第314話 おじさん痛恨の極みを味わう


 魔剣ダーインスレイヴ。

 北欧の伝承に登場する魔剣である。

 その名はダーインの遺産という意味だ。

 

 一度、鞘から抜くと生き血を浴びて吸うまで納まらないという。

 また持つ者を不幸にするとも言われる。

 

 もちろん。

 おじさんが作ったのは本物のような物騒なものではない。

 だが、魔剣ではある。

 

 実はおじさん、インテリジェンス・ソードを作ってみたかった。

 魔剣や聖剣と言えば、インテリジェンス・ソードである。

 そこでガワ・・を作ってから、魔法生物的な何かにしようと思ったのだ。

 

 だが、結果は見事に失敗した。

 インテリジェンス・ソードにはならなかったのだ。

 

 シンシャができたのだから、できるはずであった。

 ただ禍々しい造型に拍車がかかり、バカみたいな切れ味になったのだ。


 鞘に納めようとすると、鞘を斬ってしまう。

 つまり別の意味で鞘に納まらない魔剣となったのだ。

 

 だから、タオティエのときには三日月宗近を使った。

 屋内で使うような剣ではないのだ。


 りぃん、りぃんと涼やかな鈴の音が響く。

 バケモノの持つ金剛鈴だ。

 鈴の音が響くと、にょきにょきと落とされた腕が生えてくる。

 

 おじさんが注目していたのは地面に落ちた方の腕だ。

 再生するのはいい。

 では、地面に落ちた腕はどうなるのだ。

 そこが気になったのだ。

 

 地面に落ちた方の腕は残ったままであった。

 おじさんは思った。

 これって素材取り放題なのでは、と。

 

 恐らくは神、あるいは亜神とも呼ぶべき存在である。

 その肉体の一部を素材にした場合、なにができるのだろうか。

 

 興味がつきないおじさんであった。

 

「そうと決まればっ!」


 おじさんはカッと目を見開くとその姿を消した。

 次の瞬間には、再びバケモノの左側の腕を斬り落とす。


 短距離転移と飛行魔法を併用した移動方法であった。

 神出鬼没、縦横無尽。

 

 どこに出現するのかわからない。

 現れたと思えば、その瞬間にはどこかしら斬られている。

 反撃しようとしたときには、おじさんの姿はないのだ。

 

 バケモノにも何が起こっているのか理解できなかった。

 現れては消え、消えては現れる。


 結果。

 三面八臂のバケモノは狂乱に陥った。

 

「うがあああ!」


 めちゃくちゃに八臂を振り回す。

 半ば斬り落とされた武器を捨て、要となる金剛鈴だけを残して。

 まるで子どもが駄々をこねるように。

 

 だが、そんなものはなんの意味もなかった。

 バケモノに理解できたのは、鈴を鳴らす限りはこの地獄が続くというだけだ。

 

「えいああああああ!」


 おじさんの声が響くと同時に、膝から下が斬り落とされる。

 

「リーちゃん! そろそろ決着をつけなさい!」


 母親が拡声の魔法でおじさんに指示をだす。

 その指示にビッと親指を立てて応えるおじさんであった。

 

「傲慢なる女神メイグ・バシバーラの名において世界に命ず! ガ・ウリィ・グーレイ・ワーズ・ア・ルメリア! その道を空けよ、遮るものはなく、諸共を制し、諸共を踏み越えよ、幾千の真言を携え、きたりて笛を吹け! 幾万の舌禍をもって世界を覆す! 我が名を讃え、我が名を畏れよ!」


 禁呪を教えてもらったおじさん。

 その知識をもとに新しく構築した魔法であった。

 

 巨大な積層型立体魔法陣が三面八臂のバケモノを包む。

 

「四方に座す四獄の狂騒者たち!」


 魔法陣の中心にいる三面八臂のバケモノ。

 その四方を囲むように、四体の巨大なナニカが召喚される。

 

「狂え、狂え、狂え! 痛みを、嘆きを、阿鼻の剣樹、刀山の痛苦を解き放て!!」


無間無明ス・レイヤ・インバース!!】


 カッと積層型立体魔法陣が冥い光を放つ。

 その光が収まったときには、王都の貴族街に巨大な真っ黒な球がうかんでいた。

 

 精霊言語が刻まれた表面が淡く光っている。

 その真っ黒な球は収束していき、最後には虚空へと消えた。

 

「あああああ! やってしまいましたわ!」


 大声をあげるおじさんである。

 母親はなんのことだ、と首を傾げた。

 

「なにか失敗したの?」


「素材がっ! 素材ごと消してしまいましたわ!」


 おじさん、痛恨の極みであった。

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