第307話 おじさん新しいお友だちができる
感動の再会を果たしたタオティエと
その二人を封印の間に置いて、おじさんは通路へとでる。
使い魔たちはなんとか動けるまで回復していたようだ。
『主、どこも怪我をしておらんようだな』
トリスメギストスが声をかける。
「そうですわね。いい経験になりましたわよ」
おじさんは近寄ってきたミタマを抱きあげながら話す。
『……ふむぅ』
なにか言いたげに考えこむトリスメギストスだ。
『なに、気にすることはあるまいよ、筆頭殿。主殿のことだ、悪い方へはむかわん』
『いや、そういうことではないのだが』
と、また口ごもるトリスメギストスである。
そこへ、たたた、と走る音が近づいてきた。
封印の間の扉をばぁんと開けて、飛び出したのはタオティエだ。
くりんくりんのパーマ頭に羊のような角が生えた少女である。
その手にはグッタリとした
「タオちゃんだお! ありがとなんだお!」
にぱあとした笑顔を見せるタオティエ。
その姿に癒やされるおじさんだ。
「タオちゃん、どこも痛いところはないですか?」
「んん。大丈夫なんだお! タオちゃん、元気だお!」
「わたくしはリー=アーリーチャー・カラセベド=クェワと言いますの。リーちゃんとでも呼んでくださいな」
「わかったお! リーちゃんだお!」
うんうんと首を上下に振るタオティエ。
「ところで、タオちゃん」
“なんだお?”と首を傾げる黒髪の少女である。
「その……ヘビちゃん、大丈夫ですの?」
「お? お? コーちゃん、コーちゃん! どうしたんだお?」
タオティが自分の手でグッタリとした
「コーちゃん! どうしたお? 誰にやられたお? タオちゃんが仇をとるお!」
『…………離して、タオちゃん』
「ん! わかったお!」
どうやら自分が握っていたことが原因だと理解できていないようだ。
『……けほ、けほ。タオちゃん、力いっぱい掴んじゃダメです』
「ん? んんー? お? わかったお!!」
『御子様、ありがとうございます』
“いいのですよ”と、おじさんと
それを横で見ていたタオティエが声をあげる。
「あーーー! リーちゃん、タオちゃんのことタオちゃんって言ったお。タオちゃんって言っていいのは仲良しさんだけなんだお! コーちゃんがそう言ってたんだお!」
ふむ、とおじさんは切り返す。
「タオちゃん、わたくしとはもうお友だちです。なので仲良しさんですわ!」
おじさんの言葉に目がこぼれんばかりに見開くタオティエ。
「そうだったお! タオちゃん、リーちゃんとお友だちだったお! 仲良しさんだったお!」
「では、問題ありませんわね」
「ないお!」
また、にぱあと笑うタオティエである。
「ヘビちゃん、苦労しますわね」
『うう……』
言葉もでない
『主よ、当初の目的は達成した。そろそろ一度切り上げた方がいい』
このままでは埒が明かないと感じたのか、トリスメギストスが声をかけた。
「そうですわね。一度戻りましょうか。ヘビちゃん、タオちゃん、わたくしたちは戻ります。また明日にでも参りますから、詳しいお話はそのときにいたしましょう」
『かしこまりました。またのご来訪、お待ちしております』
そんな
「えーー! リーちゃん、帰っちゃうお?」
「また、きますから。約束ですわ」
「約束! わかったお! タオちゃんとリーちゃんの約束だお!」
三度のにぱあとした笑顔であった。
一方で王都の貴族街では、
人間と鳥の中間的な存在へと
四つの目はそのままに、比較的に人間的な顔立ちなものの嘴が突きでた顔。
背中から生えた二対一翼の翼に、四肢の指が尖ったものへ。
筋骨たくましい上裸に、下半身は比喩ではないカモシカのような足に。
全身から噴きでていた炎はおさまったものの、全体的な色味が深い紅色をしている。
「こっからが本番だぞ、騎士ど……」
おじさんちの家令が再度、ナイフを突き入れる。
今度は喉。
突き入れたナイフを、そのまま下方へと引き下ろそうとする。
が、ナイフを持つ手をシエズハオが掴む。
「ぎざまが、ざっぎのやづば……」
家令はその言葉に応えることなく、掴まれた腕を支点としてシエズハオを投げ飛ばす。
その勢いで掴まれていた手も放れる。
間髪入れずに追撃の踏みつけを行なう家令であった。
しかし、シエズハオも油断していたわけではない。
その踏みつけを躱して、家令から距離をとった。
「ちぃ。面倒な奴だな……死ねっ!」
嘴を開いて、放たれたのは轟焔のブレス攻撃であった。
周囲に火が燃え移ろうがかまわず、シエズハオは吐きだしていく。
「退けえええ!」
叫んだのは騎士たちを率いる貴族だ。
結界魔法も並のものでは、ブレス攻撃に耐えきれなかったのである。
「阿呆ですねぇ」
そんな家令の言葉とともに、シエズハオの首筋にナイフがあてられた。
有無を言わさず、今度は喉を横に切り裂く家令だ。
首を飛ばすほどではない。
が、かなり深く切り裂いた。
「けええええええ」
甲高い鳥の鳴き声が響く。
シエズハオの傷が塞がっていくのを見て、家令は黙考する。
倒すには火力が不足しているのだ、と。
では、どうするか。
シエズハオが建物の屋根よりも高く飛び上がる。
そして、再び嘴を開いた。
……マズい。
そう思うと同時に、家令も身体強化を駆使して退避する。
同時に空中からすさまじい勢いで轟焔が襲ってきた。
それは怪しげな儀式を行っている他の
貴族街の一角が炎に飲まれていく。
突入する前に既に、この周辺一帯の区画は避難がすんでいる。
なので多少の被害がでたところで、復興すればいいだけだ。
だが、このままでは被害が拡大するだけである。
「まったく。お嬢様はこうした展開を読んでおられたのでしょうか」
そう呟いて、家令ははめていた手袋を黒いものに変える。
「ふふふ……」
ふさわしくないとはわかっていても、つい頬が緩んでしまう家令だ。
おじさんに手渡された天空龍シリーズ第二弾が火を吹こうとしていた。
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