬉しくて、おじさんはアミラの頭をなでる。

 

「アミラ。ダンジョンができましたわよ!」


 おじさんの言葉に泣きじゃくりながら頷くアミラだ。

 そこへ建国王が姿を見せた。

 アミラの首飾りから姿を見せたのだ。

 

「ほう。これは……」


 ミヅハと光の大精霊の二人を見て、建国王は声をあげた。

 

「陛下。こちらのお二方は水の大精霊と光の大精霊ですわ!」


 気を利かせたおじさんが建国王に紹介する。


「うむ。先日、お目にかかりましたが挨拶はできませんでしたな。今は知性ある遺物インテリジェンス・マテリアルとしてアミラとともにおる者です。生前はリチャードと呼ばれておりました」


 さすがに元王様である。

 きちんとした礼の姿勢を取り、二人の大精霊に挨拶を交わす。

 

「ああ、アミラもまた私たちの妹のひとりだ。よしなに頼む」


 水の大精霊であるミヅハの言葉に深く頷く建国王であった。

 

「もう! どんどん人が増えちゃうわ!」


 一方で光の大精霊はご立腹である。

 

「仕方ないだろうに。そもそもアミラのダンジョンなのだからな」


「わかってるけど! わかってるけど!」


 どうしてもおじさんと二人きりになりたい光の大精霊なのだ。

 

「では、ダンジョンのコアルームに行きましょうか」


 ヒシッと抱きつくアミラを抱え上げ、おじさん一行は転移陣へと足をむけたのであった。

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