第366話 おじさんの無双が始まるよ
女王と妖精たちが仲良くお菓子を食べている。
見かねたおじさんが追加したのだ。
ついでに飲み物としてレモネードも振る舞ってみる。
ただ、おじさんは通常サイズのコップしか備蓄していない。
そこでコップではなく、底の浅い大きな器にレモネードを作ってみた。
妖精たちは魔法を使ってレモネードを小さな水玉にする。
その水玉を口に入れて楽しんでいた。
「しゅわ……しゅわ!」
「おっほー美味いじゃん! 最高じゃん?」
「あーし、これ好きー」
「こらーその水玉はあーしのだぞー」
きゃはは、と明るい声が響く。
姦しいというのはこういう状況を指すのだろう。
妖精たちの様子を優しい目で見るおじさんだ。
それは子や孫を見る目であった。
ひとしきり愛でたおじさんは、まだお菓子を話さない女王の下へ行く。
「わたくし、ちょっと席を外しますわ。楽しんでいてくださいな」
「はわわ……これは失礼しました」
顔を赤くする女王に手を振って、おじさんは小鳥の式神を召喚する。
「さぁ散ってくださいな」
おじさんの号令に一羽を除いて飛んでいく。
「……御子様。その小鳥は?」
「これは簡易召喚です」
女王は簡易召喚と言われても意味を把握できなかった。
首を傾げていると、おじさんが告げる。
「まぁ見ていてくださいな。とっても便利なのですから」
と、次の瞬間には逆召喚で姿を消すのであった。
「…………あるぇ?」
女王の混乱に拍車がかかる。
その隙に女王のお菓子を盗む妖精たちであった。
おじさんが逆召喚で転移した先は母親のもとだった。
「げええ! おばけー!」
急に姿を見せたおじさんにケルシーが叫ぶ。
自分も逆召喚を体験しているのに、そのことが頭になかったようだ。
「誰がおばけですか! お母様、ただいま戻りましたわ」
「リーちゃん、おかえりなさい。どうだった?」
おじさんは首肯して、話した。
ラバテクスとは妖精の幼生体である。
数を減らしているのは妖精の里が手狭になったことが原因であることも。
「で、解決してあげるんでしょ?」
母親の問いにおじさんは微笑む。
「もちろんですわ! ける……クロリンダさん、他の里でもラバテクスは減っているのですよね?」
妖精のことはもちろんエルフも知っている。
滅多に見かけることはないが、聖樹を守る存在だと伝わっているのだ。
しかし、聖樹につくあの
そのことに衝撃をうけていたクロリンダだが、おじさんに名を呼ばれて我に返る。
「あ……はい、御子様の仰るとおりです。他の里でも似たようなものだと会議で報告があがっています」
「では、エルフの氏族からの許可も得やすいでしょう。クロリンダさん……」
と、おじさんが続けようとしたところでケルシーが割って入る。
「ちょっと! なんでワタシに聞かないのよ!」
ふん、と胸を張っているケルシーだ。
「では、ケルシーは知っていましたか?」
「知らなかったわ!」
「クロリンダさん、聖樹の……」
「なかったことにすなー!」
失礼しちゃうわ! とぷんすかするケルシーである。
一連のやりとりを見た母親が爆笑した。
クロリンダの顔は羞恥で真っ赤だ。
侍女は頭を抱えている。
「リーちゃん、聖樹が欲しいのね」
笑いがおさまった母親がおじさんに問う。
「聖樹さえあれば問題解決なのですわ」
と、クロリンダを見るおじさんだ。
「聖樹ですか……申し訳ありません。エルフにとって聖樹はあって当然のもの。新しい聖樹のことなど考えたこともございませんでした」
「なるほど……では、聞く相手を変えましょう」
おじさんの無双が始まる。
「ヴァーユお姉さま!」
おじさんが耳飾りを指で弾く。
すると、耳飾りがりぃんりぃんと音を立てた。
おじさんたちの居る踊り場の上空に風が渦巻く。
膨大な魔力が集まり、風の大精霊が顕現した。
「げええ! おばけー!」
叫ぶケルシーの頭を思いきり殴りつけるクロリンダであった。
「っあああああああ!」
思わず、しゃがんでしまうケルシー。
その頭を無理やり押さえつけるクロリンダ。
自身も跪く。
『リーちゃん! 会いたかったわ!』
顕現するなり、ぎゅうとおじさんを抱きしめる風の大精霊である。
「わたくしもです。ユトゥルナお姉さまの一件以来ですわね!」
『顔を合わせるのはそうね。そちらはリーちゃんの家族の人ね』
「お初にお目にかかります。ヴェロニカと申します」
きちっとしたカーテシーを決める母親である。
さすがに生粋の貴族だ。
『……うん。あなたも良い子ね。さすがにリーちゃんの母親だわ』
ありがとうございます、と柔らかい笑みを見せる母親だ。
『もう気づいていると思うけど、リーちゃんはちょっと
風の大精霊の言葉を聞いて、薄く笑う母親である。
「過分な評価、恐れ入りますわ。ですが、
少し違えれば挑発とも取れる返答だった。
お前に言われるまでもない、という意味だからだ。
だが、それが母親の矜持である。
大精霊だろうがなんだろうが一歩も引かないと。
『ふふ……いいわね。とってもいいわ! 気に入ったわ、あなたには私の加護をあげる』
と、風の大精霊が母親にむかって魔力を放つ。
『その矜持、違えることなきように』
「それこそ言うまでもありませんわ。ですが、加護をいただけたこと、光栄に存じます」
母親と風の大精霊の二人は顔を見合わせて笑った。
最初は小さく、少しずつその笑声は大きくなる。
「ね、ねぇ……」
頭を下げたままのケルシーが小さく呟いた。
「なんですか、お嬢様」
「加護とかなんとか、どういうことだってばよ」
はぁとため息をついてしまうクロリンダ。
「……お嬢様」
「あによ?」
「お勉強しましょうね」
「なんでそーなるのよ!」
藪をつついて蛇を出したケルシーなのであった。
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