第291話 おじさんようやく遺跡に突入する
そのくらい完熟マンゴーが美味しかったのだ。
魔力の供給さえあれば、無限に湧きでる泉の完成であった。
上機嫌になったおじさんは、引っこ抜いた木と錬成魔法で拠点を構築する。
土魔法も併用して、『コ』の字型の建物を作り上げた。
常時、数十人が利用することを考慮して、入浴施設や食料の備蓄庫も併設してある。
ひととおりの施設を作るのに、小一時間ほどの時間がかかった。
おじさんにしては遅い。
やはり魔法の使いにくさが問題である。
とは言え、だ。
常人からすれば、おじさんは異常なほど魔法を使えている。
「んーまだ馴染みませんわね」
ぐっぱと指を広げて閉じる動作を繰りかえすおじさんである。
『十分であると思うぞ、主よ』
「ぜんっぜんですわね!」
トリスメギストスと会話をしていると、バベルと
『主殿、この辺りは実りが豊かなことよ』
バベルが手を振ると、どさりと果実が地面にならぶ。
おじさんが見たことがある果実もあれば、見たことがないものもある。
それらを宝珠次元庫に収納したおじさんだ。
『リーちゃん! お姉ちゃんもとってきた! そこの性悪狐とはちがうわよ』
それは薬草なのか、毒草なのか。
判断がつかない。
『…………』
ミタマは何も言わずに、おじさんの側にはべっている。
ふっさふさの尻尾をおじさんの足に絡ませながら。
その表情はどこか勝ち誇っているようだ。
『きいいいい! なんとか言いなさいよ!』
ハンカチでもあれば、確実に端を噛んでいそうな
「ご苦労様でした。こちらも終わりましたので、解析は後にして遺跡へ行きましょうか」
おじさんはしれっと話を進める。
その言葉に従う面々であった。
余計なことに時間をとられたくない。
その思いは、
「ミタマ、あの遺跡の入り口はわかりますか?」
『はい、天子様。こなたが案内を
先導するミタマは普通サイズの狐の姿に戻った。
そのまま階段状の遺跡を登っていく。
階段状とは言っても、一段が大きい。
だいたい八十センチくらいはあるだろうか。
そのためおじさんは魔法を使って跳んでいた。
このくらいの身体強化なら問題はないようだ。
一段とばしで登っていくおじさんである。
遺跡の階段を三分の一ほど登ったところで、ミタマから声がかかった。
『天子様、この段にある出っ張りを押していただけますかや?』
見れば、一辺が十センチほどの石が出っ張っている。
手で押しこんでみると、がごん、と大きな音が鳴った。
ゴゴゴ、と音を立てて階段状に組まれた石の一部が内部へと退がっていく。
斜め下の方向に三段分が収納されるようになっていたのだ。
少し待っていると、再び“がごん”と音が鳴る。
すると、ぽっかりと階段部分に入り口ができていた。
「ほう!」
思わず感嘆の声がでてしまうおじさんである。
『主殿、先に麻呂が参ろう』
おじさんが承諾するのを見てから、バベルが少し身をかがませて中に入っていく。
『ふむ。主殿、問題ないでおじゃる』
こうしておじさんたちは古代遺跡の内部に突入したのであった。
光球をうかべて歩くおじさんである。
内部は今のところ一本道だが、緩やかな下り傾斜がついていた。
体感で五分ほどだろうか。
一本道の先には、大きな金属製の扉がつけられていた。
表面には見事な装飾がなされている。
幾何学模様のように見えるし、それが異形の顔を模しているようにも見えた。
『ふむぅ。これはタオティエの紋様であるな。魔物をも食す魔物であると伝わっておるのだ。そこから転じて主に魔除けの紋様として使われていたという記録がある』
「時代的にはいつ頃のものでしょう?」
『ううむ。タオティエの紋様そのものは後期魔導帝国時代でも使われていた。いつから使われ始めたのかは明らかになっておらんな』
「つまり前期魔導帝国時代よりも以前の遺跡かもしれない、と」
王国において最も古い時代とされるのが前期魔導帝国時代だ。
ここより前の時代については、未だに遺跡が発見されていない。
一部の専門家や好事家たちの研究では、さらに前の時代の痕跡があるとはされている。
だが、決定的な証拠となるものがなかったのだ。
もし、この遺跡が前期魔導帝国時代よりもさらに古い物だとすれば、大発見という言葉すら陳腐になるだろう。
冷静を装ってはいたが、おじさんは興奮していた。
とんでもない遺跡かもしれないのだ。
「お姉さま! これはスゴいですわよ」
『むっふっふう。お姉ちゃん、がんばったもん!』
そんなやりとりをしつつ、おじさんたちは扉を開けて先へと進む。
扉には鍵などもかけられておらず、すんなりと開けることができたのだ。
扉の先もまた通路ではあった。
しかし、目視でわかるほど短い距離である。
数メートル先には、大きな空間が広がっているのがわかる。
足を進めると、そこは十メートル四方ほどの大きさの部屋だった。
おじさんは光球をさらに作って、部屋全体を照らす。
部屋の中央には祭壇のようなものがある。
さらに祭壇の奥には、タオティエの紋様が刻まれた扉が見えた。
それよりもおじさんの目を奪ったのは壁画である。
一部は剥がれているものの、壁が黄金色に輝いていた。
その上になにをモチーフにしたのか、壁画がいくつも描かれているのだ。
「トリちゃん、この壁画はなにかわかりますか?」
『いや、我にもわからんものだな。このような様式は記録されておらん』
おじさんが
『お姉ちゃんも知らないわねぇ! だって人の生活に関わってこなかったもの!』
この壁画の謎は後回しだ。
まだまだ遺跡の探索は続くようである。
正直に言って、おじさんはワクワクがとまらなくなっていた。
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