第305話 おじさん不在の王都で戦いで薔薇乙女十字団が参戦する


 薔薇乙女十字団ローゼンクロイツの部室である。

 

「んーせっかく学園が始まったってのに、リーは休学するし!」


 聖女が愚痴を吐きながら、炭酸水を一気飲みする。

 ぷはぁと言う聖女は居酒屋でビール飲む姿を彷彿とさせた。

 

「お家の事情とのことですから。残念ではありますが、仕方のないことですわ」


 アルベルタ嬢の言葉にパトリーシア嬢が続く。


「そうなのです! リーお姉さまと魔楽器の演奏をしたかったのです!」


「そっち!?」


 アルベルタ嬢がツッコむ。

 てっきり自分と同調してくれたのかと思っていれば、まさかの一言であった。

 

「リー様が欠席だからといって、私たちはのんびりしていられませんわよ」


 アルベルタ嬢の言葉に薔薇乙女十字団ローゼンクロイツ全員が首肯する。

 そうなのだ。

 

 この学期から魔技戦がスタートする。

 そして対校戦まであるのだ。

 できる限り魔法の腕を磨いておく必要がある。


 おじさんがいなくても、案外、真面目に活動をしているのだ。

 薔薇乙女十字団ローゼンクロイツは。

 

 そんなこんなの最中、王都内で爆裂音が響いた。

 全員がすぐさま戦闘態勢をとる薔薇乙女十字団ローゼンクロイツだ。

 

「今のは……パティ?」

 

「アリィ、今は落ちつくのです! こういうときこそ冷静になるのです!」


 そんな二人の言葉に反して、驚きの声をあげたのは聖女であった。


「はぁあああ? あれってどういうことよ!」


 聖女が立ち上がる。

 そして、部室の窓に張りついた。

 

「ちぃ! マズいわね!」


「エーリカ、どういうことかわかるのです?」


 パトリーシア嬢が問う。

 その問いに、しばらくの間をあけて聖女が言った。

 

「アリィ、出るわよ」


「私たちも参戦するってこと?」


「いえ、恐らくは負傷者も多いはずだから後方支援ね」


「なるほど……」


 と、アルベルタ嬢も一瞬だが思案する。

 

「エーリカの言葉に一理あります。薔薇乙女十字団ローゼンクロイツは後方支援を行います」


 こうして薔薇乙女十字団ローゼンクロイツの参戦が決まったのである。


 一方、王都でも邪神の信奉者たちゴールゴームとの戦いが起こっていた。

 王城を中心として、その周辺に貴族たちの住む地域がある。

 その外側に王都の民たちが暮らしているのだ。

 

 貴族たちの住む地域は出入りできる者が限られている。

 平民たちの中だと御用商人が代表的な存在だろう。

 ちなみに御用商人たちが使う下働きの人間も、貴族街に入る場合は事前に認可をうける必要がある。

 

 つまり、ぽっと出・・・・の住民には入れないのだ。

 だが逆を言えば、王都出身・・・・の平民であれば認可さえ下りれば入れる。

 

 一見してセキュリティが高い。

 だが、盲点もある。

 古くから王都に不埒な輩が潜んでいた場合だ。

 邪神の信奉者たちゴールゴームのような。

 

 だから王国の暗部が情報を探っていても、なかなか見つからなかったのだ。

 彼らはてっきり王都に潜伏しているのなら、平民のエリアに居ると思いこんでいたからである。


 それも流入出がハッキリとしない貧民層が多いエリア。 

 犯罪者たちが隠れ、潜むには適していると考えてしまった。


 しかし邪神の信奉者たちゴールゴームは何代も前から王都に潜伏していたのだ。

 結果、ほぼノーチェックの状態だったと言える。

 その原因は邪神の信奉者たちゴールゴームが、最近になって王都へきたと考えたことだ。

 

 当然だがお膝元である王都のことは、普段からチェックを入れている。

 その情報に上がってきていたのは、フェイクだったわけだ。

 実際には何代にも渡って下地を整えてきた。


 では、なぜ公爵家の情報収集部隊は目星をつけることができたのか。

 一つはお嬢様おじさんからの情報である。

“随分と古くから活動しているようですわ”というものだ。


 タルタラッカの古老が邪神の信奉者たちゴールゴームのことを知っていた。

 それを報告していたわけである。

 

 いま一つは公爵家の情報収集部隊は知っていた。

 王国の暗部が優秀なことを。

 だから確信したのだ。

 

 彼らが探していない場所に邪神の信奉者たちゴールゴームがいると。

 だが、情報収集部隊も見誤っていたことがあった。

 それは邪神の信奉者たちゴールゴームの戦力である。

 

「ハッハー! 思ったより大したことねえなあ、おい!」


 中肉中背でやや細身の男だ。

 取り立てて外見的に特徴はない。


 四つの目があること以外は。

 両目の下に、もう一組の両目の異形であった。

 

「これが精鋭と言われる王国騎士たちかよ!」


 威勢の良い言葉を発しながら、その男は四つある目で騎士たちを睨む。

 

邪神の信奉者たちゴールゴーム三巨頭が一人、凶兆のシエズハオを誰かとめてみせろ!」


 地面に伏した騎士を踏みつけながら、豪快に笑うシエズハオである。

 

「ここに居るぞ! 我こそは王都騎士団の勇士ムスタファ・パラッツィ! いざ尋常にっ!」


 金砕棒を手にした巨漢であった。

 

「これ以上、その怪しげな儀式は進めさせん。いくぞっ!」


 金砕棒は鬼の持つ八角の棒に出っ張りがついた武器だ。

 元祖釘バットとでも言えばいいだろうか。

 ただし素材は木材である。

 

 斬るよりも叩き潰す。

 パワータイプが得意とする武器である。

 

 勢いよく振り下ろされる金砕棒。

 だが、シエズハオは微動だにしなかった。

 

 そのまま頭頂部で金砕棒を受けるシエズハオ。

 だが、ムスタファが振り下ろした金砕棒は粉砕してしまう。

 

「はあ? 我が相棒が!」


「阿呆がっ! その程度で動揺するな!」


 思いきりムスタファの腹を殴りつけるシエズハオであった。

 金属製の鎧がめこりと凹む。

 ムスタファはそのまま膝から崩れ落ちてしまう。

 

「ハッハー! やっぱり弱えじゃねえかよ!」


 調子にのるシエズハオ。

 その背後に忍び寄るおじさんちの家令の姿があった。

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