第293話 おじさん古代遺跡で依頼される


 おじさんたち一行は階段状ピラミッドの頂点にある神殿へと足を踏み入れる。

 空を飛んできたのだが、その間に攻撃されることもなかった。

 つまり神殿にいる何者かは、少なくとも現時点における敵意はないのだろう。

 

 石造りの壁と柱で構成されるシンプルな神殿だ。

 ただし内部には華麗な装飾を施された壁画や天井画がある。

 

 色彩豊かに描かれたそれは神話の一幕でもあるように見えた。

 黄金龍を従えた男神らしきものが描かれている。

 

 あれは……天空龍なのだろうか。

 なんとなくフォルムが似ているような気がするおじさんだ。

 

 それに相対するのは女神だろうか。

 なんだかとっても物騒な背景が描かれている。

 

 壁画に目線をやりつつ、奥へと進んでいく。

 神殿の奥には一段高くなったところに玉座が置かれていた。

 石造りで装飾の多い玉座だ。

 シンプルに座りにくそうだと、おじさんは思う。

 

 その玉座の後ろ。

 大きな鏡が置かれている。


 おじさんの記憶で言えば、銅鏡に近い。

 青銅を型に流しこんだ後に、ピッカピカになるまで表面を磨いたものだ。

 

 先ほどの光はこの銅鏡を使ったものだろうか。

 おじさんが考えていると、銅鏡が光を放った。

 

 光の中からなにかがでてくる。

 それは二対四翼を持つ蛇であった。

 

 エメラルドグリーンの美しい体表に、炎を思わせる深紅の翼。

 人によっては爬虫類に生理的な嫌悪感を催すことがある。

 だが、おじさん爬虫類に嫌悪感を抱かないタイプだ。

 なので素直にかっこいいと思った。

 

『御足労をわずらわせてしまい申し訳ありません、御子様』


 念話というやつだろう。

 頭の中に中性的な声が響く。

 ぺこりと頭を下げるところをみると、実に人間的である。

 

『私はこの迷宮ダンジョンコアでございます』


「ちょっと待った!」


 いきなり核心に触れるようなことを言わなかったか。

 

「ここは迷宮ダンジョンですの?」


『御子様の仰せのとおり、迷宮ダンジョンでございます』


 いや、おかしいとは思っていたのだ。

 いくら何でもきれい過ぎたから。

 地上にあった階段状ピラミッドの部分は苔むしていた。

 

 しかし、内部に入れば劣化があまり見られなかったのだ。

 そして地下都市である。

 まるっときれいなままなのは、いくら何でもおかしい。

 

 その点もなにか謎があると思っていたのだ、おじさんは。

 だが、いきなり明かされてしまった。

 

 おじさんはミタマを見る。

 ミタマは小さく首を横に振っていた。

 自分は知らないというジェスチャーである。

 

 次に水の精霊アンダインを見た。

 水の精霊アンダインはニマニマとした笑顔をうかべている。

 

「ユトゥルナお姉さま」


『でへへ。なぁにぃ』


「ご存じでしたの?」


『…………リーちゃんのびっくりする顔が見たくて、やっちゃった』

 

 その言葉が終わらぬ内に、スッと距離をとるトリスメギストスである。

 嫌な予感は当たったのだ。


「まぁ……いいでしょう。今は話を聞きたいのですわ」


 おじさんが迷宮ダンジョンコアに視線を戻す。

 

「わたくしに何か言いたいことがあるのでしょう?」


 エメラルドグリーンの蛇がコクリと首肯する。

 

『御子様に願いたいことはひとつ。この地の魔力異常の原因を取り除いていただきたいのです』


“ほう”とおじさんは声を漏らす。

 そもそも、おじさんが先にここに来たのも魔力異常の原因を突き止めることもある。

 できれば原因を取り除くことも。

 なので、おじさんに否はなかった。

 

「原因はわかっているのですか?」


 迷宮ダンジョンコアが再び首肯した。

 翼をパタパタとさせているのが、ちょっと愛らしい。


『原因はタオティエでございます』


 タオティエ。

 魔物を喰らう魔物から転じて魔除けにデザインされていた怪物である。

 その怪物が実在する?

 

『かつてタオティエは迷宮ダンジョンを守護していたのです。それがいつしかおかしくなってしまいまして。ここの王であったマスターとともに、地下深くに閉じこめるしかありませんでした。しかし、タオティエの暴走は止まらなかったのです』


「……暴走」


『暴食の王と化したタオティエは大地の底にある龍脈まで喰らい、場を乱してしまいました。我らも討伐をしようとしたのですが、龍脈の力を得たタオティエには歯が立たたなかったのです』


「それで封印を続けていた、と」


『龍脈を乱すことは許されない大罪。それを放置するしかなかった我らもまた大罪に加担せし者。罰は甘んじてお受けします。我が身の不甲斐なさを恥じて願います。御子様、どうか御力をお貸しくださいませ』


「承知しました。あなたもまた公爵家領に住まう者。弱き民の剣となり、盾となるのが貴族の務めですわ。このリー=アーリーチャー・カラセベド=クェワ。民の願いを聞いて退くことはありません」


 おじさんはニコリと笑う。

 こうしておじさんはタオティエ討伐を引きうけてしまったのである。

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