第298話 おじさん不在の王都で母親と侍女は奮闘する


「やりましたわ、奥様」


 黒焦げになって、プスプスと煙をあげるパルコレーバー。

 その姿を確認した侍女が言う。

 だが、母親はぢっとパルコレーバーを見ている。

 

「いえ、まだね。まだ魔力が動いているわ」


 微弱。

 だが、確実にパルコレーバーの魔力は動いているのだ。

 それはとりもなおさず死んでいないことを意味する。

 魔力の感知能力に優れているからこそ、母親はパルコレーバーの擬態を見逃さなかった。

 

【炎弾・改三式】


 おじさんの氷弾を炎をしたバージョンである。

 しかも最新版だ。

 サングラスで魔力を見て、精霊言語を学んだ成果であった。

 

「ポッポポポポ、ポッポッポポッポー!」


 黒焦げになっていたパルコレーバーが声をあげた。

 そして、母親の放った炎弾に対して結界を張る。

 だが、その結界を破るのが三式なのだ。

 

「ポッポー!」


 悲鳴かどうか判断のつきにくい声をあげるパルコレーバー。

 その身はさらに母親の放った炎弾で焼かれていた。

 

「ざますざますざますざます! いい加減にするざます!」


 怒声とともにパルコレーバーの姿がペカーと光る。

 そして光が収まったときには、瀕死だったはずの身体が修復されていた。

 

 さらに巨大な樽のような老婆から、姿が変わっていく。

 老婆の顔はそのままに腕が翼へと変わり、下半身は猛禽類の足のように変化する。

 そして、顔と足先以外が羽毛に包まれた。

 

 ついでとばかりに身長も三メートルほどになっている。

 ――ハルピュイアである。

 

「ふぅ……本当は見せる予定ではなかったざます。邪神様の力を得たこの美しい姿は、お前たちのような不自由な顔をした者たちには酷ざますからね!」


 皺だらけの老婆の顔をしたパルコレーバーが、にちゃあとした笑みを浮かべた。


「…………不敬ですわね」


 メイドの怒りと呼応するように、腕と足の装備からでた刃がじゃきんと音を鳴らした。

 そして、メイドがフッと息を吐く。

 

 まさに瞬間移動とも言える速度で間合いを詰め、パルコレーバーの首を刈るような蹴りを放つ。

 が、パルコレーバーが翼を使ってガードした。

 

「ポポポポ! 貧弱貧弱ざます。蹴りとはこうやるざます! けええ!」


 恐竜を思わせる鳥足で放たれる蹴り。

 侍女は身を捻って躱すが、その余波に巻きこまれて後退せざるを得なかった。

 

「ちぃ! 奥様、かなり力が上がっています。お気をつけください」


 パルコレーバーから目を離すことなく、忠告する侍女であった。


「そうね、少し試してみようかしら」


【炎弾・改三式】


 先ほどと同じ炎弾で牽制を入れる母親である。

 

「ポーポッポッポ! このパルコレーバーに同じ魔法は通用しないざます!」


 自信満々で結界を張るパルコレーバー。

 だが、改三式は魔力を吸収する性質を与えられたものだ。

 結界などなかったように貫いて、パルコレーバーに直撃した。

 

「みぎゃあああああ! ざますざますざます!」


 なぜ“ざます”という語尾を単体で使うのか。

 そのことを不思議に思う母親であった。


「ううん。なんだか拍子抜けね。聞いてはいたけど、あんまり強くないわね」


【水弾・改三式】


【雷弾・改三式】


【炎弾・改三式】


 小さく呟きながらも、母親は次々と防御不能の魔法を放っていく。

 ことごとくが狙い過たず命中するのだ。

 パルコレーバーはたまったものではなかった。

 

「ポッポ―! もう怒ったざます!」


 両手の翼を羽ばたかせて、空中へと浮き上がる。

 そして、母親と侍女を見下ろして言う。

 

「ポーポッポッポ! 遊びはそろそろ終わりにするざます!」


 風の魔法を操りつつ、凶悪な足を前面にだして急激に下降してくるパルコレーバーである。

 それは猛禽類さながらの攻撃であった。

 

 侍女が母親をかばうように前へと進み、パルコレーバーにむかって手を突きだす。


【メイド・セイバー・フェノメン・リッパー】


 だが、おじさんの開発した装備に抜かりはない。

 遠距離攻撃が苦手な侍女でも使える手段を搭載しているのだ。

 

 トリガーワードともに前腕部側面の刃が回転しながら前方に射出されていく。

 ハルピュイアと変化したパルコレーバーが空中で身をよじって躱す。

 

「ざーんねんざますぅ! そんな武器ものにやられる天空の女王ではないざます! ……ぴぎゃあああああああ!」


 おじさんの作った刃は隙の生じない二段構えである。

 念のためにとブーメランのように還ってくるように術式を組んでいたのだ。

 

 油断したパルコレーバーの背後から戻ってきた刃が翼を切り裂く。

 そして侍女の腕へと戻るのだ。

 

 推進力を失って地に落ちるパルコレーバー。

 

「ざます! 久しぶりにぶち切れたざます!」


 顔面から地面へと落ちた割には元気である。

 血走った目で母親と侍女を捉えた。


「金字塔の頂に座すモーの主よ、谷風を呼ぶ鼓笛隊の音を聞け」


【渦巻く風の贄】


 パルコレーバーの足下に竜巻が生じる。

 そのまま空中へと弾かれるように跳ぶ。

 どうやら攻撃のための魔法ではなかったようである。

 

「もう油断しないざます! いつもの二倍の速度、三倍の回転で行くざます!」


 パルコレーバーが魔法を操りつつ、恐るべき速度で襲いかかった。

 

【渦巻く風の贄】


 母親である。

 丸パクリした竜巻の魔法で、パルコレーバーを打ち上げた。

 

「準備を整えるわ。一分、足止めをなさい」


「畏まりました。……奥様。倒してしまってもかまわないのでしょう?」


 侍女の自信たっぷりの言葉に、笑って頷く母親であった。

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