第338話 おじさん父親の活躍を見る
「だらっしゃあああ!」
気合い一閃。
父親の一振りが剣閃を飛ばし、巨大な触腕を切断した。
「な!?」
驚いたのはイトパルサの守備隊であった。
なにせ、いきなりのことだったのだから。
「イトパルサ守備隊の諸君! 私はカラセベド公爵家の者だ。所用で訪れたところである!」
公爵家当主らしく威厳のある厳しめの声をだす父親である。
同時に公爵家の家紋が入ったマントをバサリと翻す。
王国ではかなり有名な紋章なのだ。
もちろん公爵家以外の者は使うことができない。
そもそも獅子を象った黄金の鎧を身につける者など見たことがないのだ。
つまり、鎧だけでも説得力があったと言える。
「公爵閣下であらせられる?」
隊長と思しき壮年の男性が礼を取りつつ声をかける。
「いかにも。戦場であるゆえ礼は不要。ただその気遣いは嬉しく思う」
「はっ。私はイトパルサ守備隊隊長ダグラスと申します」
短く答えながらも、守備隊の隊長が頭を上げる。
「キルヒナー卿に用があるのだよ。なので、ここは手早く終わらせてしまおう」
その言葉に守備隊隊長は首肯した。
「ダグラスといったね。あの船には誰か乗船しているのかな?」
柔らかいいつもの口調に戻る父親であった。
「いえ既に全員が下船しております」
「なるほど。では公爵家が責任をとる」
なんの責任だと守備隊隊長が疑問に思った瞬間である。
父親の持つ
「少々下がっていたまえ」
父親はシャリバーンに魔力をこめる。
「本気で試してみるとしようか」
【
おじさんが仕込んでいた魔法が発動する。
シャリバーンの剣身から光が吹きだし、大剣サイズの剣を象った。
まずは試しにと、父親は軽く剣を横に薙いでみる。
水平に剣閃が飛んで、触腕と船のマストを切断してしまう。
「うん……大丈夫か?」
父親は身体強化をかけて船へと跳んだ。
そして、触腕を切断する。
切断面がじゅわあと音をたてて、とても良い匂いを発した。
タコを焼いたときの香りである。
何本かの触腕を切断したところで、海面から本体が姿を見せた。
それはそれは大きなタコである。
縦に割れ、牙が生えた口が頭の部分にもついているのが印象的だ。
凶相と言ってもいいだろう。
ぬめぬめとした暗緑色の身体が気味の悪さに拍車をかけている。
水面から姿を見せているだけでも随分なサイズだ。
恐らくは本体と触腕を合わせれば、王都で召喚された三面八臂のバケモノよりも大きいだろう。
「まぁ水面だし、いいかな」
父親は余裕であった。
なぜなら自身の愛剣であるシャリバーンには絶対の自信があったからだ。
父親は船とタコの触腕を踏み台にして跳躍した。
そして狙いを定めて叫んだ。
【
父親自身も初めて使う技である。
と言うか、おじさんから広い場所でしか使ってはダメですと念を押された必殺技だ。
その瞬間。
シャリバーンから七色に輝くビームが発射された。
どごおん、と派手な爆発音が鳴る。
ビチャビチャとタコの破片が飛び散った。
いや、破片どころではない。
父親の目からは見えてしまった。
海水を押しのけて、海底が露出したのを。
ちょっとした高波が起こる。
耐えきれずに船が沈んでいく。
父親自身もまた空中に打ち上げられていた。
「ぬわあああああ!」
リーちゃん。
さすがに威力強すぎ、そんなことを考える父親であった。
「お父様ったらラグナロク・ブレードを使ってしまいましたか」
空中に打ち上げられた父親を見ながら、おじさんは暢気に観戦していた。
「リーちゃん、あの技ってあんなに威力があるの?」
「ある程度は調整できるのですが、お父様は手加減しなかったのだと思いますわ」
「ほおん。私もあのバケモノに使っておけばよかったわね」
まるで父親のことを気にしていない二人に見える。
だから、侍女は声をかけた。
「あの……旦那様はよろしいのでしょうか?」
「大丈夫です。バベルが側についています」
おじさんの宣言どおり、父親の身体が空中でとまる。
ついでに治癒魔法もかけた上で、地上へと降ろしたのがおじさんの目には見えた。
「船まで沈没しちゃったわね」
「さすがにバラバラになると厳しいですが、あの程度ならどうとでもしますわ」
「んーまぁ要請があってからでいいでしょ」
マイペースな親子である。
「ええい、散れっ! 散れっ! 見世物ではないのだぞ!」
おじさんと母親、侍女の立つ屋根の下では従僕や侍女たちが見物人を相手に怒鳴っている。
もはや港での出来事などどうでもいいかのようだ。
「リーちゃん、港へ行くわよ」
母親の言葉に従って、おじさんと侍女も道路へと魔法を使って降りる。
「イトパルサの皆さん、道をお開けくださいまし!」
おじさんが羽根扇を軽く振るう。
ちょっとだけ魔力を開放して言ったのだ。
その迫力にイトパルサの住民は自然と道を開けていた。
「ご協力、ありがとうございます。では、ごきげんよう」
颯爽と馬車に乗りこむ、おじさんたちである。
従僕と侍女たちはチャンスを逃すまいと、さっさと馬車を走らせた。
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