第367話 おじさんちょっとばかし失敗する
跪きながらも、つい叫んでしまったケルシー。
そのことで大精霊の意識がエルフの二人にむいた。
『あら、あなたは……』
大精霊の目がケルシーを捉えた。
「お初にお目にかかります。私はダルカインス氏族のクロリンダと申します。こちらはケルシー。大精霊様にお目見えできたこと恐悦至極に存じまする」
ぺたりと頭を下げて、クロリンダが言上する。
『そんなに畏まらなくてもいいんだけど』
と、大精霊は困り顔である。
「いえいえいえ、そういうわけにはいきません!」
顔を下に向けたままのクロリンダである。
『そうそう。私のことは風の大精霊じゃなくてヴァーユって呼んでちょうだい。素敵な名前でしょ』
「承知いたしました。ではヴァーユ様とお呼びさせていただきます」
クロリンダの答えに満足そうに頷く大精霊だ。
『ところでそっちの子は、カルメリアの縁者なの?』
「カルメリア様の妹になります」
『そうなの。道理で似ているわね』
「あ、あの! お姉ちゃんは……元気ですかー!」
緊張の余り、某プロレスラーの決め台詞のような口調になるケルシーだ。
その様子に吹きだしてしまう風の大精霊であった。
『ええ、元気にしているわよ。巫女としての務めを立派に果たしてくれているわ』
大精霊の言葉に嬉しそうな顔をするケルシーである。
姉であるカルメリアが巫女に選ばれたのは、五年ほど前のことだ。
巫女に選ばれると聖樹国の中心にある大聖樹の元へと召喚される。
そこで精霊の相手をすることになるのだ。
『リーちゃん。本題なのだけど聖樹の苗は用意できるわ。でも育てる場所はあるの? 魔力が豊富な場所が必要なのだけど』
風の大精霊がおじさんを見た。
その問いにニッコリと微笑む美少女である。
「腹案としては
『え? リーちゃん、契約しているの?』
「え? ユトゥルナお姉さまから聞いていませんか?」
あのバカ……と呟く風の大精霊。
マズいと思ったおじさんはフォローを入れようと考える。
だが、巧いフォローがうかばない。
「おほ、おほほほ。まぁそういうこともありますわよね!」
ごり押しであった。
そんなおじさんの苦心を察したのであろう。
風の大精霊が苦笑いをしてみせた。
『まぁいいわ。
ふむ、とおじさんは頷いた。
「では、ヴァーユお姉さまも一緒にきてくださいますか?」
『構わないわよ』
おじさんは母親を見る。
「では、お母様、ちょっと行って参りますわ」
「私たちは村の方にいるわ」
「承知しました。では!」
おじさんが一瞬にして、風の大精霊を連れて転移してしまう。
「ね、ねぇ……リーってば、どういうこと?」
ケルシーが首を捻っている。
なにを言いたいのか、自分でもよくわかっていない。
そんなケルシーの肩をクロリンダが掴む。
「お嬢様。考えてはいけませんわ、感じるのです!」
「なにそれ」
「感じるのです!」
「お、おう……」
若干、引き気味のケルシーであった。
コルネリウスの
そこは祭壇のある部屋であった。
「天子様!」
「マスター!」
場に居たのは迷宮主のコルネリウスと、おじさんの使い魔であるミタマだった。
タオティエの顔が見えない。
「あら? タオちゃんはどうしましたの?」
『ええと、タオちゃんは……』
口ごもるコルネリウスだ。
そこでミタマが口を挟む。
『あの痴れ者は天子様の実家に遊びに行くと言って帰ってきませんのよ』
「あら? そうですの?」
『そうなのです! 昨日から帰ってきておりませんの!』
怒ってますという感じで尻尾の毛を逆立てるミタマである。
「その話は後でしましょう。コーちゃん、頼みがあるのです」
おじさんがコルネリウスを見た。
『なんなりとお申し付けください』
「迷宮の中で聖樹を育てたいのです。そのための階層を作りたいのですわ」
『魔力をいただいてもよろしいですか?』
「お好きなだけどうぞ」
と、魔力を開放するおじさんだ。
しかし、今日のおじさんは絶好中の絶好中である。
『あら? リーちゃんの魔力が……』
『天子様……しゅごい』
『ま、マスター! もう大丈夫です!』
ミタマとは対照的に焦った声をだすコルネリウスであった。
「本当ですか? まったく減っていませんわよ」
『はい! もうこれ以上は……いつでもいけます!』
「では、広さは最大で森林地帯のフロアをお願いしますわ!」
どどん、と一気にフロアができあがる。
そちらに移動して、おじさんは大精霊に聞いた。
「ヴァーユお姉さま、聖樹は育ちそうですか?」
『う、うん……問題ないわね』
「本当ですか!」
きゃっと声をあげて喜ぶおじさんは、実に美少女であった。
『実は聖樹の苗は持ってきてあるから植えてしまいましょう』
と、よさげな場所を選んで風の大精霊が聖樹の苗を植える。
『リーちゃん、魔力を』
「畏まりましたわ!」
ずずず、とおじさんの身体から魔力が噴出する。
そのすべてを受けとめた聖樹がペカーと光った。
おじさんの膝丈くらいしかなかった聖樹がグングンと大きくなる。
グングンと伸びて、伸びて、フロアの天井を突き破るのであった。
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